
情報誌CEL
それでも紙で伝える理由 ――「伝えること」の新しい輪郭をたどる
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2025年09月01日
|
中西 功 |
住まい・生活
都市・コミュニティ
|
ライフスタイル
コミュニティ・デザイン
消費生活
|
情報誌CEL
(Vol.137) |
|
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
手づくりの冊子「ZINE(ジン)」を持ち寄る展示即売会=ZINEフェスが全国で開かれ、静かな広がりを見せている。そんな動きを支えているのが、ブックカルチャークラブを主宰する中西功氏だ。〈作る〉〈刷る〉〈売る〉〈集う〉という一連のプロセスを通じて、本や印刷文化を媒介とした多様な表現を支える中西氏の活動からは、デジタル全盛の今、なぜ人々は紙という手段を選び、どのように信頼を築こうとしているのか、その背景にある動機と社会的な文脈が見えてくる。情報があふれる現代において、手渡しだからこそ育まれる「伝わり方」と、紙メディアが担う新たな役割を探る。
手づくり冊子「ZINE」が集まるフェスが今ブームに
東京浅草・浅草寺にほど近く、観光客で賑わうエリアの一角にある都立産業貿易センター台東館。2025年6月、ここで開かれていたのは「ZINEフェス東京」だ。2フロアを使い、ZINEと呼ばれる手づくり本や冊子、さらに関連したグッズ類などが所狭しと並べられ、開場直後から早くも熱気が充満している。また、売り手が同時に買い手でもあるためか、来場者どうしのニッチな会話があちらこちらから聞こえてくるのが面白い。
冊子をいくつか手にとってみる。たとえば、横浜・崎陽軒のシウマイ弁当の具材の食べる順番を真面目に検証した冊子『食べ方図説 崎陽軒シウマイ弁当編』や、公園の懐かしさ漂う遊具を夜な夜なこっそりカメラに収めた写真集『公園遊具』などマニアックなものから、保育園から高校まで一緒に過ごした親友との日々の思い出を文章と漫画にまとめた『曲がり角のふたり』、自身のあまり解明されていない病理について綴ったエッセイ『化学物質過敏症の記録』など私的でまさに手づくり感あふれる小冊子も多くみられた。いずれも自分の言葉で、自分の手で綴られており、そこには自分の興味や感じていることをそのままダイレクトに伝えたい、伝わってほしいという動機があるようにも思えてくる。
そもそもこの「ZINE」。あまり耳馴染みのない言葉だが、これはMagazineのzineから派生しており、ある特定のモノやコトへのファン(好き)をまとめた冊子「ファンZINE」がルーツとも言われている。