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2023年07月27日 by 岡田 直樹

〈続〉新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く (2/3)

第2話 紡ぎ伝え、世界へ  ―日本の女性起業家について考えてみた②

こんにちは、エネルギー・文化研究所の岡田直樹です。
第1話では、旧来の日本の男性文化に挑戦する女性のお話として、豊かな行動力と並外れた勇気で、まず広い世界へ飛び出す。そして自分の目と足で生きる意味を見つけ、進むべき道を定めた女性起業家についてのケーススタディーをしてきた。
 
アフリカでキャピタルを運営している社長に聞くと、フェアートレードなどのビジネスを展開している女性や国境なき医師団など単身乗り込んできて頑張っている日本女性が目立っているとの事。日本女性の場合、先進国だけでなく世界各地に散りその地で何かを見つけ頑張っていることが良く判る。その行動力には心から尊敬してしまう。
 
さて第2話は、反対に日本の文化を断絶させず繋いでいくなかで、残すべきもののエッセンスを見極め、新しい時代に生き残りを果たしたその先には世界がありそうだという物語。当然女性が大きな役割を担っている。

1.感性価値の視点

本題に入る前に、感性価値という言葉を考えてもらいたい。私なりの解釈であるが感性とは「見たり、聞いたり、食べたりという五感から入ってきた情報が、過去の経験などと照合され、独自の解釈や感情の起伏を引き起こし、想起したそれを表現する性質」のこと。感性価値というと、「その感性に働きかける源泉、場合によってはある特定の情景や共感を引き起こさせる力」と定義できる。
 
例えば、線香花火に火を付け、その火花を眺めた時に酸化反応が起きていると思う人はまずいないだろう。日本人なら子供の頃を思い出し、どれだけ長く沢山の花を咲かそうかと競ったこと、場面ごとに違っていく花に見惚れた事、あの火玉を足に落として泣いた事など様々な記憶がよみがえり、何とも言えず懐かしく、ほのぼのした気持ちになるのだろう。蚊取り線香の匂いも蘇ってくるのでないだろうか。親から子、子から孫へと受け継がられてくる情緒などは、感性価値の最たるものだ。
 
日本女性の感性が選ぶものは、かわいい、コスプレ、絵文字、BENTO、もったいないなど、様々な分野で世界に通用するようになった例が少なくない。昔は金魚という名詞が外国語でもKINGYOだと聞いてうれしく感じていたが、今や日本女性の感性に基づくモノやコトは比べ物にならないぐらいたくさん輸出されている。これを見るだけでも、日本女性の実力がよく判る。
思い起こすと平安時代の「源氏物語」や「枕草子」に見て取れるように日本女性は時代ごとに素晴らしい感性を発揮し受け継いできている。養老孟司先生は、それを可能にしてきたのは日本語の特殊性にあるという。日本語は感覚的な印象を非常によく残した言語で、曖昧な感情を共有する言葉が無数にある。オノマトペ(そよそよ、ふわふわ、しみじみ、くよくよ、など)がその代表例で、形にならない感情や様態を共有する言葉に枚挙にいとまがない。このように気分やニュアンスなど、ロジカルに表現できないことでも伝える事が出来るのが日本語の特性である。たとえば「わびさび」を英語で説明することがどれだけ大変か。茶室や日本庭園など多数の写真や、歴史的な説明などを駆使しなければ、なかなか伝わらないが、日本人なら4文字で良い。そうした感性豊かな言葉を使いこなし、さらに磨きをかけていくという点で、男性は女性には到底かなわない。
 
余談になるが、そんな感性を総動員しているビジネスが旅館。外国の方を旅館で「おもてなし」をする場合に、ストレス無く世界最高レベルのサービスが受けられることが「おもてなし」として真の感動になるのかと問いかけるのが、星野リゾートの星野佳路社長である。お客様の声を聴きそれに応えようとすると、結局は皆同じようなサービスになってしまう。そうではなく旅館に来られたゲストとホストが対等で向き合い、ホストが良いと思うものを作法まで含めて、ゲストにお伝えしリードしていく。自分たちが目指すのは、うるさくつきまとう訳ではなく、任せてもらう「体験のプロデューサー」なのである、というのが星野氏の考えだ(2017年テレビ東京「カンブリア宮殿」より)。私はここから茶の湯を連想する。相手のリクエストに応えるのではなく、自信を持って提供する。その主役が女将さんである。どんな状況でもゲストを納得させ筋を通すことが出来るのは、受け継がれてきた旅館での所作やしきたりの裏に、大変な修練や見識があればこそで、星野社長はそれを現代風にアレンジし、大きな感動を与えてくれているだと理解している。

2.守破離 サプライサイドからのアプローチ

長々と感性価値について話したが、我々の文化の長所に自信を持ち、永く続いてきたものにはそれだけの価値があることを再認識する。大きな財産である日本人の感性を無理なアップデートでもなく消極的なアジャストでもなく、さらなるエッセンス化という形で時代と向き合う動きが今活発になってきている。
 
