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2019年11月28日 by 奥田 浩二

スタートアップとのつきあいかた(14)

スタートアップとのつきあいかた(14):

各種事例の分析:起業土壌論の構築と活用

(2019年11月29日投稿)

 本コラムでは、これまで国内外の事例を紹介してきました。今回は、これらの事例から私が何を考えようとしているのかについて紹介したいと思います。


 私は、2006年以降、起業に関連する機関や業務に携わってきました。それ以前も、AIやインターネット、IT系の業務経験があり、シリコンバレーを初めて訪れたのは25年以上前です。シリコンバレー以外にも、本連載でご紹介した地域を含め多くの国内外の起業支援現場を見てきました。


 そのようななか、近年特に考えることがあります。それは、特定の仕組みが世界中に広がる事例が増えているという現状です。本連載の第12回でご紹介したアクセラレータという仕組みはその最たるものだといえるでしょう。今やアクセラレータプログラムは世界の多くの地域で実施されています。日本も例外ではありません。

 広がることは悪いことはありません。良いものを取り入れて、よりよい社会の構成に役立てていくことは重要です。ただし、同じような仕組みを取り入れても、同じような成果につながるとは限りません。つまり、外見上は同じような仕組みなのに、成果に大きな違いがあるということも起こります。

 この理由は、仕組みにのみ注意が集中し、その仕組みが機能するための地域との相性が十分に考慮されていないからではないかと私は考えています。

 植物をアナロジーとして考えてみましょう。

 ある地域でうまくいっている起業支援の仕組みをリンゴの木にたとえてみます。青森や長野でおいしいリンゴの木を見つけて、「これはいい」と苗を持ち帰っても、やせた土地など環境が異なるとうまく育ちません。

 一見あたり前のことですが、起業支援の現場ではこのようなことが起こっているのではないかと考えています。

 例えば、アクセラレータをみてみましょう。日本でもアクセラレータプログラムは多くの機関で行われています。ただ、米国の状況とは少し異なっているようです。米国東西海岸にある複数のアクセラレータを訪問したことがありますが、そこでは、参加募集に対して1000件程度の応募があるとのことでした。アクセラレータに参加するための入り口に、厳しい競争があるのです。この厳しい競争を生き残った案件がさらにプログラムを活用して生き残りに挑戦していきます。一方、日本での応募件数は、このような状況とは異なっているようです。入口としての競争が激しいことは、よりよい案件を発掘する確率が高まり、それが成果につながり、またアクセラレータ自身のブランド構築にも役立つと考えることは非合理的ではないでしょう。

 起業支援の仕組みは、起業文化や事業環境などその地域の状況と関係しています。米国では旺盛な起業家精神や起業文化が存在しています。これらが、米国における起業支援の仕組みの土台となっています。土台とは、植物のアナロジーでは土壌にあたります。起業支援の仕組みは、その土台である土壌から養分を得て成長し、果実としてのスタートアップを生み出していきます。

 ただ、ここで注意すべき点が一つあります。それは、アクセラレータなど起業支援の仕組みは確認しやすいものですが、起業文化や事業環境など地域の土壌の状況は必ずしも確認しやすいものではないということです。それゆえ、起業支援の仕組みに過度に関心が向き、地域の土壌との相性に十分配慮がなされていないのではないかと考えています。もし、起業支援の仕組みと地域の土壌との相性に問題があるのであれば、地域の土壌を「耕す」という行為が必要となります。この「起業支援の仕組みと地域の土壌との関係性」と「地域の土壌を耕す」ということは、起業支援の仕組みを構築・改良していこうとする地域にとって重要ではないでしょうか。このような考え方を、私は「起業土壌論」と名付けました。
 

 図表1 「起業土壌論」 起業支援の仕組みと地域の土壌との関係




筆者作成


 起業土壌論から見れば、これまでの事例はどのように読み解けるのでしょうか。

 例えば、米国Mucker(第12回)の事例は、大都市であり、エンターテインメント産業が強く、そして大きな港があるという地域の土壌をうまく活かそうとしています。カナダのトロント(第9回)では、行政機関と大学、金融機関などの地元産業界が地域の土壌です。

 また、茨城県取手市・龍ケ崎市(第3回〜第5回)では、起業を活性化する様々な活動を行っていますが、これらは、地域の土壌を耕しつつ、起業支援の仕組みを構築しようとしている事例です。
 

 起業土壌論の観点から各種事例を分析することで、これからの起業支援を考えるヒントを抽出しようとしています。現在、まとめ作業をおこなっています。後日ご紹介の機会を設ける予定です。

 本連載の事例分析は、今回で一区切りとなります。


 次回からは、少し視点を変え、ビジネスプランコンテストやビジネスモデルについて考えていきます。


今回のまとめ

  ・起業支援の仕組みは、その地域の土壌(起業文化、事業環境など)と密接に関係しています。
  ・両者に十分な相性が(まだ)ないのであれば、地域の土壌を耕すことが重要となります。
  ・このような考え方を「起業土壌論」としてまとめています。
  

次回の予告

  ・ビジネスプランコンテストを成功させるコツ


スタートアップとのつきかいかた 記事一覧

   第1回:起業の現状はどのようになっているのか

      http://www.og-cel.jp/information/1278928_15932.html

   第2回:2つの起業タイプ

      http://www.og-cel.jp/column/1279678_15959.html


   第3回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(前編)

      http://www.og-cel.jp/column/1279684_15959.html


   第4回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(中編)

      http://www.og-cel.jp/column/1279955_15959.html


   第5回:スモールビジネスの活性化 茨城県取手市・龍ヶ崎市の事例(後編)

      http://www.og-cel.jp/column/1280447_15959.html


   第6回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(前編)

      http://www.og-cel.jp/column/1280808_15959.html

   

   第7回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(中編)

      http://www.og-cel.jp/column/1281279_15959.html


   第8回:ベンチャービジネスの活性化 福岡県福岡市の事例(後編)

      http://www.og-cel.jp/column/1282055_15959.html


   第9回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 カナダ トロントのMaRS

      http://www.og-cel.jp/column/1282974_15959.html


   第10回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 インペリアル カレッジ ロンドン

      http://www.og-cel.jp/column/1283073_15959.html


   第11回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 英国 ケンブリッジサイエンスパーク

      http://www.og-cel.jp/column/1283604_15959.html


   第12回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 米国 Mucker

      http://www.og-cel.jp/column/1283606_15959.html

   第13回:海外事例:ベンチャービジネスの活性化 台湾のサイエンスパーク

      http://www.og-cel.jp/column/1283626_15959.html

(執筆者:エネルギー・文化研究所 研究員 奥田 浩二)


本連載について

 本コラムでは、起業で地域を元気にするための鍵を考えていきます。記載内容は、執筆者が入手した情報をもとにしていますが、執筆者の意見を含んでいます。各内容は、執筆者が所属する機関・企業の公式・公的な見解を表明するものではありません。