大阪ガスネットワーク

エネルギー・文化研究

  • サイトマップ
  • お問い合わせ

CELは、Daigasグループが将来にわたり社会のお役に立つ存在であり続けることができるように研究を続けています。

  • DaigasGroup

JP/EN

Home>コラム

コラム

コラム一覧へ

2024年01月26日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】12.グレートゲームの時代


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。第一次世界大戦の勃発にむけて、世界が動きはじめています。その根底には、かならず石油がありました。


 

1)シャーロック・ホームズの推理

日本では明治時代にあたる19世紀後半、当時の世界情勢を端的に表現した小説があります。イギリスの名探偵シャーロック・ホームズが登場する推理小説です。

彼の名パートナーに元軍医のワトソン君がいます。ワトソンは、ホームズの探偵としての姿を目の当たりにします。ホームズが事件を見事に解決したにもかかわらず、その手柄をレストレード警部らにすべて取られる形となったことを不満に思います。ホームズ本人はなんとも思っていないのですが、ワトソンはホームズの活躍をいずれ物語として世に発表すると宣言し、それが小説として世に出たという設定です。

ワトソンを語り手として、事件解決の手がかりを彼の目を通すことで読者にあからさまでない形で提示する、という斬新な手法が受けて、今でも読み継がれています。

 

ホームズがワトソン君とはじめて出会った時、ホームズは彼がどこから帰ってきたのか、推理で当てます。

答えは、アフガニスタン。

「日に焼けて負傷した軍医がいたところといえば、アフガニスタンしかない」

というホームズの推理でした。

この物語から、ホームズの時代にはイギリスはアフガニスタンに派兵していたことがわかります。インドを植民地支配していたイギリスは、勢力圏を広げようと北上してアフガニスタンに攻め込みます。

一方で、アフガニスタンの北に位置するロシアも南下政策をとっていました。ロシアはその後の歴史でもたびたびアフガニスタンに攻め込んでいます。

もちろん、のちにペルシャで発見された石油も視野にはいっていたとは思いますが、インドという大国への影響力を高める目的がありました。そのためには、ロシアの衛星国を含むソ連産の石油を活用することが王道であり、インドへ輸送を試みる道中にアフガニスタンが位置していたためだとも推察されています。

 

2)グレートゲームの時代

アフガニスタンだけでなくバクー油田をめぐっても、ロシア帝国とビクトリア王朝下の大英帝国は衝突しています。

スペイン、オランダに続いて繁栄を極めたイギリスですが、そこにアメリカやロシアも加わろうとしていました。その後、ドイツやイタリアも世界的な攻防に参戦してきますが、彼らの目はいつも石油資源にむいていました。

 

のちに起こる第一次世界大戦においても、イギルスは中東の石油利権を確保する努力は怠っておりません。もし西アジアや中東地域がロシアの手に落ちたとすれば、そのインパクトは計り知れません。

第一次世界大戦でイギリス軍が4万人もの兵力をメソポタミアへ遠征させたのも、石油利権が目的でした。兵士のほとんどは伝染病でやられてしまうのですが、この4万人を西部戦線へ投入していれば、戦争はもっと早く終結していたかもしれません。

イギリス戦史に残る一大犠牲でしたが、石油に対する執念の証しでもあったと言えるでしょう。

 

西アジアを舞台として繰り広げられた熾烈な攻防戦。これを「グレートゲーム」と呼びます。

もともとグレートゲームは極東ではじまりました。アヘンで清朝に侵食したイギリスは、シベリア鉄道を敷設して満州から清朝へ進出するロシアと競争し、日本を巻き込んでいきます。

第一期の抗争が頂点に達したのは、日露戦争の頃です。シェルのマーカス・サミュエルの進言によって、イギリスは日本を中国収奪の駒として有効に活用しました。日露戦争では日本は確実に負けるだろうが、巨額の債権を盾に日本支配を宣言すればよい。勝ったロシアに対しても、イギリスの存在を主張できる大きな布石となるだろう。

世界を支配した大英帝国にとって、極東の島国である日本はこの程度の存在であったに違いありません。結果は予想に反して日本の勝利に終わりましたが、少しの油断も許されることのない弱肉強食の世界でした。

インド亜大陸を中心に大植民地政策をとる大英帝国。不凍港を求めて南下しながらペルシャの石油を狙うロシア帝国。周回遅れで植民地支配を虎視眈々と目論むドイツ帝国。時は、世界大戦にむけて各国の思惑が絡みはじめていました。

その歴史の影には、つねに石油があったのです。

 

近年、ソビエト連邦が崩壊してからのロシアは、一時期にチェチェンへ南下侵攻した以外は、おとなしくしていました。地球温暖化により、夏場に限って北極海の航行が可能になったため、ヤマル半島で掘削される石油の搬送が容易になるなど有利と思える状況が現れてきたためともいわれています。

しかし、ウクライナ国内で世界最大クラスの天然ガス田が発見され、さらには有望なシェールガス鉱床での試験掘削がはじまるなど、ロシア経済にとって見過ごすことのできない由々しき事態が表面化してきます。もちろん、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の原因は、単純なものではありません。しかし、ロシアが今後、クリミア半島を返却して黒海の航路を放棄するとは思えません。

エネルギーがロシアの南下、ひいては紛争の大きな要因となりうることは、歴史が証明しています。これからの私たちも、「自動車を売ったおカネで、いつまでも自由にエネルギーが買える」と思うべきではないでしょう。

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。


  • U−CoRo
  • 語りべシアター
  • 都市魅力研究室
  • OMS戯曲賞
Informational Magazine CEL

情報誌CEL

【特集】ウォーカブルの本質を考える

近年、「ウォーカブル」という言葉をよく耳にします。 まちなかを車中心から人中心へ...

バックナンバーを見る
  • 論文・レポート・キーワード検索
  • 書籍・出版
  • 都市魅力研究室
  • FACEBOOK

大阪ガスネットワーク(株)
CEL エネルギー・文化研究所

〒541-0046
大阪市中央区平野町4丁目1番2号

アクセス