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2018年09月25日 by 加茂 みどり

これからの住まいを考える(4) ―ウチであり、ソトでもあり2―縁側のある暮らし

  

写真:登録有形文化財橋本家住宅            写真:小岩井市指定有形文化財

ながらの座・座(滋賀県大津市)*1       天明家の内縁と外縁(江戸東京たてもの園*2                            

 

縁側の思い出

前回、土間のことを書きましたが、ウチでありソトでもある場所のもうひとつは、「縁側」です。

私の実家には縁側がありました。手洗いに続く渡り廊下にあたる部分が、濡れ縁となっていて庭に面し、手水鉢もありました。思い出すのは、座った時の木の暖かさです。陽に暖められた縁側に座ると、ほっこりとした気分になりました。

手洗いに行くにはこの縁側を通るのですが、夜だと子どもにとっては、それはそれは怖く恐ろしい「旅路」でした。明るければ、狭く範囲が限られていることが明らかな庭ですが、日が落ちて暗いと先が見えません。どこまでも続く暗闇のようにも見える庭を横目に、用を足しに行きます。私と弟は、小さいころ同じ部屋で寝ていましたが、就寝中に手洗いに行く時には、お互いに起こし合って一緒に付いていきました。喧嘩などしようものなら大変です。恐ろしい旅路に一人で行かねばなりません。どんなにひどい姉弟喧嘩をしようとも、手洗いだけはお互いに黙って付き合っていました。

 

語られる縁側

民俗学者の宮本常一は、「…縁側はよいものです。(中略)こんないいものはありません」と絶賛しています。「…夏は家の軒のために日陰になっていて涼しく、冬は日があたって日なたぼっこができます。ばあさんがそこで糸をつむいだり、孫を遊ばせたり、行商人がやって来てそこで商品を広げたり、近所の人がやって来て腰をかけて話しあったり…」と説明し、「…それ(縁側)が日本人の生活にうるおいを与え、人と人とを仲よくさせた功績は実に大きかったと思います」と書いています(1968年)*3。明治35年(1902年)、ロンドンに留学していた夏目漱石は、「日本に帰りての第一の楽みは蕎麦を食ひ日本服をきて日のあたる椽側に寐ころんで庭でも見る是が願に候」と妻への手紙に書き記しています*4

広辞苑では「座敷の外側に沿う細長い板敷」となっていますが、多くの著述では、内でもなく外でもない曖昧な空間、内と外をつなぐ空間、などとされていることが多いようです*5。それらを整理すると、縁側の意味は、大きくは3つになりそうです*6。一つ目は、人の移動の中に位置づけられる縁側です。出入り口になる、あるいは回廊・渡り廊下のように、室と室を繋ぐ役割です。二つ目は環境コントロールのための縁側です。日差しを避け、温熱環境を緩和し、雨風から室内を守る緩衝空間となります。三つ目は何かをする場所としての縁側です。その行為は多岐にわたります。先の宮本常一の記述の他、庭の鑑賞席となったり、趣味を行う場となったりと、様々なことができます。それは縁側が、ウチでありつつ、ソトにつながっていくからこそ実現する多様性であり、それが他者とのコミュニケーションにもつながります。私も縁側は、とてもよいものだと思います。

一方で、この縁側、現代では「消えゆくもの」と考える人が多いのも事実です。先の宮本常一の文章のタイトルは「消えゆく縁側」、2005年に朝日新聞は「『縁側、消えた多目的スペース』と題してその死を告げていた」そうです*7。しかし、1968年にすでに消えゆくとされていた縁側が、50年後の今もこうして語られているのですから、結局はまだ消えていない、まだまだ縁側は私たちの記憶にあり、懐かしく、捨て去れない価値のあるものだ、ということにならないでしょうか。むしろ最近、「縁側」という言葉を以前より頻繁に耳にするような気もします。

 

集合住宅における縁側

 さて、この縁側を一般的な集合住宅に再現するのは、なかなか難しい気がします。縁側にとってのソトは庭であるのが最も望ましいのですが、2階以上の住戸が庭に臨む集合住宅はなかなかありません。

「中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ)(設計:三澤文子(Ms建築設計事務所*8)+加茂みどり、施工:(株)夏見工務店*9)にも庭はありませんが、ソトとのつながりがあればよいと、ベランダを上足の板敷として縁側と見立てたのは第2回のコラムで書いた通りです。