それをここでは、守破離という観点からみてみたい。 [守]は型を忠実に覚える、阿吽の呼吸を覚えること。 そして、自分なりの解釈、改善をほどこして師匠の模倣から自分の芸風を確立する。このステージはまだまだ一門の一員である。これが[破]。そしていよいよ習い親しんだ型を脱ぎ捨て、自らの型へと昇華させる。言い換えると新たな流派を創設し率いるステージにまで上り詰めて初めて[離]。その一連の流れを守破離と言う。
それを見事に言い表したのが、十八代目 中村勘三郎丈の「型があるから型破りが出来る」「型が無ければ単なる形無し」という言葉だろう。形無しは文化伝承の後継者ではないという事。
ここでは今まさに、 [守]もままならない伝統産業にあって、 [破]そして[離]のステージに挑戦している女性に注目したい。
 
伝統産業が何百年も暖簾を掛け続けられるのは、実は常に変化してきているからこそ、同時に変えてはならないものが何かを知り、大事にしてきているからだと思う。
 
お菓子の八ッ橋「聖護院八ッ橋総本店」は元禄二年の創業で300年の歴史をもつ。
「京都の文化というものは多くの人々が受け継いできたものです。大勢の人々が一過性の流行に流されず、心から良いと思ったもの、後世に残したいと思ったものが伝わっていったことによって、今の文化は形成されています。私たちは八ッ橋というお菓子を作る会社として、次の時代に美味しい八ッ橋を残し伝えることが、会社としての使命と感じております。」                                           
※聖護院八ッ橋総本店HPより引用

お琴を模して焼いた固い八ツ橋に加え60年前羽二重餅のような生八ッ橋がラインに加わり、のちに餡子を包むものが出てくる。300年で加わったのはこの2品目。そして現在、後継ぎの鈴鹿加奈子氏は、長い歴史と伝統の味を守り受け継ぎながらも、贈答やお土産だけではなく日常のお菓子として、もっともっと普段の生活の中の楽しみとしてもらえるよう新しい商品作りに努め、新ブランド「nikiniki」を立ち上げた。100年後にも残っていることを目指している。
 
「京扇子大西常商店」の大西家は江戸〜明治期にかけて、元結(もとゆい)製造所として京都・建仁寺にて商売をしていた。元結とは、日本髪を結うために使用する和紙製の髪留め具で、日本髪の衰退や洋装の流行などの時代背景で需要が後退。これを契機に、扇子製造所としての事業を大正期に開始した。扇子屋としては創業以来百年間、扇子の製造から販売までを一貫して手掛け「扇子の文化を百年先に繋ぐ」ことを社是にしている。投扇興(とうせんきょう)や茶道などの文化体験他、能・日本舞踊など「扇子を使う芸事」のお稽古場も用意し、京町家で、扇子の文化に触れる、学ぶ、遊ぶを提案している。後継ぎの大西里枝氏はこの扇子の繊細な軸をフレグランスの発散に応用した扇ルームフレグランス「かざ」を開発、販売している。」
※大西常商店HPより引用(一部改変)
 
不思議と商品開発はその商品に100年の命を宿そうと目指しているが印象的だ。

3.断捨離 デマンドサイドからのアプローチ

断捨離、よく聞く言葉である。物の取捨選択だけだと思われがちだが、その選択基準を考えるとき、その効用だけで選ぶ人はまずいない。それ自体、自分たちが価値を見いだしている根拠は何かをあらためて考え、自分や家族を見つめ直すきっかけになるはずだ。当然、量ではなく質が大事になり、自分たちが誇りに思うありのままの感性に従い、心地よい空間に囲まれるよう努力していく。
 
大量消費を反省し、サーキュラーエコノミーが叫ばれている昨今、消費において「もっと安く」というお決まりのアプローチが悪くないとしても、その長きにわたる継承の努力や物語に敬意を表することが出来れば、なお良いだろう。使い捨てではなく、良い物を長く、そして便利で使いやすく、日本人であることの喜びを何となく誇りに思える。高いけれど一生使える物のコストパフォーマンスは、それだけで価格の評価を無意味にするほどのバックグラウンドになることもあるはずだ。
 
次の二つのケースは、断捨離を通して新たに見えた価値基準に対する伝統産業からのアプローチ。どうしても欲しいものが市場に無いから、自分が作るという女性起業家たちの試みがテーマだ。ここで大事なことが、物の効用以外に心を満たす大事なものがあることに気が付き、あたかも「おとぎ話」を語り継ぐように、我々のルーツを感じさせるものを日常生活の中に織り込もうとしている点。どちらも是非、HPなどを覗いて見て欲しい。
 
一つめは、伝統の藍染めによるベビー用品製造に乗り出した株式会社和えるの例。代表取締役・矢島里佳氏は同ビジネスに賭ける想いを次のように語っている。
「日本の伝統を次世代につなぎたい」
そんな想いから、“0歳からの伝統ブランドaeru”は誕生しました。
“0歳からの伝統ブランドaeru”は、日本全国の伝統産業の職人とともに、生まれたときから大人になっても使えるオリジナルの日用品をお届けしています。           
※株式会社和えるHPより引用

