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2018年05月31日 by 加茂 みどり

これからの住まいを考える(3) ―ウチであり、ソトでもあり―領域の重なるところ

   

京都リサーチパーク町家スタジオ(京都市上京区)*1

 

通りニワのある風景

京都の町家には、「通りニワ」と呼ばれる土間があります。町家の通りニワは、風が通り、外気を室内に引き込む仕掛けとして、第1回のコラムでもご紹介しました。しかし、もう一つの大きな役割があります。それは様々な訪問者を一旦「受けとめる」ことです。

京都のまちなかは、商売などの仕事を住まいで行う職住一体が普通ですから、訪問者も多岐にわたります。家人や近しい親せき・大きな商店の場合は奉公人なども含む身内から、近隣の居住者・友人知人、さらにはお店のお客様、仕入れ・取引先業者の方々、同業者の組合など商売の関係者に至るまで、様々であったことでしょう。最も丁寧に応対すべきお客さまは、町家の入口を入った土間から、玄関をあがっていきます。家人など身内の者は、そのまま通りニワを進み、奥から家にあがります。ご近所が持って来られた回覧板は、入口を入った土間先で受け渡し、しかし私の母などは、そのまま延々と立ち話、果てには座り込んで菓子など食しておりました。町内会の相談に来た方などは、玄関のところで腰かけて、話をしていたのではないでしょうか。ニワの手入れに来た業者さんや、納品に来た取引先などは、身内と同じく通りニワを進みますが、家にあがらず目的の場所で所用を済ませて帰るのでしょう。通りニワは、住まいへの訪問者を一旦受けとめる、とても便利な場所でした。大切なお客様に、見せたくないものを見せず、格式を示し、美しく飾った玄関からあがっていただく。業者さんなどには、最も効率的な動線で動いていただく。つまり、表の動線と裏の動線の交通整理の役割を果たすと同時に、十分とは言えずとも訪問者に応対する「一応」の場所となっているのです。

 

ウチでありソトでもある場所

最近、住まいのウチとソト、その境界のデザインが話題となることが多くなったのは、通りニワのような、ウチでありソトでもあるような場所が、現代の住まいから消えつつあるものの、やはり求められているからではないかと思えます。まず、外気の気持ち良さを室内に引き込み、四季のうつろいと季節感を家人に届けるという重要な役割があります。そして、訪問者を受け止め、コミュニケーションの場となります。役割は、他にもあります。子どもの遊び場としては、ウチからの目が届く所でソト遊びができ、安心感があります。本来ソトで行うちょっとした作業―DIYや物干し、2輪車のチューニングなど―もこなせます。また、ウチとソトの緩衝空間として、暑さや寒さを和らげる場合もあります。

さらに京町家の通りニワからイメージを広げると、このようなウチでありソトでもある場所は、人口減少・少子高齢化を背景に、今どきの現代的なライフスタイルの視点からも求められているようです。たとえば、シェアハウスのように、複数の個人が共同で生活する場合の共用部分。個人の私室を確保した上で、いつでも出て行けるリビングルームは、私室から見ればソト側ですが、地域からみれば、住まいのウチ側となります。また、最近よく耳にする「住み開き」も、本来ウチである住まいの一部をソトに開放し、交流の場として使うケースです。いずれも人と人との接点を生み出す仕掛けとなり得ます。また、縮小する家族が介護や育児のサービスを受けようとする時、私的なウチをサービス業者というソトにさらけ出すことが必要となり、ウチでありながら、ソトからのサービスを受ける場をうまく確保することや、サービス動線と家族の動線ができるだけ重ならない工夫も必要です。ホームオフィスのように、ウチで仕事をすることも、ソトを住まいに持ち込むことになるでしょう。ウチとソトの接点、あるいは重なる部分のデザインは、今後もますます重要になると思われます。

 

