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2020年01月10日 by 池永 寛明

【起動篇】起業 in Japan ― 日本人が忘れてしまいつつあること。


ウーバーのなにが画期的なのかが、日本人には判らない。
海外では、日本のようにタクシーを呼ぶという仕組みはなかった。宅配という仕組みは今や「世界標準」だが、日本発である。自宅にまで荷物を届けるというサービスは世界のどこにもなかった。スマホを使っているだけで、本質は変わっていない。世界的に話題となるビジネスを目にしても、何がすごいかがわからないことが多い。


「起業 in Japan」がブーム。
世界でビジネスで成功する人・企業の多くが日本を「通過」していることが多い。日本でビジネスのアイディアを得たり、日本的なモノ・コトを使って、世界で成功している。しかし日本で起業する、会社をつくるというのではなく、日本に来て見たり聴いたりして、感動したこと、感激したこと、思いついたことを軸に、世界で事業を始めて成功しているビジネスが多い。


こうなると、日本人はかなわない。日本人にはそれができない。なぜこうなったのか― それはたったひとつ。日本人が大事なことを忘れてしまった。「絶対に外してはいけないこと」を外してしまい、売れているモノ・流行っているモノばかりを追いかけるようになって、おかしくなった。


銀行のIT化、個人化が進む。
昔、お金を預けたり借りたりするときは、銀行に行って手続きしないといけなかった。個人が銀行に行ってハンコを捺さなければならなかった。ITが進んで、銀行員がいなければなにもできない時代から、銀行員がいなくてもすむ時代になった。にもかかわらず今も電子化・電子化といっている日本。「ペイペイ」などキャッシュレス化を進めようとしているが、世界に遅れている。 世界から遅れている分野が増えていく。どうなっているのか。


「中国にモノを送ったら、送りたいところに届くか心配だ」と今も言っている人がいる。そんなことはない。あの広大な中国にきちんと着く。中国からも日本に正確にモノが届く。
アリババの独身の日のネット通販での物流も混乱なく行われている。そのアリババは日本から学んだ。アリババのサービスと、物流・配送システムは日本の物流・配送ステムに学んでいる。どういう情報を提供したら消費者が買ってくれるのかを学び、それを巨大な中国マーケットで展開して成功した。
それは「日本に教えてもらう」というような立ち位置ではない。日本に来て感動したこと、感激したことを軸に、日本のビジネス・サービスの本質をつかんで、中国で展開しているから、日本人にはかなわない。外国から日本に来て、日本製品や日本のサービス、日本の様々な事柄に触れて感激し、それをもとに自分たちの事業・商売を転換させた。ビジネスマンだけではない。外国人観光客が日本に来て見て聴いて感じて帰るから、日本由来の商品・サービスを受け入れる素地ができ、成功した。このようにビジネスは作る人と受け入れる人が必要である。

かつて送りたい荷物を自らで集積所に持っていき、その荷物を別の集積所に運び、お客さまはその場所にとりに行った。輸送会社は巨大な物流倉庫と輸送機関という体制をつくり、A地点とB地点を結び荷物を集めて積んで運んでおろした。この物流チェーンを物流会社を構築したが、個配は自分たちの仕事ではない、赤帽などがやるものだと思っていた。

その物流・配送の常識をヤマト運輸が変えた。お客さまがおられるところに荷物を取りに行って、お客さまの指定するところに届けるという「宅配便」サービスをはじめた。日本の他の物流業界はそれを無視した。それが、今やどうなったか。お客さまは「宅配便」を圧倒的に支持し、日本のみならず世界中がヤマト運輸に勉強に来た。荷物の追跡システムの発想など世界は考えられなかった。どこに荷物があるかを把握するそのシステムが世界的になっている。しかしそれを日本企業が始めたことを知らない人が多い。

 

日本人の考えたモノ・コトが世界を席巻している。
日本に来て、なんて便利なのだ、なんて心地よいのだ、なぜこんなことができるんだと驚く。そんなことは絶対にできないと思っていたことが日本でできている。アメリカの会社もドイツの会社もそんなことは発想しなかった。モノは駅から駅に運ぶもの、物流拠点から物流拠点まで運ぶもの、その場所にお客さまが荷物を取りに来るものだという世界観だった。しかし日本人はお客さまにとって良いこと、便利なことはなんだろうということを想像して、つくりあげたサービスが共感をもって受け入れられている姿を見て、すごいと驚いた。その仕組みを自分たちの国に置き換え、いいモノ・コトにグレ―ドアップしている。

なぜ日本はそうなったのか。
「これからパラダイムシフトが起こる」との論調がよく流れているが、本当にそうだろうか。もうすでにパラダイムシフトが進んでいるのではないか。日々の新聞を普通に読めばわかる。しかしながら「これからの産業の方向性はなにか」などと経済団体などで議論したりしている。現状認識がズレている。


権力を強制的に引きずりおろそうとする空気もある。
しかしそれより日本も企業の人が「シーラカンス」化していることが問題。売上高ランキングが上位、従業員数が多い、本社ビルが立派、 よくCMが流れて社名がみんなに知られている会社が「いい」会社だと、みんなチヤホヤする。周りから「いい」会社といわれ、それぞれの分野・枠組み・世界で威張る。そんな会社の上の人を「偉い人」などといったりする。部下たちは「偉い」と思っている人に、自分も偉くしてもらいたいと願うから、上の人をチヤホヤする。チヤホヤされているうちに、現場から離れてしまい、現場のことを意識できなくなり、現場がつかむ変化がわからなくなり、市場の基本潮流が読めなくなる。こうして「シーラカンス」の企業人が増えてしまう。


日本は戦後の人口急増に伴なう高度経済成長に乗り、バブル景気に乗り、アジア景気に乗って、成長した。高度経済成長期をすぎても人口増加型事業モデルの遺産で生きのびてきたが、戦後75年、3世代前の事業モデルでは通用しないと薄々は判っているにも関わらず、そもそもの前提条件を変えない、変われない。


「接待だ」といって銀座や北新地で飲んだりゴルフをしているビジネスって、何十年前のビジネスをやっているのだろうか。おかしいと思いつつも、つづいている。アメリカ人もヨーロッパ人も中国人もそんなことはしていない。


やはり現場の空気がわかる人間が上に立たないといけない。汗水たらして仕事をしている人たちに寄り添えるような、現場の人たちこそ、現場こそいちばん大切だという想いがある人がリーダーにならないといけない。それが第一であり、そのことをぶれない人がリーダーでなければならない。初めから私は選ばれた人材だ、リーダーだ、私は現場はやらない、企画やマネジメントをするのだと言っているうちに、会社全体の空気が読めなくなり、実務を知らないコンサルタントや海千山千のつわものに簡単に騙される。だからあっという間に会社がなくなるということが増えてきた。


自分たちの出自を見失っている。
自分たちはどこからスタートしたのかを見失っている。会社はどうやって伸びてきたのか、自分が新入社員のときに、お客さまにどのように育ててもらったのかを忘れ、初めから今があったかのように勘違いをしている。金があるから成り立つ世界観となるので、テクニックに走る。だから事業の進むべき方向を見誤る。下積みや価値観が共有できなくなると、会社はダメになる。世界の新しいビジネスに対して、日本の「物真似」だとか、「そんなこと、かつて日本で検討していた」とかいっているうちに、世界から取り残されてしまった。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 1月6日掲載分〕