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2018年05月06日 by 池永 寛明

【場会篇】 団塊の世代のリタイアで「30分圏社会」になる

  


定年退職したら、通勤定期券が貰えなくなる。都心までの通勤(移動)時間が 70分としたら、郊外の家から都心までの「交通費」は馬鹿にならない。退職後当初は都心での「集まり」「つきあい」にちょこちょこと参加するが、次第に顔を出せなくなる。そりゃそうだ、移動時間70分=往復交通費25004000円は経済的に厳しい。よって定年退職後の行動範囲は現役時代に比べて大幅に縮小する。戦後の日本経済を大きく左右してきた団塊の世代が大量現役引退するのだから、地域のかたち、地域構造は変わるのは必定。地域はちぢんでいくが、本来のあるべき地域の姿に戻るとも考えられる。


現役引退後に「仕事」をしようとする。仮に時給1000円として18時間で8000円。現役と同じく都心に仕事をみつけたとして、移動時間70分かかるとしたら、移動コストは日給の34割となってしまう。これではやってられない。とすると移動時間=交通費として出せるのは、時給レベル1000円=往復30分以内となる。


このように「時間コスト」で考えると、これまでの6090分かけていた移動圏が30分移動圏になる。移動距離(半径)が1/2になると、面積は1/4になる。移動時間は距離が短くなればなるほど、二乗で、地域は「集中」がすすむ。東京や大阪は移動30分圏に外輪は縮小していく一方、それぞれの「ローカル」都市にも移動30分圏がいくつも形成され、いろいろな都市が重なり合う。巨大都市圏域(メガロポリス)における都市・地域の形、構造は変わる。


都市は膨張モードから縮小モードとなる。そこで団塊の世代を核とした都心部中心の消費構造は変わる。都心ターミナルの集客系事業ポテンシャルが低下し、都心の商業エリアの地盤沈下がすすむ。すでに都心部のサラリーマン対象の居酒屋には常連が減り経営が厳しくなっている店もある。さらにITやロジスティックの発達によって、かつては都心部でしか入手できなかった財やサービスもローカルでも手に入るようになり、都心の地代負担力を勘案すると、むしろローカルの方が有利になる。


移動時間が短くなるのは、人口減少、高齢社会化においては必然である。コンパクトシティとかスマートシティという都市計画があるが、これは造成側からみた論理。駅周辺に必要な施設を集めて利便性を高めることが、働き、住む人々にとって、施設、建物の再構築が必ずしも良いとは限らない。では、人々の生活から見た「30分圏社会」は、どうあるべきだろうか。


たとえば「世界でいちばん住みたいまち」といわれるメルボルンでは20年以上も前から都心回帰政策をうちつつ、産業・都市・文化・食・スポーツ・観光・トラムなどの地域交通戦略を統合した魅力的なまちづくりに向け、着実に一歩ずつ歩みながら、住む人が必要な機能に20分以内でアクセスできるまちづくり「20分ネイバーフッド」をおしすすめている。


駅を起点に建物のデザインからまちをみるコンパクトシティのアプローチと、人を軸に人とまち、人とライフスタイルとの関係からまちをみるアプローチのちがいだが、とてつもなく大きな差がある。


「イタリアという国になってから、たかが150年。都市ごとに言語も教育も産業も食も文化もちがう。ちがってあたり前、私たちの都市は1000年以上も自分たちの国だったから」と、ローマ、シエナ、パルマ、フィレンツェ、ヴェネチア、ミラノなどイタリアの各都市を歩いているときに、都市ごとに何度もその都市背景を聴いた。地形や地域資源を踏まえた場に独自の生業・産業がうまれ、商いがうまれ、学びの場、みんなが集う場に、住む人が増え、都市が形成され、独自の創造的な都市文化が育まれた。イタリア国として統一されたが、1000年以上も前からの各都市文化はいまも息づき、成長しつづけている。一方、日本はどうだろうか?150年前まで各藩ごとに独自の地域産業・商業・文化があった。


都心部で働き寝るのは郊外という時代から、定年退職後は住んでいるローカル都市を中心に24時間活動する時代となり、都心部とローカル都市とが30分圏内で重なりあう社会となる。団塊の世代の現役大量退職に伴う移動コストの観点からローカル都市での人口活動時間は増え、人口動態密度がローカル都市ごとに高まっていく。しかし問題は、ローカル都市に戻ってくる「シニア」たちをどう活かせるのかである。


定年退職後のシニアの生業などの新たな仕事の創出、ソーシャルデザインを含めたシニアの地域コミュニティでの役割の創出などタイムマネジメントの構築が求められる。そういった、①働く場 ②生涯、学びの場 ③みんながつながる場 ④いきいきと暮らせる場を、その地域史にもとづく「地域文化」をもとにした「地域経済循環システム」の再構築を急ぐ必要がある。シニアたちが地域に戻ってきた、この絶好のチャンスをどのように活かすかを各都市ごとに統合的に考えていくべきではないだろうか。


エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  423日掲載分