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2021年07月26日 by 池永 寛明

【起動篇】やりなおす― 日本をダメにした折角(5)(最終回)

「やり直し神社」姫嶋神社(大阪市西淀川区)

 

やりなおしたいと願う女性が参拝する神社が大阪にある。平安時代から鎌倉時代に天皇が即位する儀礼の一環で、国土の発展を祈って行われた八十島祭りの舞台の難波八十八島のひとつである姫島にある神社は、やりなおし神社と呼ばれている。古代、日本から新羅の王子に嫁いだアカルヒメは夫の慢心に愛想をつかして別れて、新羅から波高い海を風に乗って航行して、摂津の海の姫島に流れ着いた。これまでのことをリセットして、やりなおしを決断して、姫島の女性たちに機織りや裁縫、焼き物や楽器などを伝えて、再出発した。このアカルヒメが決断して行動した物語が代々伝えられ、無数の「救い」と「出直し」が生まれ、いつからか姫嶋神社は「やりなおし神社」とよばれ、現代の多くの女性にも信仰されている。

 

1.高速回転の試行錯誤がなくなった

 

「イノベーション」が語られる時に出てくる日本製品開発の事例は古い。トランジスタラジオに胃カメラにビニール傘にインスタントラーメンにカップラーメンにウオッシュレットにウオークマンにファミコン。どうしてこんな発想が生まれるのだろうかと世界から驚嘆された時代があった。日本のいろいろなモノ・コトが世界から圧倒的に支持された。それ以降の日本に、世界初の事例がないことはない。発光ダイオードもハイブリッドカーもリチウムイオン電池も日本が世界発である。あることはあるが、目立たなくなった。折角が社会を支配して、圧倒的に減っている。


(中国・深セン・華強北)


すごいモノ・コトはどのようにして生まれるのか。

なにもないところから、画期的なモノ・コトが生れてくるように見える。それは一人の天才だけで生み出されるわけではない。いろいろな役割を持った無数の人々がかかわることで、すごいモノ・コトが生まれる。アイデアを出す人、それをカタチにする人、それを試す人、それに意見を寄せる人、それに磨きをかける人、それを展開する人々が絡みあうことで生まれる。いいモノを生み出すには、風土・感性・文化が必要である。

 

ものづくり日本として、続々とユニークなモノ・コトを生み出されると呼ばれた時代から、世界から面白いモノ・コトが一気に出てくるような時代となった。パソコン、iPhone、ドローンは日本からではなく、世界から生まれた。スプテイファイをはじめ、新しいビジネスが北欧から生まれてくる。世界最大の電気街と言われる中国の深?の華強北には、見たことも聴いたこともないような電気製品が信じられない価格で売られていたりする。いいモノも変なモノもあふれる。そこからすごいモノが生まれてくる。

 

欧米や中国やアジアで新たなモノ・コトが出てくる。すごいモノ・コトが出てくるまでに、無数の変なモノ・コトが市場に投入され、実験・試行され、無数のお客さまの声を聴いて、改良され、試行錯誤のなかから、すごいモノ・コトになる。それを高速回転で回す。だからすごいモノ・コトができた。これこそ、かつて日本で回ってきた高速回転の試行錯誤するモノづくりサイクルだった。

 

それを日本はしなくなった。市場で試行されることなく、会社・工場・研究所のなかで、未完成のまま消えた。世の中に、なかなか出なくなった。こうして新しいモノ・コトが生まれなくなった。

 


2.折角が潰してきた新たなこと

 

世界から新たなモノが出てきて、日本からそれが出てきにくくなった理由がもうひとつある。日本人は、新たなことに対して

 

  「めんどくさい・大変だ・失敗するかもしれない」

 

そういう発想をするようになった。それが邪魔するようになった。みんな、楽をしたいと思うようになった。まるで年金のように、今までしてきたことが安全・安心に守られると思い、今までを守りつづけようとする。


しかしその集団のなかで、今までのことを守らずに新しいことをする人が現れてくると、一億総「折角」の日本社会は

 

  「あなたはいいよな、あなたはやれていいよね」

 

という言い方をしたあと、

 

  “折角、これでうまくやってこれたのに、

  どうしてそんなことをするんだ?”

