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2020年01月27日 by 池永 寛明

【交流篇】これもダメあれもダメ ― タマネギ理論(下)


スタンドが人でいっぱいになった。
日本ラグビーのトップリーグに、ファンが押し寄せている。ワールドカップに感動した「にわかファン」が新たにラグビー競技場に足をはこび、ラグビーを楽しむ。その人たちが購入するチケットの代金はどこからもひっぺはがされたのではない。パチンコやゲームセンターに行くのをやめて、ラグビーを観に行ったわけではない。純増である。真水である。


徳島の葉っぱビジネスもそう。
今まで見向きもしなかった葉っぱに価値がうまれた。地面に落ちている葉っぱが欲しいという人があらわれ、葉っぱを拾って売ったら、日本のみならず世界の日本料理店がその葉っぱを買ってくれるという経済循環ができて、お年寄りの収入がうまれ、張り合いがでて、みんな元気になった。おむすびもそう、日本海苔とともに、世界アイテムとなった。日本のリンゴやイチゴ、お米、サツマイモ、タマネギも、そう。海外の人が美味しいと、日本よりも高い値段で買ってくれるようになった。真水が増える。


セーラー服が世界で売れている。
日本の女学生のセーラー服文化がセーラームーンをうみ、AKB文化を育てあげた。そしてコスプレ・セーラー服が世界アイテムとなって売れている。日本文化であるセーラー服を中国がつくり売り、世界の人がそれを買って楽しむという市場がうまれ、新たな大きな産業になった。中国人が日本のコスプレ文化を捉え、事業として展開している。まさに「起業 in JAPAN」。日本ですごい、素晴らしいと思ったこと、感じたことをもって、海外で事業をたちあげて成功している。“それはもともと日本のものだった”と言っても、“それをやらなかった”のも日本。そんな事柄が、とても多い。


趣味的なモノやコトを軽んじたり、くだらんと思ったり、下に見たりするから、そうなる。太陽光発電もそう。実質日本初だったが、後続の中国企業の太陽光発電事業が大きく育ち世界企業となった。日本の若い女性たちに人気があるコスプレコスチュームの「猫耳カチューシャ」も世界アイテムになりつつあるが、そのときだれがそれを売っているのだろうか。


「そんな会社、絶対におかしい。ブラックじゃないの?そんな会社、辞めた方がいい」と、自分の子どもが会社のことでなにかいうと、親が煽る。なんでもかんでもブラック。会社もダメ。上司もダメと、子ども以上に親がいう。
親も無責任。ブラックブラックというだけで、なにか別のコトを新たなコトを示すわけでもなく、あの会社はダメこの会社もダメ、あの人はダメこの人もダメといって、ひっぺはがすだけで、しまいにはなにもなくなる。ビジネスも雇用も就業も結婚も人間関係も、あれはダメこれもダメと、タマネギの皮をはがしていくようにしてのぞいていくと、最後にはなにもなくなってしまう。

うるさいモノもの、めんどくさいモノをとりのぞけば、なにかがでてくると思うが、なにもでてこない。たとえば経営コンサルタント。今あるものを否定し、これはやめろ、あれもやめろというが、それでなにかがうまれるという確証はない。自ら事業経営をしたことのないコンサルタントのいうとおりにして、上手くいったこと、どれだけあるのだろうか。


世の中、一休さんだらけである。
「屏風の虎」を出してくれたら、縛ってみせます。屏風の虎を出すのはあなたで、私ではない。虎を出してくれたら、私が虎を縛ってあげる。あなたがそれを言ってくれたら、私がやってあげる。これを持ってきてくれたら、私がやってあげる。誰かが買ってくれるのなら、私が売ってあげる。このように、一休さんだらけ。前提条件がひっくりかえっている。


たとえば起業。
かつては親戚中を走りまわって資金を集めて起業した。お店の店主に一所懸命の働きぶりを評価されて、暖簾を分けていただき、独立・起業した。それが今、「手ぶらで起業」しようとする。私にはできるはずだと思って、起業しようとする。しかしながら、実はその人は、なにも持っていないことが多い。誰かがやってくれたらする、誰かが段取りしてくれたらするという「他人任せ」。「一休さん」ばかりで、一瞬は頑張ろうとするが、長続きせず、ついには力が尽きる。

現に起業を銘打ったセミナーが多い。
起業のノウハウを教えるセミナーに加え、起業する気にさせるというようなセミナーすらある。そもそも自分のつとめている企業や自治体を辞めて起業したことのない人や自分は起業しないという人が、「起業とはなにか」と講演したとしても、リアリティも説得力もない。わたしには知識があるから、人脈があるから、起業したらうまくいくと自信たっぷりだったりするが、それだけで上手くいくほど甘くはない。なにごともシナリオどおりにはいかない。


起業で必要なのは、「経験と金」。ビジネスを始められるかは、金をどうやって集められるかであり、ビジネスをすすめていくなかで次々と発生する問題にいかに的確にのりこえていかねばならない。そのためにはその分野の「経験」が必要である。経験もなく、お金を集められない人が起業しようとするのは無謀以外のなにものでもない。それはチャレンジとはいわない。


なによりも「深い経験」が大切。
経験もないのに起業しようとする。知識やアイデアで起業してうまくいくと考えるが、だいたいが誰にでも思い浮かぶアイデア。そんなものでは、人は動かない、金は動かない。知識とかアイデアだけではなく、経験が大切。試行錯誤を経た濃密な経験を現場で積んだうえで、その経験を土台に自分のビジネスを組み立てないといけない。


美容師の経験がないのに、美容院をつくって成功するわけがない。美容師で下積みしてお客さまをつかんで独立するのならばわかるが、美容学校をでたてで美容院をオープンしてうまくいくわけがない。飲食店もそう。料理学校をでてすぐにレストランをオープンしても、うまくいくほど甘くない。しかし中途半端に起業したがる。なぜか。下積みという「経験」がイヤ、面倒くさいのがイヤ、泥臭いのがイヤ、キレイに起業したい。だからアイデアだけで、人脈・ネットワークだけで、だれかがしたことの人真似で、手ぶらで軽々と、キレイに起業しようとするが、うまくいかない。タマネギの皮むきでは、市場にすぐ飽きられるし、真水は増えない。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 1月23日掲載分〕