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2011年04月14日 by 弘本 由香里

かけがえのない日常の意味を問うアート

3月末日、丁寧な軸装を施した一幅のアート作品が私の手元に届きました。大きな障子紙いっぱいに墨の文字が堂々と迷いなく並んでいます。

 

タテ書きで左から右へ「家族で四人で朝はごはんパン、くだものバナナをたべる。牛乳をのむ。二千五年平成十七年十二月七日水曜日武田英治」

 

作者の武田英治さんは、社会福祉法人素王会が運営する「アトリエインカーブ」(大阪市平野区)に所属するコンテンポラリー・アーティストです。「アトリエインカーブ」では、知的に障がいのあるアーティスト27人が、それぞれに得意の手法で作品を創造し、スタッフはアーティストの創作の基盤となる生活のケアや作品の管理や発信を支えています。この数年、ニューヨークをはじめ、内外のアートシーンで確固たる存在感を発揮してきました。障がい者のアートという狭い枠を破って、紛れもなく同時代に生きるアート、表現の本質を問うアートとして評価され、各地の美術館やギャラリーで紹介されています。

 

私は知人を介して「アトリエ インカーブ」がオープンした2003年に、クリエイティブディレクターの今中博之さんにお会いして、アトリエを拝見して以来、そこで生み出される作品が問いかけるものに、興味を抱いてきました。冒頭で紹介した武田さんの一作は、たまたま昨年12月に、「アトリエインカーブ」が直営する「ギャラリー インカーブ京都」(京都市中京区)で出会い、なんでもない日常の一こまを、なんの衒いもなく表現した作風に惹かれて、思わず購入したものです。

 

年を越し軸装作業などを経て、ようやくその作品が手元に届いた3月末日、屈託のない墨の文字に見入りながら、改めてそこに描かれている日常のかけがえのなさに想いを致さずにはいられませんでした。3月11日に発生した東日本大震災は、この時代に生きる私たちの日常に大きな衝撃を投げかけています。なんでもないように繰り返す日常が、どれほど多くの人やもの、知恵や心によって支えられているか。普段の生活のなかでは、つい見えなくなってしまうこと、目をそらしてしまっていること、忘れてしまっていることを、武田さんの作品はストレートに問いかけてくれていることに、気づかされるのです。それこそ、社会の中にアーティストが存在する意義、そして暮らしの中のアートの力だと実感します。

 

「アトリエ インカーブ」のアーティストたちが願う、「普通なしあわせ」について、今中さんが、著書『観点変更 なぜ、アトリエインカーブは生まれたか』(創元社、2009年)の中で語っている言葉が印象的です。<…普通なことは悲しみの裏返し。悲しい経験がなければ何が普通かわからない。ゆえに「普通なしあわせ」もわからない。…(中略)…何が普通で、何が普通でないかを想うことができる人間を育てなければならない。その人間が覚悟を決めて、社会のシステムを変革し、「普通なしあわせ」を実現する。…> 3.11からの日々を生きる、私たちの胸に迫る言葉です。

 

※写真は古い店舗の佇まいを活かした「ギャラリー インカーブ京都」の眺め(京都市中京区)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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