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情報誌CEL

北川 フラム

2011年09月30日

土と大地の芸術がつなぐもの

作成年月日

執筆者名

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媒体(Vol.)

備考

2011年09月30日

北川 フラム

エネルギー・環境
都市・コミュニティ

地域環境
その他
地域活性化

情報誌CEL (Vol.97)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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 この15年ほど、過疎の地域にかかわって地域おこしのプロジェクトのディレクターをやっている。私の基礎は美術だが、仕事は地域おこしのディレクターだ。そこで感じてきたことを書こう。
 新潟県が長野県と接するあたり、長野県の栄村と新潟県の津南(つなん)町は秋山郷といってマタギの郷であり、昔、鈴木牧之(ぼくし)が『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』に記した秘境だが、この津南町と十日町市を含む760km2の巨大な地域で「越後妻有(つまり)アートトリエンナーレ・大地の芸術祭」というお祭を、2000年の第1回を皮切りに、3年毎に行ってきて、来年は第5回を迎える。まずはそこでの話だ。
 2003年の第2回に古郡弘というアーチストがやってきて、減反でその年使われていなかった棚田2枚をベースに巨大な土の砦を築いてしまった。この話が愉快だ。
 一言でいうと、このアーチストは計画的でない。前の回も違う集落の神社近くに、工事用単管を800本も差し込んで、それを手懸りに一人でえんえんと神様の産室をつくりだして、はじめは何をやるのかと疑いの目で見ていた地域の人が、やがては驚き、ついには哀れになって手伝い出し、子供たちが布切れでその土の産室を荘厳したという、いわくつきの作業をした人だったからだ。製作中に覗きに行ったが、その土蔵から出てきたのは顔が赤銅色で身体全体が黒褐色の土人形の古郡さんだった。誰にも助けを請わない、先のことは考えていなさそう(?)な、そのアーチストは、今度は田んぼを使いたいという。それならば、と大字(おおあざ)全体が協力的でパワフルな下条(げじょう)地域に話をもっていったのだ。
 田んぼ一反を使って砦のような土壁をつくるという。田んぼの土と、コッパと、藁を使用する伝統的な工法である。しかし仕事は遅々として進まない。いくら協力的といっても農村地帯のお年寄りは忙しい。仕事のあいまを縫っての作業はあと3週間という時になってまだ予定の半分にもいっていなかった。そこでこの地域の長老たちはとんでもない号令を地域住民に発したのだ。
 「勤め人は有給休暇を消化して現場に入れ、子供たちは学校が終わったら、家に帰らなくてよいから現場に行け」。こうして、ほとんどが雨に崇られた開幕前の20日間、坂道に板と蓙(ござ)を引き、畔に滑り、泥田のなかで格闘し、当初の計画を超える隠し砦のような誇らしい作品を完成させたのだった。まさに映画「七人の侍」の戦いのシーンを彷彿させるような作業だった。国道を折れて幾つか曲がると、棚田に聳える土の城壁はまさに圧巻であり、往時の百姓一揆を思わせる壮観だった。噂は噂を呼び、訪れる人5万人余。はたして会期終了時、来るべき豪雪と、来年は田植をしなければならず、この城砦を取り壊さねばならぬので、土地の人々の落胆は見るも気の毒なほどだった。取り壊しの前日、ここでコンサートが開かれたが、松明(たいまつ)が煌煌と照らされる田の砦舞台を囲む人々で、あたり一面の道と田んぼはギッシリと埋まり、その熱気の凄さは今も語り草になっているほどである。