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2023年05月18日 by 山納 洋

人と人とがつながる場のつくり方(後編)



こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。

僕は「場づくり」への関心から、これまでに劇場・インキュベーション施設の企画・運営、カフェ、およびカフェ的交流の場のプロデュースなどに携わってきました。この4月にCELに移ったのを機に、「場づくり」を持続可能な地域づくりにつなげていくための方法論を研究し、また現場でのさらなる実践を重ねていきたいと思っています。

最初に自己紹介的に、僕がこれまで場づくりについて取り組んできたこと、考えてきたことを2回に分けて書いてみます。今回は後編になります。


1.TalkinAboutの展開


扇町Talkin'Aboutは2006年、約700回を数えた後にいったん終了しています。そしてその2年後、大阪にサロンを定着させる実験の第2章として、2008年に再開。この時に考えていたのは、従来よりもさらに手間のかからない、誰でも簡単に開催できる場づくりの形を見つけることでした。そして始めたのが、「本を紹介し合うサロン」でした。それまではある作家のある作品について語り合う、という作り方をしていたのですが、ここでは自分が読んで面白かった本を持ち寄り紹介し合う、という形を取りました。そうすると準備がほぼ不要で、かつ知らない本の話をいっぱい聞くことができる、そう考えてのことでした。

「博覧強記の夕べ」と名付けたこの会では、各参加者は15分程度の持ち時間の間に本を紹介し、ディスカッションをしています。あまり熱心に告知をしていないのですが、常連メンバー中心のサークルのようになっていて、毎回10数人が集まる会としてもう15年間続いています。そして参加者たちが「博覧強記」と呼ぶにふさわしいレベルに成長していて、誰かが紹介した本の話をきっかけにセッションが始まる、といった談論風発の雰囲気になっています。

それ以外にも、好きな音楽や自分の仕事を紹介し合ったりする会も開催していました。意識していたのは、それぞれが持っている知識や経験を共有し、お互いの価値観を知ることでした。


   博覧強記の夕べ


2011年には、大阪市が淀屋橋に設置したまちづくり情報の発信基地の活性化の依頼を受け、「御堂筋Talkin'About」をスタートさせています。それまでのTalkin'Aboutのテーマは文化的事柄や起業についてのものが多かったのですが、ここでは「大阪のまちづくり」という公共的なテーマに取り組むことになりました。僕は近所にある喫茶店の店主、近代建築ビルのオーナーとユニットを組み、月一回のペースでサロンを開きました。毎回ゲストをお呼びして1時間程度で話題提供いただき、その後集まった方々全員に喋っていただきます。集まった人数はだいたい20名前後で、議論をするというよりも気楽に参加できるラウンドテーブルとして、みなさんの意見や情報をシェアするという構成を意識していました。

2013年、大阪ガスはグランフロント大阪のオープニングに際し、「都市魅力研究室」というスペースを設置しました。セミナールームとサロンスペースを備え、勉強会の開催を通じて都市開発やまちづくりの知見を集め、新たなまちづくりのあり方を提案することを目的とした施設です。オープンを機に、それまで御堂筋界隈で行っていたサロン活動の拠点をここに移し、「うめきたTalkin'About」と名称を変更。以降は月に1、2回のペースで、まちづくりや社会課題解決などのテーマについてのサロンを開き続けています。



  うめきたTalkinAbout開催風景


僕はTalkin'Aboutのように、講演やシンポジウムのような、少人数が舞台に上がり、大勢が客席でじっと話を聞く形ではなく、参加者全員が話し合うサロンというスタイルにこだわり続けています。それは参加者による「場の相互編集」の可能性と有効性を信じているからです。前者のようなスタイルは、壇上の人たちが持つ知識や情報が、客席に座る大多数の人たちのそれを卓越していることを前提にしているわけですが、もし客席側に重要な知識や情報を持った人がいたとしても、その場で共有されることはありません。それは“知の創発の場づくり”という観点からみると、かなり効率が悪いことなのではないだろうか、そう思っています。

サロンの醍醐味は、話し合うテーマの深掘りだけあるのではありません。場に集う人の多くは様々な関心を持っていて、それぞれの関心に沿ったピースを探しています。彼らは議論の行方だけでなく、そのピースと出会えるかどうかにも重大な関心を持っています。「壇上の人の話はイマイチだったけど、あとで喋った人の話は面白かったな」という出会いも、場としては大事なのです。だからこそ、その場に集まった人たち全員の話を聞ける状況にしているのです。

サロンに参加される方には、「喋りたくて喋れる人」「喋りたいけれど躊躇する人」「ただ聞いていたい人」の3つのタイプの方がおられます。「喋れる人」には喋りすぎないように、「躊躇する人」にはうまく話を引き出すように、「聞いていたい人」には無理強いしないように注意していれば、みなさんがリラックスして楽しめる場にすることができます。その上でうまく話を引き出したり、新たな視点を持ち込んだりすることができれば、座に勢いをつけることができます。終了後にはそれぞれが興味を持った人に話しかけられるので、ことさらに紹介はしません。長年サロンを続けてきたことで見えてきたこうした機微を、僕自身は大事にしています。


