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情報誌CEL

丸島 和洋

2016年03月01日

コラム「衣食住遊」 大河ドラマ『真田丸』と時代考証

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2016年03月01日

丸島 和洋

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情報誌CEL (Vol.112)

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私は、2016年大河ドラマ『真田丸』(三谷幸喜脚本)の時代考証を担当している。今回は、全編にわたり三人のチームで考証を行うという体制をとっている。私はまだ40にもなっていないから、考証者としてはかなり若い部類に入るだろう。残りの二人(平山優・黒田基樹両氏)は、私の約一回り上だが、普段から親しくさせていただいている関係である。
時代考証とはどういう仕事か。脚本家が書いた台本に対して、事実関係の誤りを正したり、言葉や人びとの考え方を当時のものに近づけていくことが基本である。もっとも、江戸時代の講談などで作られたエピソードであれば、有名なものは許容する。
第一稿の台本では、登場人物のせりふ台詞が現代語に近い。これを当時の会話らしく直していく。近現代の言葉を排除して、できる限り戦国時代の言葉に置き換える。とはいっても、視聴者が聞いて分からなければ台無しだから、あまり難しい言葉は使えない。やむを得ず、現代語のままにすることもある。これはNHKのスタッフに専門家がいるのでお任せすることが多いが、こちらでも手を加える。たとえば「眼鏡に適う」は却下。眼鏡は伝来していたが、大名クラスしか手にできない貴重品なので、慣用句になっているはずがない。
会話も身分差を踏まえて、敬語をどう使うか考える。尊称でいうと、信長なら「上様」、守護職を持つ戦国大名である武田勝頼や上杉景勝なら「御屋形様」、そうでない徳川家康や真田昌幸は「殿」とする。登場人物の座る場所も、身分を考えて指示をする。番組中で使われる書状や地図などの小道具の準備も手伝う。
しかしあくまでドラマだから、史実通りには話が進まない。省略もあるし、複数の話を一つにまとめることもある。安易に妥協するわけにもいかないが、ドラマの構成上やむを得ないこともわかる。『真田丸』は三谷幸喜さんの作品であって時代考証の作品でも教科書でもない。ただ大河ドラマは、史実と受け止められることが少なくないのも事実であり、注意が必要だ。
だから、ドラマの舞台である戦国時代から江戸時代初期の時代性を、いかに上手く取り込んでもらうかが本当の仕事であり、そこにこそ時代考証陣の研究が反映される。妥協をしないのは、この部分である。もっとも、あまりに現代人の感覚からかけ離れてしまうと視聴者がついていけなくなるから、スタッフと繰り返し議論する。

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