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2024年11月22日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】53.生産効率化の罠!?


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。日本の産業界における生産効率性は、先進国のなかでも最低レベルです。カイゼン活動が得意だったはずの日本企業に、いったいなにが起きたのでしょうか?

 

1) 聖域なき人件費の抑制

近年では、現地の市場に近い場所で製造するという理由で海外進出するケースも増えてきましたが、日本企業ははじめ、安い労働力を求めて海外へ進出していきました。

もちろん、高いすり合わせ技術が必要なために国内にとどまった企業もあります。すると、国内でも安い労働力を求めて、安価な賃金で雇うことができる非正規雇用の適用拡大に動きました。事務職員の多くが非正規雇用者でまかなわれ、さらには規制緩和によって工場労働者まで非正規雇用者が多数を占めるようになっています。

 

人件費の抑制は、とどまるところを知りません。

技能実習という名のもと、大量の外国人労働力を求めてきました。そもそもの施策の崇高な目的は理解できますが、現実の運用には理想から乖離しているケースも過去には少なからずあったようです。

「人材」という単語の「人」に焦点を当てるのではなく、「材」すなわち「労働力」だけを捉えてしまうと、たとえば「実習期間中に妊娠したら寮から出ていけ(=国へ帰れ)」となり、恨みを残しての自主退職となってしまいます。

「人」だからいろいろなことが起こりうるが、互いに歩み寄って協力しあえば、長く続く「人材」へ成長してくれる。そういった発想ではなく、上から目線の人件費の抑制だけを考えてしまった事例もあるのではないかと思われます。

 

そこまで安い労働力の確保に苦労しているのに、正社員の賃金だけを上げるわけにはいきません。日本企業は聖域なき賃金抑制に動き、気がつけば世界の先進国や新興国のなかでも最低クラスに位置するようになりました。

国内では極度のデフレが続いていたため、低賃金が大きな問題として認識されずにきたのですが、エネルギーコストが異常なほど高騰し、さまざまな生活物資にまで値上げが浸透してくると、国をあげての賃金上昇が至上命題になってきました。

ここで、賃金さえ上がればすべての問題が解決するのか、について考えてみたいと思います。

 

 

2)生産効率化の罠!?

本来、賃金を上げるためには生産の効率化、すなわちIT化やロボット導入などの投資が必要になります。しかし、さまざまな制度によって安い労働力が確保されたわけですから、あらたに設備投資するよりも安い労働力でまかなうほうがコスト的に優位になってしまったのです。そのため、生産効率性が先進国で最低レベルにまで低下してしまいました。

 

しかし、この問題の奥深さはここからです。

聖域なき人件費の抑制という概念が浸透しすぎてしまったせいで、生産効率化=人員削減と曲解してしまっていることです。

本来の生産効率化とは、業務を見直して作業の一部を削減したり、人間がやらなくてもよい仕事をほかのもので代替させたりすることが必要になります。その目的は、決して人員削減だけではありません。人間がかかわる業務を削減し、創出した時間をあらたな事業展開へ活かすことが最大の目的であるはずです。

たとえば、2割の業務効率化が図れたとすれば、8時間労働を6時間に削減し、浮いた2時間分をあらたな発想を生み出すための取り組みに活用しなければ企業の発展にはつながりません。ところが、日本の企業のほとんどが、ITなどへの設備投資する条件として人件費削減を掲げ、投資した費用を削減した人件費で何年回収するといった費用対効果を議論しています。つまり、2割の業務効率化ができれば要員8名を6名へ減らし、削減する人件費を設備投資計画の申請条件にしている、ということです。

近年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)なる言葉がもてはやされていますが、DXですら人員削減の道具と化しているかもしれません。

海外企業と渡りあうための生産効率化とはどのようなものか、しっかりと考える必要があります。

 

生産効率化=人員削減と勘違いした結果、人間でなければできない業務にまで要員削減してしまうケースもあります。人間でなければできない業務とは、創造的(イノベーティブ)なもの、管理的(マネジメント)なもの、そして接遇的(ホスピタリティ)要素が強いものの3つです。創造を強化するわけでもなく、管理は必要だからとメスをいれることもなく、接遇を効率化(縮小)させてしまう計画がなんと多いことか。

たとえば、メンテナンス。本来、リピーターを確保するための大事な情報源となるべき業務なのですが、効率化を目的として安易に外注化したことで、情報遮断がおこなわれてしまいます。外注先業者にとってもっとも恐れることが、本体(発注会社)にトラブルをもち込んでしまうことです。そのため、要望を発言した顧客をとにかく説得する方向へ意識が集中してしまい、顧客が諦めた(=その会社を見限った)ことで問題解決したことになってしまうのです。

 

聖域なき人件費削減という誤った発想が、自社の将来性を縮める方向に働いていないか、事業構造を見直す最後のチャンスとなっているのかもしれません。

一見すると手間がかかって非合理に見える業務こそ、他社の追随を許さない領域であるはずです。新興国のBtoC企業の多くは、アフターサービスの仕組みに手を抜いているケースはほとんど見受けられません。一方で日本の大手企業の多くは、果たしてどうでしょうか?

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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