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Home>論文・レポート検索>世界の記憶にふれる ―― みんぱく収蔵品と研究者のまなざし 第1回

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情報誌CEL

小山 茂樹

2025年09月01日

世界の記憶にふれる ―― みんぱく収蔵品と研究者のまなざし 第1回

作成年月日

執筆者名

研究領域

カテゴリー

媒体(Vol.)

備考

2025年09月01日

小山 茂樹

都市・コミュニティ
住まい・生活

まちづくり
地域活性化
ライフスタイル

情報誌CEL (Vol.137)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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1970年大阪万博の跡地、万博記念公園にある国立民族学博物館(みんぱく)。
1974年創設以来、世界各地の文化を物語る膨大な収蔵品を蓄積してきた。
そのなかから毎回一品を取り上げ、収集の背景や研究者の思いを通して、世界の多様な文化に迫る。


クラカヌーは、今年9月から始まる特別展[*1]で、みんぱく約50年の歴史上、初めて公開される資料だ。収集されたのは1984年、全長10mを超える大きさということもあり、これまで展示されることなく収集時の梱包のまま収蔵庫の中で眠っていた。
参与観察[*2]によるフィールドワークを基礎とする文化人類学の出発点となったのが、1910年代におこなわれたマリノフスキー[*3]によるパプアニューギニア島と う嶼し よ部ぶ での調査だ。この調査が島と島の間でおこなわれる財貨(腕輪や首飾り)の交易(クラ交易)が財の交換だけでなく、島と島を結びつける儀礼的な制度であることを明らかにした。この交易に使われるのがクラカヌーだ。
収集された1980年代、帆で走る航海カヌーを日常的に使っている地域は、太平洋でも数少なくなっていた。木造の舟がFRP[*4]などの新しい素材に入れ替わっていくなかで、伝統技術を伝える貴重な資料として収集された。みんぱくが世界各地の物質文化の収集に力を注いでいた時期でもあったという。
人はなぜ海を渡るのかというテーマで研究する小野林太郎さんにとって、伝統的な材料を使って建造され、今も現役で活躍するクラカヌーは舟と人類の歴史を考えるうえで象徴的なものだという。
そんな貴重な資料でありながら、長年収蔵庫で眠っていたこのクラカヌー。その本来の姿を再現するため、帆を艤装することになった。
しかし、カヌーと一緒に収集されていたパンダナスの葉を縫い合わせた帆は傷みがひどく展示に耐えられるものではなかった。


[*1]特別展「舟と人類―アジア・オセアニアの海の暮らし」(2025年9月4日〜12月9日)
[*2]調査者が異文化社会に入り込み、共に生活しながら観察・資料収集を行う研究手法。
[*3]イギリスの人類学者。参与観察の方法論を確立した。
[*4]繊維強化プラスチック