「伝統産業も子ども産業も、両方、衰退しているのにどうしてやるの? せっかく慶應の法学部に入ったのに、どうして起業するの? もうちょっと経営を勉強してから始めたほうがいいのでは? とさまざまな声をいただきました。でも、等身大の自分が欲しいって思えるものが、この伝統産業と赤ちゃん・子ども用品という組み合わせだったので、和えるを立ち上げたのです」
※東洋経済ONLINEより引用
 
二つめの例は、潜在的に高いニーズがあるにも関わらず、着付けの手間などがハードルになっていた着物を劇的に着やすくした「driccoきもの」。日本人としての正装は?と聞かれてハッとする人も多いだろう。まずは普段使いの着物を気軽に楽しめるようにしたいとの母の想いを受け継いだ岩崎絵美氏の話である。

「普段でも着物を着るかというと「苦しくて動きにくい、面倒くさい、手入れが大変、着付け代が高い」などの理由からなかなか着る機会がないというのが現状でした。これでは次世代に伝えていけないと考えた母は、友人の京都造形芸術大学服飾デザイン科の教授に相談し、約4年間試行錯誤を繰り返し現在の形の“driccoきもの”が生まれたのです。(実用新案登録済)
開発した当初はNPO法人でdriccoきものを普及していこうと考えていましたが、少しずつ購入してくださるお客様が増えそこからロコミが広がり始め、昨年の10月株式会社として起業しました。その際「これからはあなたの世代でしょ」と背中を押され、私が社長、母が会長として一歩を踏み出しました。」
※DISCOVER MYSELFより引用

4.日本人として自らを振り返り、生活に根差した選択を行う

伝統産業に関わる多くのファミリー企業が存続を掛けた戦いの最中にある。その戦いにおいて女性のポジションは大変重いと感じている。刀や茶道具と異なり、女性は衣食住など身近な生活に根差した選択においてしばしば中心的な役割を担ってきた。
 
言い換えると、身近なモノやサービスを語り受け継いできた感性を自らのヒストリーともども時代に合わせて、そのシンボルの居場所を見つける力が素晴らしい。どの場所にどっちを向いてどう存在させるのかを知らぬ間に極め、多くの女性の間で共有する推進力は高いコミュニケーションの能力である。そして、苦労の末にそれを作り皆で喜びあっている。多くの賛同を得て求められるままに頑張るのだが、どこかの節目で組織的な対応すなわち必然的にビジネスにならざるを得ないケースが非常に多いと推察する。
 
生活の中に身近なヒストリーを背負い選びに選び抜かれた物やサービスは、さりげなく存在し、民族のアイデンティティーを感じさせ、外国人から見て魅力ある日本のアイコンとなっている。もう既に世界が待っている証拠だ。
 
ここで、前述の日本女性の感性が世界の人の心を掴んだ事例を紹介したい。一つめは、京都に住むフランスの男性が惚れ込み母国へ紹介した弁当箱。興味深いのは、その弁当箱というモノを、文化ごと受け入れてくれたのがフランスのママであるという点だ。愛情を伝える事、健康を気遣う心、包みを開けた時に自分を思い出してくれるだろうとの期待、色々な気持ちを込める事が出来る点に共感してくれたのだろう。聞けば、お弁当を使う社員の多くが午後の職務にオンタイムで復帰し、仕事の効率も上がっているとの事で、まさに良いことずくめだ。
 
もう一つは、「開けば花、閉じれば竹」と謳われる、細身で繊細な美しさを纏う伝統の和傘。その和傘の世界で3年前に自身のブランド「?日和(かさびより)」を立ち上げた岐阜和傘職人河合幹子氏。母方の実家は岐阜市加納地区の老舗和傘問屋「坂井田永吉本店」である。
「私は佇まいがすごく美しいと思っています。閉じたときの姿とか、もちろん開いたときも。いま存在している和傘って、えごの木と竹と和紙と油で出来ているんですけど、私にとって継承すべきものは「そこ」だと思っています」
※明日への扉 #119より引用・改変

その和傘も世界での認知が進んできている。和傘そのものに加えて、シルエットや色合い、繊細な構造などその魅力の源泉を要素分解して取り出し、並々ならぬ努力で新たな商品への応用にりよ用途開発が進んでいる。そんな世界への展開について第3話でお話ししたいと思っている。
 
こうして眺めて見ると日本女性の感性により、長い年月にわたる厳しい淘汰を乗り越え受け継ぎ磨いてきた衣食住に関わる多様な感性価値を発揮するプロダクトやサービスはいわば究極の「ローカル」である。感性価値を高められたエッセンスは、経営戦略的なブランディングとは異なり、民族のアイデンティティーを代弁してくれていることへの敬意を獲得し、その価値を認められているのかもしれない。突き詰められたローカルは、国境を越えインターナショナルであることを証明している。ここに大きなビジネスチャンスがあり、その担い手としての女性起業家への期待はこれからますます高まると思う。
 
次回は、日本の女性の活躍を加速するためにはどうしたらよいかを考えていきたい。

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