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2019年01月03日 by 池永 寛明

【耕育篇】 なぜあなたはアニメが好きになるのか?


日本人はミッフィーが好き。作者ディック・ブルーナの生誕地ユトレヒトのあちこちにミッフィーがいる。ブルーナの書斎には日本のマンガの本が並び、日本を感じる。日本人が好きなロイヤルコペンハーゲンが日本の古伊万里、有田焼や葛飾北斎の影響をうけているというのは有名。日本文化が海をこえて伝わっていることを感じさせる。


2025年の大阪万博に、あなたならば、なにを出品しますか?」と、大阪の大学生たちと議論した。日本的な“和”や“おもてなし”、“食”とともに、多くアイデアとしてあがったのが“アニメ”であった。「日本=アニメ」で、クールジャパンの代表的地位となっている。宮崎駿、高畑勲、大友克洋、新海誠、セーラームーン、ドラゴンボール、エヴァンゲリオン、NARUTOONE PIECE進撃の巨人世界で評価されているアニメは多く、日本に来られる観光客、日本企業に就職するビジネスマン、日本語を勉強する外国人の方々の動機づけのひとつになっているのは事実である。


では、なぜアニメ・マンガは「日本的」なのか。日本のマンガをアメリカのコミックの影響だという人もいるが、それよりも1000年以上も前の奈良時代に描かれた「絵巻物」がそのルーツといえる。「過去現在因果経」という経文の上に、絵解きをした絵巻物「絵因果経」は、現代人にもその経の意味をリアルに伝える。その300年後の平安・鎌倉時代に、多くの絵師による共作で描かれた「鳥獣人物戯画」は圧巻である。「アウトラインに線を引き、内を着彩する」という日本漫画の技法が確立されている。人物、動物の輪郭を墨黒で線を引き、内を着彩する方法論は中国からの影響、とりわけ「水墨画」がオリジンだろうが、黒一色で描くときにも黒い輪郭線を引く方法論を考えだした人々の感性は鋭い。この黒い線は海外に殆どみられない。


「輪郭線」が江戸時代の「北斎漫画」を経て、現代の日本漫画につながっていくが、もうひとつすごいのが絵巻を構成する「絵解き」という方法論である。奈良時代の「絵因果経」にしろ、四大絵巻といわれる「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「鳥獣人物戯画」にしろ、王朝文学や物語を解釈して絵巻にするという「翻訳・編集方法」こそ、日本的といえる。そもそもの物語に埋めこまれた本質を掘りおこし、物語を再構築し、伝えるべき人々をイメージし、翻らせて様式と表現法を考え、創造していくという日本的翻しプロセスがうみだされ、多くの人々に共感され広がった。それが日本漫画の方法論として伝えられた。




もうひとつ重要なことがある。先日、日本のアート関連企業に勤めている若いアメリカ人とスリランカ人に、「なぜ日本に来たの?」と訊ねると、「日本のアニメが好きだったから」と二人。「日本のアニメと、自分の国のアニメとのちがいはなに?」と訊ねると、「日本のアニメの登場人物は日常生活に普通にいるようなキャラクターだから」と二人。この言葉は本質をついている。


漫画や童話や児童向けの本を読めば、その国の「社会性」がわかるといわれる。その国の人々のことを理解するとき、子どものころに読んだ「童話」「漫画」によって、その人の原体験の一端を知ることができる。


悲しい結末を回帰する物語に感情をひきおこさせる。有名な話だが、「フランダースの犬」の物語はご当地のベルギーの人たちはあまり知らないが、日本人はアニメを見ながら最後のネロが可哀想だと涙する。日本人にはそのような可哀想な状態が我慢できない。ふりかえって決してそういう想いをさせてはいけないと考え、そのように行動し、そういう物語をずっと編んできた。


その文脈、日本のマンガ・アニメでは絶望的なエンディングが少ない、殺しあいが少ない、一方的な価値観の押しつはしない。悪いことをする人と地球を守る人が戦うけれど、決して根絶やしにしない。日本のアニメは、悪いといわれている人にも良いところがある。どちらが主人公なんだろうという二人が登場する。たとえば古いアニメだが、ウルトラQウルトラマン、ウルトラセブンも怪獣にもどちらにも筋がある。お互いの考え、想い、物事の両面を長い「語り」で浮彫りにしていく。


そしてウルトラマンコスモスは怪獣を倒すべき相手ではなく守られるべきものとして保護する。アンパンマンのパンチでバイキンマンは飛んでいくが、次の週にも出てくる、何回やってもおわらない。ちびまるこちゃんにいたっては、悪い人はでてこない。ドラえもんも、そう。日本のアニメに世界の人が心うたれる人が多いのは、人々や動物に対するとてもないあたたかい眼差しであり、優しさが基層にある。


なぜ日本のアニメは日本文化の代表選手のひとつなのか。それはビジュアル的素晴らしさだけでなく、日本的翻し方法、日本的技法、そして人と人との関係性への優しさ、眼差しにもあるのではないだろうか。


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  1221日掲載分