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2021年12月24日 by 池永 寛明

【交流篇】悩む営業部長 ― コロナで、だれもいなくなった

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「『対面を望まない』というお客さまが4割という調査結果が出た。話をしたくても会えない。だったら、会社から営業マンの数を減らせといわれている」と旧知の営業部長から相談があった。


「コロナで、営業ががらっと変わった。会うことが仕事なのに、お客さまに会えなくなった。そもそも案件の8割・9割が東京で意思決定されるようになっている。20年前だったら大阪と東京が半々だったけど、関西の案件なのに東京にアプローチしないといけなくなった。しかもキーマンは一人か二人の少人数。彼らが全国の案件をすべてやっている。だから忙しいようで、どうにもアクセスできない。どこにいるのかわからない。彼らに会うルートも見えなく、コロナ禍で東京のオフィスもいない。外資だから、日本にいるのかどうかも分からない。これからどうなっていくのだろうか」



1.4割のお客さまは「営業に会わなくていい」

 

4割の対面を望まないお客さまに、なぜ?と訊くと、「会う理由がない、会う時間がない、会う場所がない」という。営業の世界は、コロナでがらっと変わった。

 

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お客さまから見た風景 ― コロナ禍となって、コロナ感染リスクを回避するため、テレワークが始まり、家で仕事をすることとなった。オンラインミーティングやウェビナーの普及など仕事の方法論が根本的に変わり、家と会社の使い方が変わろうとしている。在宅と出社のハイブリッドのワークスタイルも、この2年で、確立しはじめている。仕事の世界観が大きく変わろうとするなか、よほどのことがない限り、営業の人に会おうと思わなくなった。


 

2.「昭和の営業」の強制終了

 

私はかつて営業部長だった。朝から夕方までお客さまを訪問した。30分単位にスケジュールが組まれ巡回した。移動中は営業マンからお客さまとの営業状況を聴き、それぞれのお客さまと対話する。毎晩のように会食し、土曜日曜はゴルフをした。展示会やイベントや物件見学会をして、お客さまをご案内した。お客さまの好みで宝塚歌劇にも歌舞伎にも人形浄瑠璃にも能にもプロ野球観戦にも行った。オフィスや工場という日常性だけでなく、非日常性も大事で、朝から晩まで月火水木金土日、それぞれの場でどれだけ印象に残る対話ができるのかが営業の仕事だった。あわせてメールなどによる情報提供でお客さまとの関係構築をつないでいた。

 

そのころ、ある企業の法人営業の実態をお聴きした。

 

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その企業の営業成果の決定要因は、提案内容評価をおさえて1位だったのが「人間関係」で、50%。営業マンの自己評価の数字。そして営業成果をABC分析すると、20-80で有名なパレート法則どおり、お客さまの20%で全体の売上の80%を占めた。そして営業マンの1日のうちでお客さまへの実営業時間は20%しかなかった。この調査結果の数字を見た、その企業“参謀”たちは営業部門の課題をこう考えた。

 

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非営業部門からみれば、営業は“昭和の営業”のままで、非効率的で非生産的で理解しがたい。こうして営業部門は経営改革の格好の的となり、営業活動の効率化を図らないといけないと考えた。要員の効率化に、事務処理のIT化に、移動時間の効率化。いちばん大切なお客さまの価値を高めるための提案の質的向上が図られることなく、なんでもかんでも効率化に走った。営業活動の本質をつかめない参謀たちは、生産性向上の観点のみで、要員効率化、事務処理の改革をおこない、変えてはいけないこと、承継しないといけないことまで、「効率化」してしまい、結果として営業部門が弱くなり、疎となってしまった。そしてコロナ禍に入り、テレワーク・オンラインワークとなり、昭和の営業は強制終了が求められることとなった。


 

3.忙しく、複雑化するお客さま

 

「お客さまのトップの面会時間をいただいても、商材の話だけだったら3分で終わってしまう」とその営業部長。

 

そういう営業スタイルが未だに多いのは事実。売り込みたい商材のことを長々と話す営業を今も見つける。この商品は効率がいい、寿命が長い、他社と比べて安いとかというような商材の機能訴求ばかり、一般論ばかりで当社のことを考えた提案となっていない。効率性の追求で人がどんと減った企業はじっくりと考える余裕はない。人が減ったにもかかわらず、企業はいろいろなことを併行して考えないといけない。そんな忙しくしている時間にやってくる昭和の営業につきあっていられない。

