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2018年03月08日 by 加茂 みどり

これからの住まいを考える(1)―「中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ)」が竣工しました

       

 昨年末に、建築家・三澤文子氏とのコラボレーションによる計画住戸「中京・風の舎(ナカギョウ・カゼノヤ) *1」(設計:三澤文子(Ms建築設計事務所*2)+加茂みどり、施工:(株)夏見工務店*3)が竣工いたしました。マンションの1住戸のリノベーションです。この住戸の計画を通じ、これからの住まいについて考えたことなどを 少しずつ書かせていただこうと思います。

 

京都・中京(ナカギョウ)と京町家

 最初に、まずその立地についてです。中京は、京都のまちなか、祇園祭の鉾町(祭で巡行する山鉾を所有し、祭を担う町)も多く含まれる地域です。京都では中世以降、二条通付近を境に北側を上京(カミギョウ)、南側を下京(シモギョウ)と呼んでいました。京都のコミュニティは「町」を基本として発展し、それが行政組織と重なっていきます。「町」の連合体が「組」となり、明治維新後の町組再編時には上京33番組、下京32番組が成立しました。番組という名の通り、それぞれの組に「一番組」、「二番組」というように番号が振り当てられています。その後、区が編成され、上京区・下京区となります。さらに昭和4年、京都市の増区により、旧上京区の一部と旧下京区の一部が中京区となりました。京都の町は、歴史的に自治意識が高く、町の会所も町所有の町家であり、鉾町では祇園祭もこの会所で行われました。昨今の京都では、町家が取り壊され、ビルやマンションに建て替わることが多く、その存続が危ぶまれていますが、中京には今でも多くの町家が残っています。

 私も京都の町家で育ちましたが、京都の夏は過酷なほどに暑いものです。その蒸し暑さに応じて、京町家は、通りニワと呼ばれる土間空間が家を貫き、よく風が通り、外部空間を生活空間の一部として取り込む住空間でした。オモテの通りに面する格子は、外からの視線をうまく遮りつつ、中にいる住民が通りの気配を感じることができるものでした。オクの間と縁側を通じてつながるニワがあり、隣り合う町家のニワは連なり、オモテからオクのニワまで風が抜けます。庭の景色や風の動き、風鈴などの音からも、四季折々の風情を感じることができました。梅雨の雨、祭の人出、庭の雪。手水に浮かぶ紅葉、木の根を覆う桜の花、ガラス戸に移る月の影。もちろん、冬の寒さの厳しさも、一際であったことは言うまでもありません。京都の町家は季節とともに、四季の祭・行事とともにあり、そこに人々の暮らしがあったのだと思います。

 

 バブル期には億ションが多く建設されていた京都ですが、1990年代にバブルが崩壊すると、ファミリーマンションの建設ラッシュとなりました。これによって、いくつかの課題が現れてきます。まず、京町家を含む京都の街並みにマンションがそぐわない。そしてマンション住民と周辺に住む従来の住民とのコミュニケーションが取り難い。そして鉾町においては、マンション住民が祇園祭とどのように関わるのかということも、難しい悩みとなりました。これらは、今も課題として残る地域もあり、住民や行政の努力により、克服の方向性が見出された地域もあり、様々です*4

 「中京・風の舎」のあるマンションも、同じ悩みをかかえて建設されました。しかし、マンション住民を受け入れるための準備が、従来の住民によって熟考されていたこと、マンション住民の中に祇園祭の担い手として積極的に協力しようとする人がいたことなどから、周囲とかなり良好な関係を築くことに成功したマンションです。

 一方で、景観デザインの視点からは、京都らしいまちなみに配慮することを義務付けた新しい建築条例の適用前に建設されたことから、外観上のまちなみへの配慮は充分だとはいえません。ストックとしてはこのようなマンションの方が多く、中京は、老舗店舗と京町家、商業ビルやオフィスビル、そしてマンションがひしめく地域となっています。

 

昔の家、今の家、これからの住まい

 京都の町家に住んで、四季の移ろいは楽しめるものの、つらいのは冬の寒さでした。庭に手水がありましたが、朝はすっかり凍っているのを横目で見、寒さに体をこわばらせながら用を足しに縁側を歩きます。家の中でも、外で着るような上着や、布団のようなハンテンを着ていました。それに対して、マンションに引っ越して感激したのは、その暖かさです。空調された空気の熱を逃がさないために、壁に断熱材を入れ、気密も高くなって、スキマ風などありません。

しかし、いわゆる都心といわれる、建て混んだ地域のマンションは、風通しを確保するのがなかなか難しい場合があります。近隣建物との関係から視線を遮るために、風を通せる窓がない、または視線が気になり窓が開けられない、あるいは窓を開けても風が入ってこない場合もあります。さらに熱を逃がさない厚い壁を持つマンションの場合、室内からは外の気配が全く感じられず、天候すら分からないこともあります。外部空間と室内空間が、はっきりと区切られているのです。

 マンションは住まいの進化に貢献し、私たちは冬でも暖かい住まいを手に入れました。住まいを立体化することで、狭い敷地に多くの住まいが重なることは、当然土地を有効利用することにもなります。しかしその代償として、外の気配を感じる楽しさや、外部空間を住まいの一部として取り入れて暮らす気持ち良さは、失われてしまったように感じます。何とか普通の集合住宅で、それを取り戻せないだろうか。「中京・風の舎」は、そんな思いで計画に臨みました。

 次回以降、住戸をご紹介したいと思います。  

(エネルギー・文化研究所 主席研究員 加茂みどり)


コラム「これからの住まいを考えるは、こちらからご覧ください。

(2)風の抜ける家 ―外とつながる暮らし

http://www.og-cel.jp/column/1270029_15959.html

(3)ウチであり、ソトでもあり ―領域の重なるところ

http://www.og-cel.jp/column/1271032_15959.html

(4)ウチであり、ソトでもあり2 ―縁側のある暮らし

http://www.og-cel.jp/column/1274026_15959.html

 

*1:「中京・風の舎」事例紹介

   http://www.ms-a.com/project/reform-no25.html

*2:Ms建築設計事務所

   http://www.ms-a.com/

*3:株式会社 夏見工務店

   http://kknatsumi.com/

4:(参考文献)加茂みどり:「京都都心における地域住民とマンション住民の協働―都心的まちなか居住の可能性」、広原盛明・高田光雄・角野幸博・成田孝三編『「都心・郊外・まちなかの共生」11章、pp.286-305、晃洋書房、2010.

   http://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2018/03/06/toshinkogai.pdf