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2024年05月31日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】29.ホットオイルに手を出すな!

「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。モサデグ率いるイランではじまったナショナリズムに対し、イギリスをはじめとする欧米の政府や石油企業は必死の対策をとりはじめます。

 

1)ホットオイル(危険な石油)

アングロ・イラニアン社とは、イギリス政府が株式を保有しているのちのブリティッシュ・ペトロリアム(BP)です。そのアングロ・イラニアンが保有していたイラン国内の石油権益に対し、イランのモサデグは一方的に完全国有化を宣言しました。

すると、アングロ・イラニアンはシェルやエクソンなどのセブンシスターズに対して、イランの石油に手をつけないように要請をだしたのです。明らかな公然カルテルです。

シスターズはイギリスの要請を受け、ホットオイル(危険な石油)にタッチしないことを約束するのです。彼らの結束は「油は血よりも濃い」とまでいわれていました。それが七人の魔女、セブンシスターズと呼ばれる所以でした。

さらにイギリス政府は海軍と空軍を総動員し、ペルシャ湾にはいるタンカーを監視します。イラン産石油のボイコットを完全なものに仕上げるためです。イラン議会で国有化を決めて二か月も経たないうちに、アバダンからの石油は完全にストップしたのです。

完璧なエンバーゴ(禁輸)でした。

 

追い詰められたモサデグは、イタリア国営石油会社ENIの会長エンリコ・マティと接触します。マティは an oilman without oil(油田をもたないオイルマン)でした。当然のことながら、マティは油田の権益を喉から手がでるほど必要としていました。

ところが、マティがモサデグのオファーに乗ることはありませんでした。表向きの理由として、アングロ・イラニアン社の報復を恐れたため、とされています。しかし、マティほどの負けん気の強いアグレッシブなオイルマンが黙って引きさがったとは考えられません。メジャーからなんらかの見返りを密約されていたとみるのが妥当でしょう。

このように、モサデグの甘い見通しは完全に失敗したかに見えました。テヘランの街は、完全な無秩序状態におちいっています。

必死のモサデグは米アイゼンハウワーに書簡を送りつけ、多額の援助を申し入れます。アメリカが援助しないならばソ連から受けるぞ、と。一種のゆすりです。

書簡が送られた翌週、3人のVIPが偶然にも同じ日程でスイスに出かけています。3人とも休暇だと証言しているのですが、あまりにもできすぎた話です。一人は米CIA長官のアレン・ダレス。もう一人はイラン駐在大使のロイ・ヘンダーソン。三人目はイランのパーレビ国王の双子の妹アシュラフ王女。このメンバー構成からして、ただコーヒーを飲みに集まったのでないことは確かです。

CIAのダレスが動いた、と聞いたモサデグは慌てます。危機を感じた彼は強行突破を計り、イラン議会制の廃止を宣言するのです。

この時、アメリカの指示でパーレビ国王が初めてアクションを起こします。今までのお飾り同然だったパーレビとは打って変わり、独裁のモサデグを突如罷免したのです。もちろん、パーレビが独断で実行したのではないことは明らかです。モサデグとパーレビの闘いは、どちらにアメリカがバックについていたかで勝敗が決したのです。

こうして暴徒に占拠されていたテヘランは鎮圧され、モサデグは逮捕されました。

 

2)海賊とよばれた男

話は変わりますが、このホットオイルに世界で唯一手をつけた人がいます。日本の出光佐三です。百田尚樹氏の小説『海賊とよばれた男』(2012年、講談社)のモデルとなった伝説的な人物です。

出光興産社長の佐三は、イランに対する経済制裁に国際法上の正当性はないと判断します。そこで、極秘裏に自社タンカーの日章丸を派遣することを決意するのです。イギリス海軍が軍事封鎖するなかでの勇気ある行動でした。砲撃によって、いつ沈められるかわからない状況です。

佐三は、航行時の正午報告義務に罰則規定がないことを見つけます。そしてタンカーの航路を偽装させ、イランのアバダン港へたどりつかせました。

そのころ、イギリスによる一方的なエンバーゴ(禁輸)によって、イランの人々の生活は困窮していました。アバダン港に集まったイラン民衆は、歓喜をあげて日章丸を歓迎します。

 

イランが親日になるきっかけとなった日章丸事件ですが、同時に裏も読み解かなければなりません。

日章丸の行動を日本の占領国だったアメリカがなぜ黙認し続けたか、です。日章丸が世界中の目を欺いていたとはいえ、ついこのあいだまでGHQが占領していた日本の動きに対し、米CIAが予測すらしなかったとは考えられません。

米メジャーたちも手をつけることがなかったホットオイル。しかし一方では、イランの石油利権を虎視眈々と狙っていました。アメリカにとって、日本が自己責任でかき回してくれた絶好の機会となったのです。

アメリカの狙いは、強力にバックアップしたパーレビ国王のその後の豹変に現れはじめます。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。


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