 

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そこにコロナ禍が重なった。コロナ禍による影響、構造変化、不安、コロナ収束の見通し、テレワーク化にオンライン化にDX化など働き方改革にESGにSDGsなどと、さらに高度化・複雑化した経営課題を多元連立方程式で解かなければいけないというお客さまに、営業マンの言葉は届いているだろうか。


 

4.お客さまと営業マンの適合不全

 

「失われた日本の30年」の原因は何か。「戦後日本の方法論」が平成時代の実態と適合不全となっていることがその原因のひとつではないか。とりわけ営業活動はその象徴のひとつで、“昭和の営業”の方法論がお客さまの実態と適合不全となっているのではないか。ではなにが適合不全となっているのか。

 

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昭和の営業から、時代にあった営業に変革しなければならなかった。営業変革の必要性が喧伝され、みんな、そうだそうだと言った。にもかかわらず変わらなかった。変わらなくても、なんとかなると思った。だから商材中心、売上目標至上主義・個人力戦型・先発完投型・人間関係構築型の“昭和”の営業活動がつづいた。

 

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そしてコロナ禍となり、昭和からつづいた営業活動を「テレワークで代替せよ」となって、思考停止した。どうしたらいいのか、今まで当たり前だった「お客さまのところに行く」というスタイルをしてはいけないとなった。しかし営業が変わる前に、お客さまの方が先にがらっと変わった。そこで適合不全の溝がさらに深まった。コロナ禍変化の最大の論点である ―― お客さまの情報の収集の仕方が変わった。


 

5.情報との向きあい方を変える

 

コロナ禍変化で大きいのは、「情報収集」の方法論。コロナ禍のなか、情報爆発がおこった。お客さま自らが情報を収集するようになった。ありとあらゆる情報を集めることができるようになった。新聞・テレビなどの既存メディアのみならず、インターネット、Twitter、Youtube、ニコニコ動画、ウェビナー、note日経COMEMOなどで、「ただ」で高品質の情報をリアルタイムにグローバルに集めることができるようになった。情報は与えられるものではなく、自らが収拾しようと思えば「良い」情報が早期に手に入るようになった。

 

この情報収集の方法論の変化が、ビジネス・営業のゲームのルールを変えた。これは、お客さまが情報収集しようとするバーチャル空間である「場所」に、あなたの会社の「情報」が入っていなければ、社会に、世界にあなたの会社は存在しないことになり、選ばれようがなくなることを意味する。かつて「見世(みせ)」といった店の本質そのものである。あなたの会社がどれだけ「お客さまにとって役立つ、意味のある」情報をお客さまに見せられるかが論点となった。お客さまがモノ・コトを購入するプロセスの重要な“場”という接点に、あなたの会社がいなければ、生き残れなくなる。

 

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これら構造変化はコロナ禍前から進んでいたが、企業変革しなかった、いやできなかった。ビジネスの構造変化への企業の対応は、コロナ禍で待ったなしとなった。営業部門に、コロナ禍後を見据えてDXが大切だとか言って、DX人材の育成とかDXのシステム構築が必要だというが、それは変革の大前提であって、営業部門だけの話ではない。企業全体で、「情報との向き合い方」を抜本的に変えていかなければいけない。そうしないと、あなたの会社は市場・社会に存在しないことになる。

 

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「入るを量(はか)りて出ずるを為す」というが、「出ずるを為す」が先行した時代が「失われた30年」だった。「出ずるを為す」だけで「入るを増やさない」と、会社はまわらない。「入るを量る」ことが大切だが、量的拡大だけを追うのではなく、質的向上をしないと時代から取り残される。

コロナ禍の現在こそ、お客さま、市場、社会の変化を総合的に構造的に読み解き、自らを変革しないと選択されなくなる。コロナ禍の現在こそ「昭和の営業」をリセットして、令和の営業の再構築が求められる。そう、旧知の営業部長に話した。



(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

〔note日経COMEMO 12月22日掲載分〕

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