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情報誌CEL

笠原 美智子

2010年10月01日

日本の現代アートシーンにおける新進女性作家たち

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2010年10月01日

笠原 美智子

住まい・生活

ライフスタイル

情報誌CEL (Vol.94)

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 私がチーフキュレーターを務めている東京都写真美術館では、2002年から「写真表現の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、写真愛好者や広く一般層に向けて、現代の写真映像文化を紹介する」ことを目的に、毎年テーマを決めて「日本の新進作家」展を開催している。2008年には「身体」をテーマに写真・映像というメディアを駆使し、現代美術の最先端において活躍する日本の6人の女性作家たちに焦点をあてた「オン・ユア・ボディ」展を開催した。出品アーティストは、’07年度コニカミノルタフォト・プレミオ特別賞を受賞した朝海陽子、数々の賞を受賞し、同年よりニューヨークに拠点を構え、活発な制作活動を展開する澤田知子、写真とホログラフィで独自のスタイルを確立した塩崎由美子、第33回木村伊兵衛写真賞を受賞した志賀理江子、写真作品にとどまらず映像作品にも挑む高橋ジュンコ、コンセプチャルな作品で定評のある横溝静といった若手・中堅の面々である。
 本稿では新進女性作家たちの作品を紹介しながら、その表現世界と彼女たちを巡る状況について考察したい。

−老いのあり方−
 塩崎由美子は長年にわたりウナという女性を撮影し続けることで老いのあり方を考えている。
 塩崎は1993年にウナの娘の紹介で彼女に出会い、交流を重ねながら、2001年から本格的にウナの撮影を開始して現在にいたっている。1916年生まれのウナ・ゴールドは長い間女優として活躍していた。死別した夫も独立した娘・息子も、共に俳優である。2004年に脳梗塞で倒れ、半年の入院生活の後に、半身不随ではあるが車いすで住み込みヘルパーと共にロンドンの自宅で暮らしている。
 塩崎の「Una」が写すのは、ウナと塩崎の対話やコミュニケーション、そして時間をかけた撮影そのものから生まれた信頼や親愛、葛藤などの生の関係性からこぼれ落ちたものである。そもそもなぜ塩崎は、住む場所も世代も人種も職業もまったく異なるこのひとりの女性にこれほどまでに惹きつけられたのか。塩崎由美子は、あまり耳も聞こえず身体も不自由でありながら、ひとりで穏やかに生き抜く、この意志の強い女性に寄り添うように撮影することで、自分自身の「生」への光を見いだしている。踝まで被さるような丈の長い白い部屋着を着て鬱蒼とした緑の庭に佇むウナの背中に、穏やかな光を浴びながら窓辺でくつろぐウナの横顔に、階段の壁に差し込む太陽の光に、塩崎由美子が描くのは、塩崎自身の生への希望といったものであるように思われる。