 

と、いままでを変えようとする人、なにか新しいことをしようとする人をみんなで寄ってたかって潰す。

 

折角で、できる人の目を潰す。とりわけ発想豊かな若い芽は未来の場を乱すものとして、早めに摘む。折角では、社会は進歩しない。そんな折角は水の泡にしないといけなかった。折角は、“俺の眼が黒いうちは、絶対に変えさせない”に通じる。

 

本当はそんな新しいコトをされたら、自分たちのいる場所がなくなってしまうことを怖れる。本当は、自分たちはその新しいことができない。それを折角で、隠す。

 

コロナ禍は、近代以降、明治維新、敗戦につづく、三回目の大断層である。

2021年から始まったコロナ禍に伴って、実質的には社会システムはリセットされようとしている。しかし明治維新や敗戦リセットのような強制終了ではないので、自らが意識しないと、リセットの姿が見えない。だから変わろうとしない。コロナ禍でのリセットは、それが難しい。

 

自らが意識しないと、変われない。

折角、何百年も武家をしてきたのに、突然、廃藩置県となったので、パーとなった。武家でありつづけたいと思っても、武家でいられなくなった。今回のコロナ禍はこのような強制終了ではない。折角、いままで頑張ってきた。だからコロナ禍の間は、我慢しよう。コロナ禍が通りすぎれば、なんとかなる。しかし、なんとかなる話とならない話がある。

 

折角と思う事柄が多ければ多いほど、変わらない、変われないと思おうとする。元に戻れる保証はないのに、折角で、なぜか生き残れるものと考える。

 


3.やれると信じる世界・やれないと信じる日本

 

敗戦時の日本は、なんでもやれると信じていた。いや、やらないと生きていけなかった。食べ物がない、衣服がない、住む場所がない、だからやらざるを得なかった。日本国民のみんなの頑張りで、一通りの社会・生活基盤ができあがった。気がつけば、世界から注目されるくらいの財産が貯まり、高い所に登りついた。

 

そこから、「折角〜だから」が増えた。折角で、それまでを食べるだけのようになった。折角で、上から目線で見るようになった。だから、なにもない、ゼロから始めるような人を可哀想にと思うようになった。

 

人気のある企業に入社した。折角、小さいころから受験勉強をして入った人気企業は、コロナ禍で大変な状況になった。折角、激戦を突破して入れた名門企業が、別の会社に吸収され、社名が変わり、外に出された。どうしてこんなことになったのだろうか。折角、その会社に入ったからと言って、未来は夢ではなく、妄想である。未来は、なにも約束された訳ではない。

 

  ■ 夢とは、無から有を生む出すための目標

  ■ 妄想とは、有から無にしないためのご都合ビジョン

 

日本は一億総「折角」時代となった。コロナ禍の社会を変えるのは難しい。年配世代が「折角だから」と考えたがることは理解できない訳ではないが、日本は若い世代も「折角だから」と考える傾向が強い。折角〜だから、変えない。

 

昨日まで通用してきたことが、今日は通用しなくなるかもしれない。今日あったことが、明日は変わるかもしれない。それがコロナ禍の位置づけは

 

コロナ大断層(リセット)

 

暖簾を掛けてもお客さまが入ってこなくなるなど、誰が想像できただろうか。あんなに乗客が一杯だった新幹線がガラガラになるなど、誰が想像できただろうか。朝から晩まで来ていただいた観光客が一人も来られなくなるなど、誰が想像できただろうか。

 

過去がどうだったではなく、未来にどうありたいのかではなく、現在(いま)にこだわる。「これまで・これから」ではなく、「現在」にこだわる。「これまでこうだつた、これからこうなる」ではなく、「現在、こうです」にこだわって考え、行動する必要がある。

 

コロナ禍リセットとは、それまでを無条件にやめることではない。現在にこだわる。現状を観る。現状の環境ごと、局面ごと、条件ごとに、ベストをつくす。その時にできることを精一杯する。

 

日本人は「折角だから」で、変えなかった、変わらなかった。だから外からつけ込まれた。とりわけ変革期での折角は禁物。「折角だから」で留まる日本は世界から取り残される。コロナ禍においても世界はがどんどん新しいことを始めている。日本では新しいことを始める人が少ない。なぜか。

 

  世界はやれると信じる。

  日本はやれないと信じる。

 

世界はやれると信じている。だからやれると信じて努力して報われる。一方、日本はやれないと信じている。だから努力しない。そこに「折角〜だから」がでてきて、日本は30年を失った。

 

その「折角」から解放されると、いくらでも変われる。折角をやめて、やれると信じて、次に踏み出す―コロナ禍の現在が最後の好機である。やりなおしの好機である。「折角」ということをやめてみることから、始めよう。

 

(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

 

〔note日経COMEMO 7月21日掲載分〕


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