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2019年02月25日 by 池永 寛明

【耕育篇】 本当に売れない理由はなにか


あなたは時計をなにを重視して買いますか?

昔、「時計屋」さんは中味をつくる会社だったが、今はアクセサリーをつくる会社が「時計屋」さんである。時計のなかの機械「ムーブメント」(時計の動作機構)を調達したら、正確に時を刻むという機能は充足できる。だからムーブメントを調達したら、安い時計や凝ったデザインの時計が簡単につくれるようになり、いろいろな時計ができるようになった。時間を知るだけならば、スマホで十分だから時計はいらないという人も多くあらわれている。


では時計に人々はなにを求めているのか?

今、人々が求めるのは時間を確認するというよりも、ライフスタイル、ファッションスタイル。時計のデザインは、たとえばフェラガモの感性でつくり、時計の中身はスイス製ムーブメントを調達して組み立てて、フェラガモブランドで売る。原価構造でいえば、内のムーブメントよりも外の「デザイン」のコストの方が圧倒的に高い。ビジネスとしては外のデザインを担う会社が利益を得る。このように現在の時計ビジネスはかつてと全然ちがっている。それに気づかない人が多い。


「コモディティ化が進むから、差別化しないといけない」

それはそうだけど、すこしちがう。たとえば日本の家電メーカーが苦戦するようになったのは、まさに“時計ビジネス”と同じ文脈。電気製品の原価のなかで最も高いのは内の機械ではなく、外のプラスチックである。


かつては中味をつくる会社が「家電屋」さんだったが、これからは外のデザインがすぐれ、そのデザインで外のプラスチックをつくることができる会社が「家電屋」さんになる可能性も高い。

つまりプラスチックをつくる「射出成形」という金型を用いた成形技術力をもったアイリスオーヤマが家電製品を売り出しているのはこの文脈である。金型技術ではこれまでの家電メーカーは追いつけない。このモノづくり構造の変化が苦戦のもうひとつの要因。


もうひとつある。人々が求めるライフスタイルを実現するインテリアとしてのデザインを重視する人とコストを重視する人という相矛盾する二つのお客さま群の出現をつかめなかった。だから「コモディティ化したから売れなくなった」というのではなく、そもそもの「お客さまの構造が今どのように変わろうとしているのか」ということを理解しようとしなかったのである。技術開発によるイノベーションを追いかける話とはちがう話。


「そもそも」が変わった。

飲食店も人手不足で大変だというが、問題はそれだけではない。たとえばうなぎの養殖会社がうなぎ屋さんに進出する一方、老舗のうなぎ屋さんが廃業する。それはなぜか。生産から加工する精肉店がステーキ店を開店する一方、人気のステーキ店が苦戦したりする。それはなぜか。


新鮮で美味しい「食材」を安く調達できるかどうかが、飲食ビジネスの肝である。「生産−加工−輸送−小売」という一連のビジネスフローにおいて人手不足が影響しているが、飲食ビジネスのなかで最も大切なのは、いかに新鮮で美味しくて安い「食材」をおさえることができるかという「調達力」が重要である。要はモノ・サービスを構成する原価構成のなかでいちばん大きなモノ・コトを支配した人がそれを支配する。食材を商社まかせ、卸問屋まかせにしないで、市場に自ら買いつけにいったり、産地とダイレクトにつながった飲食店がお客さまに選ばれる。その当たり前のことをしない会社が多い。だから失敗する。


「人手不足だから」で思考停止してはいけない。

ビジネス現場にいるにもかかわらず、意外にも世の中が見えていない人、企業が多い。市場の当事者であるにもかかわらず、市場が見えていないから変化がつかめず、いままでどおりのこと、これまでの延長線上で仕事をしようとする。だから気づいたときは手遅れで、負けてしまっている。このように当事者だから見えないことが多い。だから第三者の立場でマーケットを俯瞰して、今なにがどうなっているのか、なにが大切なのか、なにが求められているのかをつかみつづけることが求められている。当たり前のことなのに、しない人、会社が多い。


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  131日掲載分