
2026年03月02日
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2026年03月02日 |
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都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.138) |
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1970年大阪万博の跡地、万博記念公園にある国立民族学博物館(みんぱく)。1974年創設以来、世界各地の文化を物語る膨大な収蔵品を蓄積してきた。そのなかから毎回一品を取り上げ、収集の背景や研究者の思いを通して、世界の多様な文化に迫る。
展示場のほの暗い空間のなかに白くまぶしく浮かび上がるドレスがある。とんがり帽子が特徴的なカザフの花嫁衣装である。中央アジアを舞台にさまざまな結婚物語が描かれる森薫さんの人気漫画『乙嫁語り』を思い出す人も多いのではないだろうか。
この花嫁衣装は、中央・北アジア展示の人生儀礼のコーナーを担当した藤本透子さんが2014年にカザフスタンで収集したものだ。藤本さんによると、とんがり帽子の「サウケレ」はテュルク系民族の天の神、テングリ信仰に結びつくとされ、先端の羽根飾りは邪視避けの意味がある。邪視とは妬みの眼差しであり、視線を向けられた人には災いがあるという民間信仰で、視線が羽根飾りに向けられることで、花嫁自身は守られるのだという。2000年代までは西洋風のウエディングドレスが主流だったが、2010年代にこうした伝統的なテイストを現代風にアレンジしたスタイルに変化した。
そもそも遊牧民にとっての結婚は、一族と一族のつながりを強固なものとするという重要な意味を持っていた。20世紀初頭までは、親が息子や娘の結婚相手を決めた。男性側が結納として家畜を相手方に渡し、娘の方は嫁入り道具を揃えて嫁ぐのが一般的で、結納の家畜を用意できない男性は時に実力行使に出た。若い娘をさらって結婚してしまう、いわゆる誘拐婚である。娘の合意のある場合もあれば、ない場合もあった。
ソ連時代、親が決める結婚は、本人の意思を無視しているということになり結納金も禁止された。自分が決めていいということになった時に、娘をさらって逃げる方法が恋愛結婚の一つの形として定着していったのだという。
ソ連解体後は、価値観も揺れ動いた。この時期に娘の合意なしに連れ去ってしまうケースが増えたという調査結果もある。その後、女性の意思を十分に尊重すべきという社会的議論が起き、2025年に誘拐婚を正式に禁止する法律が制定された。
情報誌CEL