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2024年03月08日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】18.イギリスの外交政策とは?

今回の「歴史に学ぶエネルギー」では、20世紀初頭のイギリスの外交政策について考えてみたいと思います。現代の世界情勢まで影響を及ぼし続けている政策とは、どのようなものだったのでしょうか?

 

1)植民地の間接統治

植民地支配で大国にのしあがった大英帝国の統治方法について、振り返ってみましょう。

イギリスは、おもにインド亜大陸で植民地を拡大させていきましたが、重要な土地は直轄地としながらも、周辺地域は地元民をつかって間接統治していました。直接統治と間接統治とを組みあわせる、じつに巧妙な政策です。

 

人というものは、「共通の敵」が存在していれば結束する性質があります。

スポーツの試合がよい例ですが、不良グループ間の抗争も同じ原理で動いています。本来の敵ではまったくないのに、必ず勝てる相手を敵とした勘違いと優越感が合体したものが「いじめ」になります。子供のいじめは残酷そのものですが、大人の世界でもいじめはなくならず、より巧妙になって表面化しにくくなる分、陰湿さが増してきます。いずれの場合でも、共通の敵をつくれば仲間の結束は固くなります。「彼と違って、君はよくやってくれているね」という、絶対にしてはいけない比較も同じ構図です。同じ原理は、国家間にも働きます。その究極が戦争です。

この原理をあるグループを支配するために利用するとすれば、彼らに共通の敵をつくっておくことになります。そうすれば、彼らは自然と結束してくれます。しかし、その敵に自分たち自身がなるわけにはいきません。ですから、彼らのなかに支配者と被支配者の両方をつくっておくと、それぞれがそれなりに結束してくれるというわけです。

そうして、強力な武力をもって彼らの外側から実質支配しておけば、富だけをうまく得ることができる。これが間接統治の神髄なのです。

 

当時のイギリスは、対外収益をおもに三角貿易で得ていました。三角貿易には、いくつかあります。

イギリス主力輸出品である繊維製品をアフリカへ運び、対価として「黒い積み荷」つまり奴隷を安く仕入れてアメリカや南米へ売る。アメリカ大陸で奴隷を綿花栽培やサトウキビ栽培に従事させ、「白い積み荷」つまり綿花や砂糖を本国へもって帰る。

あるいは、英印中の三角貿易もあります。イギリスは国内で人気の茶や磁器を中国(清)から大量に輸入したいのですが、その費用をどう工面するか。産業革命でつくられたイギリス製の綿織物をインドに売り、インドでアヘンを栽培させて、そのアヘンを中国に売りつけることで茶の購入資金をまかなう。

ここでひとつの問題が生じます。それまでのインドは、キャラコと呼ばれる伝統的な綿織物の一大産地でした。そこで、三角貿易の邪魔になるインド綿職人たちの手を切り落とし、アメリカ綿花を加工したイギリス製品を売りつけたわけです。

これだけの非道を現地でおこなっていたわけですから、現地人の反乱を避けた間接統治は必須の手法だったのです。

 

同じようにヨーロッパの強国は、世界各地の植民地で間接統治の原則を貫いていました。

たとえばフランスによるカンボジア植民地では、ベトナム人を利用して間接統治しました。このため、今でもカンボジア人とベトナム人は仲があまりよくないといわれます。ベルギーがアフリカのルワンダを植民地にした時は、ツチ族とフツ族を対立させて支配しました。この結果、ふたつの民族のあいだに憎悪が残り、1994年の内戦の遠因になっています。

現代に起こっている新興国の紛争や内乱の原因は、この時代の欧米列強による植民地政策が原因となっているものも多くあるのです。

 

2)イギリスの三枚舌外交

欧州勢の妙智な外交で、やはり現代の情勢にまで影響を残しているものがあります。有名なものがイギリスの三枚舌外交です。今の中東地域におけるイザコザが決定的になった原因でもあります。

第一次世界大戦中の1915年、イギリスのエジプト高等弁務官ヘンリー・マクマホンが聖地メッカの大守フセインに「建国宣言に同意する」と記した書簡を送りました。これが「マクマホン書簡」と呼ばれるものです。ここには、アラブ民族を軍事利用する意図がありました。

そして翌年、シリアのフランス総領事フランソワ・ジョルジュ・ピコとイギリス外務省の中東代表マーク・サイクスが密談し、領土範囲を決める条約に調印します。これが「サイクス・ピコ秘密条約」です。自国の領土を確保する目的でした。

さらに翌年、イギリス外相アーサー・バルフォアがユダヤ人のための国家をパレスチナに建設することに賛同し、ロスチャイルド家がユダヤ人国家の建設に踏みだしました。これが「バルフォア宣言」。

 

現在のイスラエルの地は、「マクマホン書簡」によればアラブ人の支配地域だと認めており、「サイクス・ピコ秘密条約」によればイギリスの土地であると条約締結しています。にもかかわらず、「バルフォア宣言」によればユダヤ人国家の建設地として賛同しているという、ありえない矛盾となりました。

「バルフォア宣言」を受けて、ロスチャイルド家が費用を拠出することになります。ディアスポラで世界中に散らばったユダヤ人がふたたび集結し、古代にユダヤ人が住んでいた場所でイスラエルを建国します。ということは、1300年前からパレスチナに住んでいる土着のアラブ人を追い出さなければなりません。しかし、そのアラブ人たちとは「マクマホン書簡」により、その土地に住み続けることを約束されていたのです。

 


ガザ地区などでパレスチナによる自爆テロが今でも多発していますが、彼らパレスチナ人の教養は非常に高くあります。大学を卒業した人たちがつぎつぎと自爆に踏みきるということは、よほどの事態です。そして近年はイスラエルがガザ地区に侵攻し、多くのアラブ系民間人が犠牲となっています。

終わりが見えないイスラエルとパレスチナの抗争は、イギリスの三枚舌外交によって確定してしまった、という闇の歴史があるのです。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。


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