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2021年04月15日 by 池永 寛明

【交流篇】「マンボウ」ショックの正体


結局、司馬遼太郎氏が書けずに、半藤一利氏が書いた「ノモンハンの夏」をコロナ禍に読み返した。戦略は甘く、行きあたりばったり、面子と面子のすれちがいと責任の霧散と、役割分担のバラバラさ。史上最悪の作戦ともいわれたノモンハン事件から81年。同じことが、コロナ劇場で繰りひろげられている。ノモンハンと同じような構図。プレイヤーが違うだけで、課題は変わっていない。現場でなにがおこっているのかを誰もつかまない、誰もつかんでいない。誰も止められない、誰も責任を負わない。これからどうなっていくのかは、歴史が知る。


1.「マンボウ」ショックの正体

みんな疲れている。だけど「コロナ疲れ」とひとくくりにしてはいけない。この1年ずっと我慢・辛抱の連続だったから、しんどい、疲れた。それは単純な話ではない。ずっと猛スピードで走っていて、令和2年に突然、ブレーキがかかった。つんのめったり、脱線したり、引きかえしたり、思考停止したり、不安になったり、うつ病になったり、洗脳されやすい状況になっているのではないだろうか。



と、大阪の飲食店主たちと語りあった。飲食店主たちは、こういった。

連日連夜いっぱいお客さまに来ていただき、にぎわったコロナ禍前。忙しかった。しかし思ったようには儲からんかった。身を粉にして睡眠時間を削って働いたが、金は残らんかった。良い「機械」を入れたら便利になるよ、楽になるよと言われたが、その機械は高かったし、店の厨房に入る場所がなかったので買わなかった。毎日が忙しくて、飲食業の従業員の労働時間や休みは、企業のようには取ってやれなかった。遅れているといわれてもやりたくても、できなかった。なによりも飲食店の経営者にとって



現在どうなっているんや、これからどうしたらええのかを考えないといけないのに、ずっと走りっぱなしで考える時間がとれなかった。そしてコロナ禍となった。あれよあれよで、風景が変わった。

コロナ禍で人の動き、街の動きが大きく変わった。暖簾をかけたらお客さまが入ってきてくれた。「美味しいね」と満足してもらえるものを一所懸命つくることだけを考えてやってきたやり方では通用しなくなった。



営業の自粛。営業時間の短縮。ソーシャルディスタンスの確保。なによりもテレワークに接待の自粛に出張自粛で、お客さまは来なくなった。コロナ禍で、これまでの飲食ビジネスの「常識」が変わった。

1年がたち、3月に緊急事態宣言が解除された。冬が終わってあったかくなったから、もう大丈夫。これでおしまいや、さあこれからやと思った途端に、急に感染者数が増えた。1ケ月も経たないうちに「まん延防止等重点措置(まんぼう)」となった。それも変異種が多い。いままでのコロナと違うようや。

ここでもう一回となった。そしたらまだまだつづくんとちがうやろか ― 「まんぼう」ショックや。池ちゃんがいうてたとおりになってきたわ。
「コロナ禍はリセット(大断層)。コロナ禍後はコロナ禍前には戻らない」と昨年、池ちゃんから聞いたとき、そんなことにはならへんで、絶対に元に戻ると思てたけど、ちがった。いままでのやり方では、通用せえへん、元に戻らへんと肚くくらんとあかんと、大阪の飲食店主たち。

2.コロナ禍リセットして三本柱

これまで飲食店経営は「店一本柱」でやってきた。インバウンド狙いの店はインバウンドが来んようになって目茶苦茶になり、接待狙いの店も企業が接待しなくなって大変なことになって、弁当やネット販売をやりだしたけど、今までのようには儲からへん。そりゃそうや。いままでの店内の仕事のやり方や感覚で新しいことをしているから、うまくいかへんのや。コロナがおわったら元に戻ると思てるから、本腰いれてやらへん。だからうまくいかへん。

今度の「まんぼう」はショックや。おわりそうやと思ってたから。それがちがった。緊急事態宣言やまんぼうはこれからも時々おこっていくということになりそうやと薄々感じていたけど、「まんぼう」で決定的になった。

それまでの「店一本柱」をやめて、「別の柱」を立てていかんとあかん。飲食店での飲食が一つ目の柱。そこで大切なのは、ええもんをつくることや。どこにも負けへんええもんをつくることや。せやけどええもんつくっても、営業の短縮やソーシャルディスタンスで売り上げはこれまでのようにはいかへん。だからこれ一本ではあかん。二本目の柱、三本目の柱を立てなあかん。



第二、第三の柱は第一柱の延長線上、内職みたいにやったらあかん。コロナ禍でうまくいかへんのは、これや。第一の柱の「ええもん」を強みにして第二の柱として「その店のええもんを店頭で販売したりネットで販売する事業」、第三の柱は「店から外に出ておこなう事業(給食・社員食堂・出張・パーティ)」を立ち上げていかんとあかんのやけど、それぞれ単独で事業していくようにせな、絶対にうまくいかへん。このようにして「三本の柱」を持っとかないとあかん。これから食のビジネスは大きく変わっていく。

もう一つは、「1に品質、2に生産性」や。よくテレビや新聞では生産性、生産性の向上というてるけど、生産性を高める前に品質をあげへんとあかん。順番が大切。食でいえば美味しく安くなかったら、お客さまは満足してくれへんし、来てくれへん。

コロナ禍後の価値観はこれからより本物志向になっていく。ほんまにええもんが選ばれるようになる。これまでみたいな、安いとか目立つとか見映えのいいもんでは通用しなくなる。本当にええもん、おいしいもん、身体にええもん、健康にええもん、思い出に残るもん ―「本物」が求められていく。

それをこれまで店のやり方、営業時間・労働時間のままでやりつづけていたらあかん。週1日や2日しか店を開けないというやり方に変えたり、いい機械を持っている店に行って使わせてもらって料理を仕込んだり、お客さまのところに出張して料理をふるまったり、店をお客さまのいる所に移動したりと



これをせな、お客さまに寄り添っていかへんと、コロナ禍は生きていかれへん。コロナがおちついたら、コロナ禍前に戻ると思てる人・店と、コロナ禍前には戻らないと思てる人・店とでは、これからは大きく変わる。コロナ禍で冬の時代をすごしている飲食業界のなかでも、次に向けて動き出している店はある。マンボウショックで立ちどまっていたらあかん。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)


〔日経新聞社COMEMO 4月14日掲載分〕