2.場のアウトリーチ


一方で「場を作り、座して待つ」というスタイルの場づくりには限界もあります。

問題を抱えている人、つながりを必要としている人は、こちらが用意した場に足を運べるとは限りません。むしろ来られない人、敷居が高いと感じて近寄らない人の方が、真に場を必要としている可能性もあるのです。社会的な課題に対して本当に取り組むためには、自ら出向き、出会うことのなかった人と出会い、新たな関係性をつくり、状況に変化を生み出す。場づくりにはそういう方法もあるのではないでしょうか。

僕は10年前から、コミュニティに問題を抱えている地域に出向き、そこにある飲み屋で話を聞くという営みを続けています。これまで重ねてきた場づくりの経験から、“アウェー”に出向き、関係性を築くことで見えてくることもあるだろう、という漠然としたイメージに従ってのことです。

今でも行き続けている1軒の立呑屋は、とある市営住宅の一階にあります。開業してから100年程で、20年ほど前に今の場所に移っています。ここにやって来る人たちは、地域のことを「ムラ」と呼んでいます。営業時間は朝10時から夜9時まで。80代半ばの女性と50代の娘が2人で営業し、時間帯ごとにやって来る常連客に支えられています。店に集う人たちはかなり多彩で、コミュニティを必要としている人たち、職業倫理と矜持を高く持ち、日々を前向きに暮らす人たちが集まっています。店での会話の大半は世間話ですが、この店があり、日々の語らいが担保されていることで解決している問題があると分かります。時に彼らがアウトローと距離が近く、それゆえに起こる厄介な事柄といかに距離を置いて暮らしているかという機微に触れることもあります。この店では、集まっている人たちによる相互編集によって自分たちのコミュニティの課題に取り組んでいます。つまり、かなり質の高いサードプレイスになっているのです。ですが、こういう場がない地域では、コミュニティの問題にどう向かい合っているのでしょか。

自治体や社会福祉協議会などにおられるコミュニティソーシャルワーカーの方々は、孤独死、ごみ屋敷、ひきこもり、生活困窮、女性や子どもの貧困、ホームレス、認知症など、地域社会の生活の中にある課題に取り組んでおられます。これらの課題を抱えている当事者の多くは、経済的な貧困とともに、人間関係の貧困、つまり孤立し、誰にも相談できない状態に置かれており、そのために心を閉ざしてしまっていることも多いと聞きます。

そうした当事者の課題に向かい合い、解決の仕組みを地域に生み出すためには、専門的な技術や知識、そして支援のためのネットワークが必要になってきますが、そこにハードルの高さを感じて、関わることに二の足を踏んでいる人も多いのではないでしょうか。


3.マチソワという実験


2023年10月に、大阪市北区・扇町公園の南側に『扇町ミュージアムキューブ』が誕生します。250席、100席、50席の3つの劇場と、7つのギャラリー・練習室・会議室を備えたシアターコンプレックスです。

この施設は、医誠会国際総合病院の建物の1階から3階に設けられます。運営主体は株式会社シアターワークショップという、劇場の設計・コンサル・運営を行う会社です。かつてOMSがあった地に20年ぶりに新たな劇場が誕生するのですが、劇場の上には総合病院があり、すぐ横には保育園も設置されるのです。



   扇町ミュージアムキューブ外観図

 

「キューブ」の一階には「マチソワ」という、キッチンを備えたサロンスペースが設けられます。実はこの場所の運営は、コモンカフェの有志メンバーを中心に行うことが決まっています。15〜20名のスタッフが交替で店に立つ予定で、今回はメニューを「日替わり」にはせず、代わりにスタッフがお客さんに自然に話しかける空間にしようと考えています。マニュアルなどは作らず、スタッフがありのままの自分で店に立ち、「今日はお芝居ですか?」「体調はいかがですか?」と話しかける、そんなイメージです。そうした営みを日々繰り返していくことで、どんな関係性が生まれていくのかを確かめてみたい、そう考えています。


 *この新たな実験に専念するために、中崎町で2004年から続けてきたコモンカフェは、今年8月末で19年半の実験を終了します。現在のスペースについては、現店主の中で新たな活用の検討が始まっています。

 

いま、場づくりの重要性は、地域づくりやコミュニティの活性化だけでなく、孤立しがちな人々の支援においても認識されるようになってきています。ですが本当に大事なのは、そこに関わる人たちが他者に対する感受性を持つこと、新しい人との出会いを楽しむこと、時には自ら出向いていく意志を持つことだと思っています。「社会は新たな出会いと対話を通じて変えていける」、そんな信念を共有し、小さな実践を始める人たちが増えていくことを、僕自身は期待しています。(おわり)

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