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情報誌CEL

岩佐 倫太郎

2016年07月01日

コラム「衣食住遊」夕涼みに元禄人の遊び心を見つけた

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2016年07月01日

岩佐 倫太郎

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情報誌CEL (Vol.113)

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越後屋に衣裂く音や衣替え  其角

元禄の俳人、宝井其角の代表作のひとつを挙げてみた。句意はもうお判りのように、夏の衣替えのため、越後屋(後の三越)にお客が押し掛け、店頭では次々に布を裂いて売る音が響くよ、といったもの。耳から伝わる感覚が、鮮やかに江戸の町の初夏を伝える。ちなみに江戸の平和は300年ちかく続き、中でもこの句の元禄時代は、商業の興隆とともに俳諧や浮世絵など庶民文化が花を咲かせ、日本のルネサンスと言ってもいい時代だ。富裕な町民たちも経済力をもとに、自負を大いに強めた。

夕涼みよくぞ男に生まれける  其角

其角にはこんな有名な句もある。浴衣をもろ肌脱ぎにした伊達な男の姿が目に浮かぶ。其角の師匠は芭蕉だが、師が枯淡な田園詩人とするなら、弟子は才気煥発のシティ・ボーイ。酒と遊びが大好きで、性格は磊落。句も都会人だけにモダンで切れ味鋭く、大衆の心をつかむ点では、現代の広告コピーに通ずる。筆者が敬愛する俳人である。
ところで、この句の詠まれた場所はどこなのか。おそらくは大川(隅田川)の「涼み船」ではないか。大坂と同じく江戸は舟運都市。屋形船に乗り込み大川に出ると涼風が、ほろ酔い気分の顔や体をなでるように吹きぬける。見れば月も川向うから昇ってくるではないか!そんな颯々たる夏の納涼図と見るのが妥当だろう。そこから筆者はさらに妄想を働かせて、吉原に向かう舟、「猪牙」の船上ではないか、とも考えてみたが深読みに過ぎるだろうか。
それはともかく、江戸人の納涼といえば、取り上げないわけにいかない絵がある。「納涼図屏風」(国宝)。作者は、狩野探幽の高弟の久隅守景。生没年は不詳ながら、絵は元禄かその直前の作と推定される。まずは絵をご覧いただきたいのだが、このリラックスぶりはどうだろう。ひょうたんを這わせたつる棚の下、農家だろうか、一家三人の睦まじい夕涼み。今日は早く仕事を終えたのかな。それともお盆だったか。若い女房は行水の洗い髪のまま、半裸の姿。背なかの子供も片肌脱いで実に可愛い。男はもうすでに夕食に一献頂いたのか、赤ら顔にも見える。何憚ることのない庶民の夕べのくつろぎ。頬杖などついて、月の光の下、「ああ、我が家は極楽だなあ!」と悦に入ってるのか。
狩野家は幕府の発注で、虎や鷹などの襖絵を謹直で権威主義的なスタイルで集団制作したが、そんな折、守景は探幽が頼る一番の片腕だった。