
豊田 尚吾
                 
                
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                   2008年05月26日  | 
                
                    豊田 尚吾
                    
                    
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                日刊工業新聞  | 
              
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(7)地域通貨発展、企業の協力も必要
2008/05/26 日刊工業新聞 31ページ 955文字
地域経済が疲弊し地域コミュニティの基盤が危うくなっている。地産地消の事例でも述べたように、経済面から言えば、他地域からの輸入や移入(国内他地域からの財を買うこと)が増えると、お金は地域外の生産者に渡ってしまい、再び域内で使われることはない。その対抗策の一つとして地域通貨というものがある。
これは円、ドルといった法定通貨ではなく、NPO法人などが発行する特定地域内のみで流通するお金(のようなもの)のことだ。地域内でしか使えないので購買力が流出することなく域内で循環し、地域経済の自立に資するといわれている。
また地域通貨はちょっとした親切といったものも取引の対象となり、人と人とのコミュニケーションを促す効果もある。それは「地域経済の振興・活性化という経済的目的と、地域コミュニティの保全・創造という社会的・文化的目的を同時に達成するものと期待されている」(西部忠著「地域通貨の政策思想」)。地域通貨は人々がともに生活を営む土台を健全にしようという点で、倫理的消費と共通点が多い。
日本では一時期に比べ下火になったものの、地域通貨の取り組みは北海道栗山町の「クリン」など、現在も全国で数百は存在しているようだ。だがそのほとんどが経済活性化効果よりも、コミュニケーション促進効果を狙ったものである。
当研究所の調査によれば、地域通貨の認知度は7割以上あるが、関心を持っているのはその4分の1弱だった。理解が不十分という面はあるものの、回答者の3分の2は「面倒くさい」「自由な取引を妨げる」といった懸念から否定的である。実際、地域通貨にはさまざまな課題があり、運営に窮している事例が多いことは否めない。
一方で「Suica」や「Edy」など電子マネーが急速に普及しつつあり、そこに地域通貨的な機能を持たせる試みも始まっている。これについては地域通貨本来の良さを失わせると懸念する人もいる。
しかし筆者は逆に、倫理的な理念を前面に出すのではなく、企業が関心を示すようなビジネスの仕組みに乗せることで、地域通貨の発展の可能性が広がると考えている。ただその場合には、企業が地域に対してどのように関わっていくかという理念が問われることになり、企業側にも覚悟が求められることになる。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾
情報誌CEL