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2020年04月07日 by 池永 寛明

【起動篇】虎が退治したことは


病気にかかることを「患(わずら)い」という。患者・患痛・罹患の「患」は煩(わずら)いである。病気とは健康な体に、煩いがまとわりつくこと。煩いは自らの意思で振りはらうもの。一方、英語では患者のことをPatientと書き、欧米では病に耐え忍ぶという意味である。日本は病気になって耐えてじっと待つのではなく、自らの意思で振り払うとしてきた(COMEMO「日本人最大の関係性「ウチとソト」 ― スリッパ物語)


200年前の1822年に、大坂でコレラが流行した際、船場の道修町の薬種仲間が、疫病除けの薬として「虎頭殺鬼雄黄圓(ことうさっきうおうえん)」という丸薬と張子の虎「神虎」のお守りをつくって、神農さんとよばれる「少彦名神社」で祈祷いただき、罹患者に施したところ、効能があったという。日本は病に対して、知恵を駆使してみんなで戦った歴史がある。現代も毎年11月22日、23日の神農祭には、全国の製薬関係者や地元の人が少彦名神社のある道修町に集まる。今、少彦名神社では「コロナウィルス退散」祈願がされている。

 


残念ながら、入学式も入社式もいつものようにできない。歓送迎会もできない。定年退職者も人事異動者の職場のみんなの前での挨拶がしにくい。年度事業方針の伝達もできない。メッセージ原稿はメールで、ネットで。在宅勤務にWEB会議に在宅ネット授業に企業研修はEラーニング。リアルを減らしてネットワークにシフト。前例にないことばかり、今まで経験したことがないことばかり。阪神淡路大震災のときも東日本大震災のときでも、ここまでではなかった。戦後75年で最大。第2次世界大戦以来の状況だという認識があるのかないのか。


コロナのあとは、コロナのまえではない。
コロナのあとに向けて、世界はすでに動いている。ロックアウトされた都市のなか、テレワークで動いている。4月1日の日経新聞の「中外時評」の「危機生き抜く 産業の多様性」は的確。「デジタルシフトは様々な領域で加速する」「今回の危機を教訓に世界の企業がデジタル活用を推し進めるのは確実で、『コロナ後』にはIT産業が今まで以上の力を持つことになる」 ― まったくそのとおり。

アメリカ・中国・インドをはじめ、「コロナ後」に向けて、世界は動いている。正確に言えば、世界は新たなビジネスルールですでに動いている。世界は“IT・AIが、なにかできる”のではなく、“こんな生活、こんな仕事をするために、IT・AIをどのように使うか”と考えて、ビジネスを組み立てている。“技術”から出発して考えるのではなくて、“あるべきライフスタイル・ビジネススタイル・ソーシャルスタイル”を起点にしてビジネスを組み立てている世界の流れとのちがいが、日本の「失われた20年」の根元のひとつではないか。


日本には、“イノベーション”についての妄想がある。
そもそもイノベーションが意味しているのは「チェンジ」ではなく、「これまでにない新しいものにする」ことであり、“技術”にこだわったものではない。「the use of new idea or method」(新しいアイディアまたは方式・仕様)が世界の「イノベーション」のとらえ方であるのに対して、日本は“旧式に対して、何かを高度化した新しい変化”というイメージ・想いを「イノベーション」という言葉に託して、イノベーション=価値ある変革」とみなした。そのため「イノベーション」という言葉が日本に入ってきたとき、電機産業が国の基幹産業だったことからも、「イノベーション=技術革新」と訳すことになった。ここから、日本の技術至上主義が始まった。


前提条件がちがってしまっている。
社会構造がリセットしているのだ。そのことに今まで気がつかなかったり、気がつかないふりをしていた。“答えのない”時代になったといったり、“問題を考える”時代になったという人も多いが、この発言が出ること自体が、社会が「リセット」時代に入っていることを示している。そのことを日経新聞のタイムラインに、新人とシニアの行動様式の違いが的確に描写されている。重要なのは、なぜ違うのかだ。若者とシニアの「仕事・生活についての考え方・価値観」が大きく変わったため、行動を変えている ( 4月1日 日経新聞「新人とシニア・給与差縮む/キミたちはどう働くか」 )



真のリセットとは、この連動図の中核である「考え方・価値観」が変わったということである。「考え方・価値観」の変化が「制度・ルール」を変えることによって「行動様式」を変え、それを磨き進化し繰り返していく「仕組み」を変え、それらが連動しながら、「こうありたい・達成したい姿」を導いて実現していく。しかし、たとえば「仕事・社会に対する考え方」を変えずに「テレワーク」を導入してもなかなかうまくいかないのだ。このように「考え方・価値観」を変えずに、「制度・ルール」や「仕組み」を変えても、機能しない。さらに世代間による「考え方・価値観」のちがいは、“意味わからん訳わからん”となり、社会は「機能不全」に向かっていく。


市場・顧客が見えていないというのは、こういうことである。
「考え方・価値観」という本質=前提条件が変わっているのに、技術論や方法論ばかり語る人が多い。働くとはなにか、会社とはなにか、親子とはなにか、家族とはなにかという本質をつかまず、ライフスタイル・ビジネススタイル・ソーシャルスタイルをどうありたいのかというイメージを想像できないのに、「IoT・AIで、イノベーションをする」では、社会に想いは伝わらない。


なぜ答えが導けなくなっているのか。
類推(アナロジー)が機能していないのだ。独創的なモノとかコトとかサービスを新たに考えようというが、たいていはちがう分野で、日本のどこかでだれかが、世界のだれかがそれを見つけたり実行している。それを知らないだけなのだ。“答えがない”時代ではない。答えにつながる「糸口」が見つけられてないのである。
ネットで検索するということだけではなく、歴史・過去に学び、キーマンを具体的に訪ねて話を聴いて学び、新聞記事を“自分事”として考えながら丹念に読んで学び、関係者でワイワイガヤガヤ議論して、プロトタイプをつくって、試行錯誤して、失敗したり成功したりするプロセスのなかから、「類推」回路をつないで、「答え」を導いたり、「すごいもの」をつくりだす地道な活動が今こそ必要である。


世界中はコロナと戦いながら、「コロナのあと」を考えている。コロナのあとは、コロナの前ではない。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 4月2日掲載分〕