集合住宅のベランダは、モルタルやシート張りの床で下足となるのが一般的です。しかし上足の板敷とすると、そこは室内から連続した空間となります。窓を開けて裸足のまま踏み出すと、室内とはまた違う木の足ざわりと肌に触れる風の動きでソトに出たことを感じつつ、そのまま出て行ける身近さは、わざわざ下足を履かねばならないベランダとは全く違います。ソトの空間で座り込むことも寝転がることも、縁側ならゆるされます。住まいに一部屋増えたようです。庭は鑑賞できませんが、漱石の『門』の宗助のように、「肘枕をして」、「奇麗な空が蒼く澄んでいる」のを見ることはできます。まだ新しい縁板は、雑巾がけをする度に木の香りがたち、楽しむことができます。大の字になって、背中と嗅覚で木を感じつつ、または裸足のまま手すりにもたれて、外気にふれることができるのは、懐かしい豊かさです。

 

ご報告

 この度、おかげさまで「中京・風の舎」は、第35回住まいのリフォームコンクール(主催:住宅リフォーム・紛争処理支援センター)にて、国土交通大臣賞(最優秀)を受賞いたしました。みなさまのご指導、ありがとうございました。

 

 写真:「中京・風の舎」縁側

 

過去のコラムは以下からご覧くださいませ。

(1)中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ)」が竣工しました

   http://www.og-cel.jp/column/1268771_15959.html

(2)風の抜ける家―外とつながる暮らし―

   http://www.og-cel.jp/column/1270029_15959.html

(3)ウチであり、ソトでもあり ―領域の重なるところ―

   http://www.og-cel.jp/column/1271032_15959.html

 

注:

*1 ながらの座・座(登録有形文化財橋本家)

   http://nagara-zaza.net/

*2 江戸東京たてもの園

   http://www.tatemonoen.jp/

*3 参考文献6)

*4 参考文献4)、12)

*5 以下のような記述がある。

・「日本人の思考様式の中には(中略)境界線をあいまいにする、あるいはぼかすということを好む側面があったようである。例えば(中略)縁側、半分内で半分外であるような場を設定するというような。(中略)縁側は、室内と庭とをいつの間にかつないでいる存在である。」:参考文献8)

・「『あいまいな場所』(中略)時には外とみなし、時には内とみなすことができる…。」:参考文献7)

・「縁側は内でも外でもない、日本語と日本文化独特の曖昧さの象徴となり、概念化されている。」:参考文献12)

・「縁側は室内と庭とを視覚的、心理的につないだり、切ったり離したりする曖昧な空間です。(中略)また縁側は、家の者にとって、出入り口でもあります。」:参考文献2)

・「縁側は(中略)自然とのほかに、まさに住人と社会をつなぐきわめてユニークなパブリックスペースであったといえる。」:参考文献1)

*6 参考文献1)、2)、3)、6)、8)、10)、11)、12)等。

*7 参考文献12)

*8:Ms建築設計事務所

   http://www.ms-a.com/

:同HP内「中京・風の舎」事例紹介

   http://www.ms-a.com/project/reform-no25.html

*9:株式会社 夏見工務店

   http://kknatsumi.com/

 

参考文献:

1)『建築知識別冊第6集 建築ノート6和風/情感の演出 風土に培われた空間デザインの系譜』株式会社建知出版、1981

2)清家清『すまいの歳時記 伝承の暮らしとしつらい』講談社、1985

3)「特集住宅の縁側空間」『季刊ディテール』夏季号125、1995

4)夏目金之助『漱石全集第22巻書簡上』岩波書店、1996

5)マレス・エマニュエル「小説『門』にあらわれる縁側の空間について」日本建築学会近畿支部研究報告集、計画系(44)、pp1041〜1044日本建築学会、2004

6)宮本常一『日本人の住まい』社団法人農山漁村文化協会、2007

7)ジェフリー・ムーサス『「縁側」の思想 アメリカ人建築家の京町家への挑戦』祥伝社、2008

8)木下順二「縁側文化小論」『住まいの文化誌1 日本人(上)』pp101〜104、ミサワホーム総合研究所、2009(初版1983年)

9)」隈研吾『境界 世界を変える日本の空間操作術』株式会社淡交社、2010

10)「特集1縁側」『みずほプレミアムクラブだより』Vol16、株式会社みずほ銀行、2010

11)『和の住まいのすすめ』和の住まい推進関係省庁連絡会議、2013

12)エマニュエル・マレス『縁側から庭へ フランスからの京都回顧録』あいり出版、2014

13)『縁側のある家と暮らし』株式会社エクスナレッジ、2016