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2022年01月21日 by 池永 寛明

【起動篇】電気自動車に乗るということ。

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既視感がある。電気自動車のニュースを見ない日はない。それは、勃興期の太陽光(ソーラー)発電事業を見るように。世界の自動車メーカーのみならず、自動車業界以外から電気自動車への参入が進む。SDGs・気候変動・グリーンの文脈で、EVが中国から欧州に米国に、そして日本に広がろうとしている。現在、なにがおこっているのか。これから、どうなるのか。

 

 

1.電気自動車とはなに?

 

電気自動車が未来の車といわれて久しい。この200年、何度も何度も浮いたり沈んだりしている。電気自動車は1830年代に発明されたが、ポルシェが1900年パリ万博に出展したものの、フォードのガソリンエンジン車が市場を席巻したため市場から姿を消す。1970年大阪万博で電気自動車が最先端の移動手段として会場を走ったが、またも姿を消す。そして現在、脱炭素・カーボンニュートラルの文脈で、これからの時代の救世主として電気自動車が再登場した。

 

欧州の自動車メーカーが電気自動車への全面シフトを鮮明にしている。実は電気自動車は欧州の地形にピッタリ。欧州の国土は意外とコンパクトで、EU内は高速道路網で張りめぐらされているため、移動効率が良く電気自動車があう。欧州の自動車メーカーの電気自動車シフトには、そういう事情もある。

 

しかしコロナ禍前から、電気自動車を国家戦略に位置づけて計画的に実行してきたのは、欧州や米国ではなく中国である。中国がモーターやバッテリーを支配しており、電気自動車は太陽光(ソーラー)発電と同じく中国抜きでは動かない。仮にそれらの部品を調達して電気自動車をつくることができたとしても、それだけでは動かない。

 

電気がなければ動かない

電気がなければ充電できない

 

かつて電気は、ビル・病院・ホテル・学校・店舗などの冷暖房で増えた。家のエアコンが1家に1台から1部屋に1台となって、電力が増えた。生活空間の快適性向上のため家電製品がどんどん開発され、電力が増えた。現在、パソコン・スマホが加速度的に増え、電力負荷が増えつづけている。そしてこれから電気自動車が1家に1台時代となろうとしている。しかし問題は

 

その電気、どうやってつくるのか?

その電気、どこでどうやって使うのか?

 

である。電気自動車は発電・送電・給電とセットで考えなければならない。

 

2011年3月11日の東日本大震災後のエネルギー需給逼迫というエネルギー危機のなか、これからのエネルギーのあり方が議論された。環境政策を踏まえつつ、地域分散・レジリエンスの観点から、日本の中長期のエネルギー需給のなかで再生可能エネルギーをどう位置づけるかが検討された。とりわけ太陽光(ソーラー)発電が地方分散型・地域自律型の再生可能エネルギーとして位置づけられ、重点投下されたが、それは

 

         ・低炭素化・環境政策なのか

         ・エネルギー需給政策なのか

         ・ものづくり・産業政策なのか

         ・自由化・規制緩和政策なのか

         ・分散型・地方創生政策なのか

 

がはっきりしなかった。立場によって、見える風景がちがった。太陽光発電というハードは議論されたが、太陽光発電が貢献する社会はどうなるかというソフトの議論は十分ではなかった。全体統合して組立てなければいけなかったが、部分最適に陥っていた。現在の電気自動車ブームには、その既視感がある。

 

 

2.電気自動車に乗るということ

 

かつてほど車は売れなくなった。若者を中心に車ばなれが進んでいる。車は所有するものから、必要なときに車を借りるという「カーシェアエコノミー」の流れが高まっている。単純に「所有から使用」というように、人々や企業の価値観の変化が進んでいるだけではない。情報化による効率化・生産性向上・働き方改革、そしてコロナ禍でのテレワーク・オンライン社会への移行に伴い、1日の時間の使い方が家中心・近所中心となり、移動距離性が薄れ、都市と郊外・地方との関係が大きく変わろうとするなか、人々の移動するというカタチが変わろうとしている。

 

コロナ感染リスクを勘案して、人々は密を避け、活動範囲が狭まり、移動量が大幅に減った。それに伴い、人々の交通・物流機関としての飛行機・船・鉄道・自動車・自転車・ドローンなどの位置づけが変わろうとしている。

そのなか

 

電気自動車に注目が集まっている。

 