間口いっぱいの土間

「中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ)(設計:三澤文子(Ms建築設計事務所*2)+加茂みどり、施工:(株)夏見工務店*3)の計画では、間口いっぱいの土間を設けました。既存マンションのリノベーションという条件のもと、「ソトでもあり」という状態をできる限り実現するために、窓を全開できるよう、摺り上げ下げ障子でソトからの視線に配慮したのは、前回のコラムで書いた通りです。町家の土間ほど広くはありませんので、できることは限られますが、それでも一般的な分譲マンションの玄関土間よりはかなり広く、訪問者の応対に余裕があります。大きな荷物が届いても、無理なく一旦引き取ることが可能です。中央の通路の引き戸を閉めれば、中への視線を遮ることもでき、視線を気にせず玄関ドアを開放できます。また、来客を両側の個室に直接招き入れることも可能です。個室にサービス業者が入ったり、個室をオフィスとして使用したりする場合も、直接土間から入れると、家族との動線の重なりは最小限となります。

 そして、土間の灯りは、夕方になるとほんのりと障子を照らし、共用廊下に趣のある表情をつくります。さながら窓全体が廊下に浮かぶ行灯のようにも見えます。無機質なデザインになってしまいがちな集合住宅の共用廊下に、少しでも暖かな風情が出るのは、うれしく思います。

(エネルギー・文化研究所 主席研究員 加茂みどり)


 

中京・風の舎 玄関土間


 

共用廊下にともる窓の灯り

 

中京・風の舎 平面図(設計:三澤文子(Ms建築設計事務所*2)+加茂みどり)


 

過去のコラム「これからの住まいを考える」は、こちらからご覧ください。

(1)中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ)」が竣工しました

   http://www.og-cel.jp/column/1268771_15959.html

(2)風の抜ける家―外とつながる暮らし

   http://www.og-cel.jp/column/1270029_15959.html

 

*1:京都リサーチパーク町家スタジオ

   https://www.krp.co.jp/machiya/

*2:Ms建築設計事務所

   http://www.ms-a.com/

:同HP内「中京・風の舎」事例紹介

   http://www.ms-a.com/project/reform-no25.html

*3:株式会社 夏見工務店

   http://kknatsumi.com/

 

*関係論文

・「新・中間領域研究 中間報告」大阪ガス実験集合住宅NEXT21第4フェーズ居住実験中間報告書pp.30〜43

   http://www.og-cel.jp/search/1270840_16068.html

・「次世代住環境への提案『住み継ぎの家』」大阪ガス実験集合住宅NEXT21第3フェーズ居住実験報告書pp.52〜60

   http://www.og-cel.jp/search/1270879_16068.html

・集合住宅における中間領域に関する研究その1〜7、日本建築学会大会学術講演梗概集

実験集合住宅NEXT21 における料理イベントを事例とした行動観察 ―集合住宅の中間領域に関する研究 その1―、2015.9

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2015cyukanryoiki1.pdf

・イベント的アクティビティを行った際の環境変化と居住者の行動調査 ―集合住宅の中間領域の研究 その2―、2015.9

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2015cyukanryoiki2.pdf

・実験集合住宅NEXT21・304 住戸における住み方から見た中間領域の意義 ―集合住宅における中間領域に関する研究 その3―、2016.8

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2016cyukanryoiki3.pdf

・実験集合住宅NEXT21・305 住戸における住み方から見た中間領域の意義 ―集合住宅における中間領域に関する研究 その4―、2016.8

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2016cyukanryoiki4.pdf

・実験集合住宅NEXT21 における中間領域の温熱環境調査 ―集合住宅における中間領域に関する研究 その5―、2016.8

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2016cyukanryoiki5.pdf

・実験集合住宅NEXT21 における屋外中間領域の利用に対する環境的な影響要因 ―集合住宅における中間領域に関する研究 その6―、2017.8

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2017cyukanryoiki6.pdf

・実験集合住宅NEXT21 における屋外中間領域の利用に対する空間的な影響要因 ―集合住宅における中間領域に関する研究 その7―、2017.8

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/05/22/2017cyukanryoiki7.pdf