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2022年10月26日 by 弘本 由香里

【明日のコミュニティ・デザイン 四天王寺門前から再起編】時代を越えて求められる、救済・復活・再生の物語と場


こんにちは、エネルギー・文化研究所の弘本由香里です。

私は都市居住を支える文化やコミュニティ・デザインを中心に、実践的な研究活動に取り組んでいます。今回は、主要なフィールドの一つ、大阪・上町台地上にいにしえより立地する、四天王寺の門前から今に続く物語世界を入り口に、コミュニティ・デザインに欠かせない要素に想いを馳せてみます。


1.「さんせう太夫」「しんとく丸」の物語が、再起の舞台とした四天王寺


幼いころ、絵本や紙芝居で「安寿と厨子王」をご覧になった記憶がある人は多いでしょう。人買いの手に落ち、山椒大夫に売られた姉・安寿と弟・厨子王の苦難の物語です。厨子王は姉の犠牲によって奴隷の身から逃れ、逆境を乗り越え一国の領主へと成長します。よく知られたこの物語は、森鴎外の小説「山椒大夫」をもとにしているのですが、その素材は中世に生まれた説経節「さんせう太夫」にさかのぼります。

説経節は日本の中世末から近世にかけて、路上や寺の境内などで盛んに行われた、遊芸人たちによる語り芸能です。つらい境遇にあっても一筋の光明が差すことを庶民に教え説く“救いの物語”が人々の心を惹きつけました。

実は、説経節の「さんせう太夫」に描かれていて、森鴎外の小説「山椒大夫」に描かれていないものがあります。それが、厨子王による復讐劇と、そこに至る前、長い放浪の末にたどり着いた四天王寺で始まる人生の大転換・再起を象徴する場面です。

また、人形浄瑠璃や歌舞伎でも人気の「摂州合邦辻」や、能の名作「弱法師」のもとになっている説経節「しんとく丸」でも、絶望の淵に突き落とされた主人公が復活を遂げていくために欠かせない舞台として、四天王寺が設定されています。

ここでは、それぞれの物語の詳細な説明は割愛しますが、ご興味のある方はぜひ、書籍や公演等でご覧になってみてください。


▲「安寿と厨子王」戦前〜戦後に出版された講談社の絵本シリーズ(左)、江戸時代の説経正本の近代復刻本から

「せっきょうさんせう太夫」挿絵(中)と「せっきょうしんとく丸」挿絵(右)★



2.なぜ、四天王寺は復活への道行きを象徴する場とされたのでしょう


それにしても、どうして主人公たちの再起のために、四天王寺という舞台が必要とされたのでしょう。歴史を紐解けば、四天王寺は日本の仏法最初の官寺として誕生していますが、聖徳太子の発願で、鎮護国家と万人救済の実践所とされたところに大きな特徴があります。そのために設けられたのが、四箇院(しかいん)制度で、敬田院、施薬院、療病院、悲田院の4つの柱となる事業が実践されてきました。敬田院は核となる寺院そのもの、施薬院・療病院は医療事業に相当し、悲田院は社会福祉事業に相当します。

つまり、四天王寺は創建以来、社会的弱者を受け入れ、社会復帰を支える救済事業を使命として存在してきたのです。悲運の境涯や、繰り返す動乱や災禍の中、哀しみを抱いて生きる人々が、共感や希望を求めてやまない、普く人々を包摂する無縁平等の広場ともなっていったのでしょう。

説経節が生まれた中世には、四天王寺は浄土信仰の聖地としての信仰を集めていました。熊野街道の通り道にもあたり、周辺を含めて宗教都市の様相を呈し、熊野詣での旅人たちの往来も盛んでした。



▲四天王寺の西門・石の鳥居は極楽浄土の東門に当たるとされ、沈む夕湯を拝む日想観の聖地として信仰を集めています



3.「さんせう太夫」「しんとく丸」時代を越えて求められる、社会的包摂の文化とコミュニティ・デザイン


熊野詣でと四天王寺の関係を見て取ることができるのが、説経節「小栗判官」です。歌舞伎や人形浄瑠璃はもちろん、講談やスーパー歌舞伎等にもなって幅広い人気を集めていますが、謀殺された小栗判官が餓鬼阿弥となってこの世に戻り、不自由な体で土車に乗せられて巡礼の長い旅を続け、熊野の地で復活を遂げる物語です。

江戸時代に描かれた「小栗判官絵巻」には(伝岩佐又兵衛、宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)、天王寺の門前を描いた場面も登場します。上町台地・四天王寺は、熊野詣での重要な通過点とされていたことがわかります。この地は、社会からこぼれ落ちてしまった人、こぼれ落ちそうな人を迎え入れることのできる文化的装置、最後の拠り所、再起へのエンパワーメントを支える場所とされてきたことがうかがえます。

今、再び、大きな社会の変化の只中にあって、人々の痛みに寄り添い、直面する格差や分断、孤立の闇を越え、成長や再起を支える、物語や場や道行の文化が必要とされているのではないでしょうか。視野の外側に追いやられているものにいかに目を向けていくか、文化としてのコミュニティ・デザインの包摂力が問われていることに気づかされます。


11月8日夜開催の、2022年秋の上町台地トークライブでは、「四天王寺門前から今に続く、説経節・絵巻等の背景を読み解く 成長や再起を支える物語はなぜその“場”や“道行”を必要としたのか?」をテーマに、日本仏教美術史がご専門の一本崇之さんにお話をうかがいます。オンラインで視聴いただけますので、ご関心のある方は、下記のURLから詳細をご確認ください。


★印の画像は国立国会図書館デジタルコレクションから


 

<2022年秋の上町台地トークライブのご案内>


https://www.og-cel.jp/info_new/1310474_46968.html


 


 




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