環境・脱炭素・グリーンの観点から、新時代へのソリューションとして電気自動車が選択された。日本の自動車メーカーのガソリン車・ハイブリッドカーから電気自動車へのシフトは、欧州のガソリンエンジン車輸入禁止が決定的になるだろうという見込みからの戦略転換であり、グーグル・アップル・ソニーをはじめ自動車メーカー以外からの電気自動車参入、テスラなどベンチャーの電気自動車への参入が続々と進み、「ブーム」になろうとしている。それはかつて腕時計市場に新規企業が参入したような、家電市場に新規企業が参入したような。

 

たしかに電気自動車は部品点数が少なく、製造工程は減る。モーター・バッテリーなど主力部品を調達することができれば、電気自動車を組立てることができると言われたするが、それは本当か。「デザイン性」「心地よさ」「情報性」「AI・自動運転」が前面に打ち出され、お客さまを引きつける競争が進んでいるが、違和感がある。しっくりこない。

 

前提条件がちがっているのではないか。そもそも車がかつてのような憧れのモノのままだろうか。人々の車に求める価値観は、30年前、20年前、10年前のそれと同じだろうか。とりわけ現代の若者であるM・Z世代にとっての「車に乗る」というスタイルは、かつてのそれと同じままだろうか。電気自動車を開発する人々がかつて自分が若者だった頃の感覚・価値観のままで、電気自動車をつくろうとしているのではないだろうか。

 

もうひとつ大事な話がある。

 

電気自動車はプラモデルではない。

 

電気自動車はプラモデルのように簡単につくれる、だから自動車メーカーでなくても参入できる、だから新たな産業構造がうまれるようなムードがあるが、本当にそうだろうか。日本の交通事故状況・渋滞状況・整備点検・保険・駐車場など自動車交通のシリアスな部分に着目せず、「デザイン性・情報性・車内の付加価値」訴求の車づくりだけで、真の「電気自動車」市場を創造することはできない。

 

「プラモデル」がほんものになるまでには、数多くの思考錯誤・事故・トラブルを経て、作り込んでいくものである。トヨタや日産・ホンダ・三菱・マツダなど自動車メーカーと部品メーカーの半世紀以上の積み上げは、だてに力を失わない。

 

 

3.ものづくりの本質

 

馬車から自動車へのシフトは、石油が引きおこした。その150年後、内燃機関から電気自動車へのシフトは、「二酸化炭素」だろうか。規制だけでは、人々は自動車を買い替えない。買い替えるには、経済的利得、付加価値がなければならない。とても重要な論点。

 

かつての排ガス規制は技術開発によって燃費向上につながり、人々の経済的利得がうまれた。電気自動車は脱二酸化炭素シフトとなるが、社会コストを引きあげる。しかも世界各地の間での不平等を広げてしまう。ものづくりはいくら良いものでも、安くなければ、価値がなければ広がっていかない。電気自動車だからこその新たな価値がなければならない。たとえば電気自動車が蓄電池となり、地域のなかのVPP(バーチャル・パワー・プラント=仮想発電所)となりうるといった新たな価値も必要となっていく。しかしそれも必要だが、車であるからこそおさえておかなければいけないことがある。

 

1年365日、晴れた快適な気候だけではない。大雨が降ったり、大雪になったり、交通事故がおこったり、大渋滞することがある。電気自動車は大型の家電製品が走るようなもので、水没したときの感電対策や盆暮れの大渋滞にまきこまれたときのバッテリー切れや真夏・大雪時の冷暖房問題など、電気自動車として多くの人に受け入れられていくためには、解決すべき課題は多い。

 

部分最適ではなく全体最適に、お客さまに満足いただける電気自動車をつくるためには、部品メーカーなどのこれまでの自動車関連企業だけでなく、今まで自動車市場にかかわっていなかった新たな企業との共創による価値創造も必要である。

 

そしてこの「ものづくり」には、環境政策とエネルギー政策、コロナ禍を契機に動き出した生活観と仕事観と人生観の変化、都市・郊外・地方の関係性の変化に伴う都市政策・住宅政策・交通政策を統合して考えていくことが求められる。単にガソリンエンジン自動車を電気自動車に代替するという発想では、未来社会における「ありたい」車はつくることはできない。

 

電気自動車は、かっこいい「プラモデル」ではない。キラキラした「デザイン」「情報装備」だけで実現するものではない。これからのありたい人中心の社会・生活での「移動」とはなにかを徹底的に考え抜き、そのありたい姿に向けて、シリアスな問題をひとつひとつ解決していく地道な活動が求められる。

 


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

〔note日経COMEMO 1月19日掲載分〕

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