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情報誌CEL

河瀬 隆

2005年06月30日

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2005年06月30日

河瀬 隆

住まい・生活

その他

情報誌CEL (Vol.73)

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 大阪の街角で、胸にIDカードを下げ、「ビッグイシュー」という雑誌を高く掲げて販売活動をしている人の姿をよく見かける。雑誌「ビッグイシュー」については、テレビをはじめ多くのマスコミで取り上げられているので、ご承知の方も多いだろう。もともと「ビッグイシュー」は、ホームレスの人たちが販売する初の雑誌として一九九一年にロンドンで誕生した。日本でも二〇〇三年九月に、ホームレスの人たちの仕事をつくることを目指し、大阪で「日本版」が創刊された。

 ビッグイシューの仕組みは至って簡単。ホームレスである販売員は、最初に一〇冊を無料で受け取る。それを一冊二〇〇円で販売し、その売り上げ二千円を元手に、以後は一冊九〇円で仕入れ、販売するごとに差額の一一〇円を収入として得る。この仕組みは、ビッグイシューの基本コンセプト=「セルフヘルプ」の考えに基づいたもので、自分でおカネを稼ぎある程度の経済的自立を目指し、その達成感によって前向きに生きる力を養おうというのである。

 フリージャーナリストの櫛田佳代さんは、ふとしたきっかけでこの雑誌と出会い、販売員のホームレスの人たちへの取材を通じて「人間臭さも含めた感動」を覚える。そして、彼女の優しい眼差しから、日々展開する暮らしや販売活動のドラマを『ビッグイシューと陽気なホームレスの復活戦』(Bkc刊)の中で面白可笑しく描いている。

 例えば六三歳で元「蕎麦打ち職人」の大川さんは、「自分だけ売れるようになったからといって抜けることはできん」と言って、自己の力で生活できるホームレスを一人でも増やすことに人生最後の夢を賭けている。また、初めは「人生の負け」を認めるようで、人に頭を下げられなかった小山さんも、周囲の優しさにふれるうちに自然と頭が下がるようになっていくのである。ある時、販売員の一人は、櫛田さんにこう言っている。「(ビッグイシューの)スタッフとか佐野さん(有限会社ビッグイシュー日本・代表)とか見ていると、(彼らと自分たちの関係は)会社と販売員っていうつながりじゃないんだよな。(スタッフは)もちろん給料は貰っているんだろうけど、それ以上の内面的サポートをしてくれた。もしそれがなかったら、みんなもうとっくに辞めてるよ。公園なんかでつるんでいたって、ホームレスってのは、やっぱり孤独なんだよ。だから『やっと仲間を見つけたんだ』っていうようなところもあるんだ(カッコ内加筆)」。

 私はこの本を読んでいて、「セルフエスティーム」という言葉を思い出した。セルフエスティームとは、自分自身に対する気持ちがポジティブで好意的であること。つまりポジティブな自己概念のことである。自分が自分のことを好意的に思えるなら、思考や行動に柔軟性やユーモアがもて、思慮深く相手の気持ちも思い遣ることができ、創造的で生産的な行動がとれるというのだ。私はこの言葉を会社運営の組織論の文脈の中で聞いたが、実はあらゆるコミュニティでみごとに成り立つキーワードだと思ったのである。

 私たちはこの社会の中にあって、様々なレベルの世界で生きている。一人の個人や家族という「近い」世界から、国家という「遠い」世界の一員としてまで。その「中間」に「コミュニティ」がある。そして、ビッグイシューもひとつのコミュニティ。その支え合う仕組みの中で、励まされ、自分への自信と尊厳を回復していく。「ビッグイシューで人生やり直し!」。この言葉の中に、今日的な意味でのコミュニティのあり方を解く鍵が潜んでいるような気がしたのである。――河瀬 隆