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2018年11月30日 by 池永 寛明

【場会篇】 本当は、一人ではなく一緒にいたい。

 


「思い出の場所はどこ?」との質問に、「とりたてて素敵な公園ではないけど、仕事が忙しくてなかなか遊んでくれなかった父が時間をやりくりして連れて行ってくれた公園が思い出」と、女子学生が回答した。毎週大阪の大学で講義している「大阪の風土と文化」で毎週「様々な思い出」のことを訊いているが、毎回発見がある。


「思い出の本はなに?」の質問には、「シンデレラ、赤ずきん、3匹のこぶた、桃太郎」という本がトップ4だった。思い出の童話をあげた理由に、「毎日毎日暗唱できるぐらいに、おばあちゃんに読んでもらったことが忘れられない」、「母に読んでもらって、迷子になると狼に食べられてしまうよと教えられた」というように、大学生たちの記憶には、「家族といっしょ」というシーンでの思い出が多かった。どの場所とか、どの本が読まれているということよりも、「だれと、どこで、なにをしたのか」「だれと、どこで、どんな話をしたのか」が大学生たちにとって大切なことだった。これら大学生の言葉から、“家族との深い関係の空気”が濃厚にうきあがっている。旅行のパンフレットや本のプロモーションが捉えている美しい「アングル」とはちがっている。


イタリアでは「ディナー」だけでなく、「ランチ」を家族と一緒にとる。そのためにイタリアの学校は昼までに授業をおえて、祖父母が学校に迎えにきて一緒に歩いて家に帰る。親も仕事から家にいったん戻って、家族が一緒になってランチをとる。なぜそうするのか?は愚問である。家族が一緒に食事をするのが当たり前だという。イタリア料理が「マンマ(ママ)の料理」といわれるのは、こういった背景からでもある。日本も、かつてそうだった。家族と一緒に夕食をとっていた。一緒にテレビを見るとはなしに夕食をみんなでとっていた。父は黙々と食事をする、母が食卓で中心となって、子どもたちと話をしていた。食事の時間に家族の情報は共有された。日本も「ママの料理」だった。


「おばあちゃん、大丈夫?」と、豪雨水害で逃げ遅れたおばあさんに声をかけながら、地元の人たちがボートで助けに行くシーンをこの夏何度も見た。地域の人たちが1人暮らしのお年寄りを助けるということを最近よく見聞きするようになった。その姿はとても美談である。道路が川のようになり、家が流されそうになり、溺れかかっているおばあちゃんを助けに行くのは「地域のつながり」として素晴らしい。


かつて日本では「結(ゆい)」「講(こう)」「連(れん)」「組(くみ)」といった「組織」を機能ごと、集まる人ごとに柔軟につくり、人と人とを結んで、互いが助けあってきた。これらの「組織」は農・漁村だけではなく、都市にもあった。現代は「地域コミュニティ」という語が使われているが、そもそもコミュニティとは「互助」とか「共同負担」が本来の意味である。本当は自分がしないといけない「役割」を、だれかに手伝ってもらうのが「コミュニティ」である。しかし自分もだれかを手伝うから自分も手伝ってもらえるという<手伝い、手伝ってもらえる>という相互関係が「コミュニティ」の意味である。


風水害、地震など万が一のことがおこったとき、困っているおばあちゃんを地域の「コミュニティ」が助ける。それは地域の連帯として素晴らしい。しかし独居のおじいさん、おばあさんには子ども、家族がいる。本来は子どもをはじめとする家族が助けにいくのが筋である。しかし近くに住んでいないからすぐに助けに行けない、だから近所の人たちが「おばあちゃん、大丈夫?」「おじいちゃん、しっかり」と助けに行く。お互いさまなので、だれかになにかがあったら助けに行く。そのために地域の人々は日常につながる努力、負担をする。そういう努力をするから自分になにかあったら、みんなが自分を助けてくれる。日頃、自分が他人になにかをしなければ、本当は万が一のとき、だれも助けに来てくれない。


地域の人たちが困っている人を助けに行く。消防、警察、自衛隊が出動して救助に行く。そのシーンに「家族」の姿が見えてこないケースが多い。家族は遠くに住んでいるから助けに行けない、行けないのは致し方ないという空気を感じる。家族のつながりが薄れている。家族で一緒にいたいのに一緒にいられない。”家族”の存在が地域に薄れている。加えて、権利と負担とがアンバランスになっている。サービスを受けるだけで、サービスをしない人が多くなった。サービスを要求するだけで自分は負担しない人が多くなった。受益と負担がアンバランスな出来事を多く見聞きする。とても変、こんなアンバランスは、世界で通用しない


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  1115日掲載分


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