
情報誌CEL
"伝わらない"から始まるコミュニケーション ――言葉のない世界で伝え合い、助け合う心・技・体
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2025年09月01日
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尾中 友哉 |
住まい・生活
都市・コミュニティ
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ライフスタイル
コミュニティ・デザイン
消費生活
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情報誌CEL
(Vol.137) |
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日常生活において「言ったのに伝わらない」「相手が本当に理解しているのか不安だ」と感じる場面はないだろうか。人と人との直接的なつながりが希薄になっているとされる現在、コミュニケーションのあり方において「伝えること」と「伝わること」の間に横たわるギャップをあらためて考える必要性は大きい。そうしたなか、「デフ」と呼ばれる聴覚障がい者と、聴者による「新しい価値」創造を目指す先進的活動で注目される企業がある。大阪に拠点を置く(株)サイレントボイス代表取締役で、自らもデフの両親を持つ尾中友哉氏に「伝え合い、助け合う」関係のためのアプローチとツール、ルールを伺った。
「伝えること/伝わること」において、最も一般的なはずの言葉を使わない、そんな企業研修がある。無言語空間で行う「DENSHIN」は、表情とジェスチャーだけで互いの意思を伝え合う体験を通し、日頃のコミュニケーションを見つめ直すという研修プログラム。そこでは日常、部下を統率する立場にある管理職が、言葉を使えないなかで苦慮しながら身振り手振りを交えて伝えようと努め、受け取る側の部下は上司の言わんとすることをくみ取ろうと、その一挙手一投足を真剣に見つめている姿があった。
プログラムのナビゲーター(講師)を務めるのは、研修を提供する(株)サイレントボイスのろう者・難聴者のスタッフで、社内では彼らに対し「DEAF(デフ)」という呼称を用いている。2016年、「デフを両親に持つ聴者」「デフ当事者」「デフと出会ったことのなかった聴者」の3人で株式会社を設立した同社は、「伝わらないからこそわかり合える」をモットーに、「優劣のものさしを変え、デフの活躍の場を増やす」とのビジョンを掲げ活動中。同社の代表取締役を務める尾中氏自身、「CODA(コーダ)」とも呼ばれる「デフを両親に持つ聴者」である。
「助ける、助けられる」を超え、新たな価値を共に生み出す関係を
「両親がデフで僕だけが聞こえるとなると、コミュニケーションが難しいと思われるかもしれません。でも、家族の共通言語として手話がありましたので、お互いの思いが伝わりにくいとか、コミュニケーションにおいて何かが欠けていると感じたとかはありません。