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2023年05月16日 by 山納 洋

人と人とがつながる場のつくり方(前編)



こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。

僕は「場づくり」への関心から、これまでに劇場・インキュベーション施設の企画・運営、カフェ、およびカフェ的交流の場のプロデュースなどに携わってきました。この4月にCELに移ったのを機に、「場づくり」を持続可能な地域づくりにつなげていくための方法論を研究し、また現場でのさらなる実践を重ねていきたいと思っています。

最初に自己紹介的に、僕がこれまで場づくりについて取り組んできたこと、考えてきたことを2回に分けて書いてみます。今回は前編になります。


1.TalkinAboutの始まり


僕は「人と人とがうまい具合に出会う場所」というものに常に関心を持っています。若い時に通いつめ、自分にとっての“学校”とも呼ぶべき場の存在がベースにあって、それを再現するための実験をこれまで重ねてきた、というのが実際のところです。

2000年には、「扇町TalkinAbout(トーキン・アバウト)」というサロン企画を始めました。これは、あるテーマについて興味ある人が集まり、語り合う“しゃべり場”で、大阪市北区の扇町界隈の飲食店・バー・カフェなど十ヶ所を会場に、演劇・映画・現代美術・音楽・文学・ポエトリー・お笑い・漫画・哲学などの場を開いていました。当時僕は扇町ミュージアムスクエア(OMS)という、小劇場・ミニシアター・雑貨店・カフェレストラン・ギャラリーを備えた複合文化施設のマネージャーをしていて、「さまざまな文化ジャンルに関心のある人たちが出会える場をつくりたい」という思いからこの企画を始めています。ちなみにこの施設は大阪ガスの旧支社を活用してできたもので、1985年から2003年まで18年間大阪ガスグループによって運営されていました。

 

   扇町TalkinAboutフライヤー


TalkinAbout」は参加無料で、参加者は自分の飲食代をお店に支払うという、経済が絡まない形で運営していました。当初は僕が関心あるテーマでスタートしたのですが、やがて「自分もこんなテーマでやりたい」という人たちが現れ、ジャンルがどんどん広がっていきました。一時期は15名ほどの主宰者がいて、月に15回ほどのペースで開催していました。

この企画では、集まった人数を気にしないことにしていました。実際、3人から5人程度で話し合っていたことも多かったです。開催にあたっては、興味を持ってもらえそうな知り合いに声をかけて、少なくとも3人は集まるようにした上でチラシなどで告知するようにしていました。知り合いと会う約束を告知していたようなものですが、テーマが良ければ僕らの知らない人たちが現れてくれます。初めて会う人たちが同じテーマに関心を持っていると分かると場は盛り上がり、時にはかけがえのない出会いが生まれることもありました。それが面白くてやっていたようなものでしたが、続けるうちにどんなテーマ、どんな告知文を書けば人が集まるか、面白い人が来てくれるかが分かるようにもなってきました。世の中の人たちがどんなテーマに関心を持っているのかをリサーチする、小さなマーケティング活動のようなものにもなっていたのです。

やがてTalkin'Aboutは、「プロジェクトのはじめの一歩」という意味合いも持つようになりました。新たなプロジェクトを思いついたらまずサロンを開催し、参加者からアイデアや意見を集めつつ、やりたい人や実現できる人が現れたら、彼らを巻き込んで実際にプロジェクトを立ち上げるのです。「カフェをつくる」というサロンからは「コモンカフェ」が、「六甲山カフェ」というサロンからは六甲山カフェプロジェクトが実際に始まっています。


2.Common Bar SINGLES


2001年には、「Common Bar SINGLES」という日替わりマスター制のバーの運営に関わりました。扇町TalkinAboutの会場でもあった、音楽好きが集まるバーの閉店に際して、その空間を残すために、「日替わりマスター」というシクミを考え出し、月に一回お店に立ってくれる人たちを募って立ち上げたものです。場所は大阪市北区堂山町。阪急東通商店街奥の歓楽街の中の雑居ビルの2階にある、カウンターのみ12席のこじんまりした空間でした。

マスターとして名乗りを上げたのは、ライブハウスのブッキングマネージャー、映画館支配人、フリーペーパー編集者、美術家、写真家、学生など、様々なバックグラウンドを持った方々でした。通常のバー営業だけでなく、イラストレーターが作品を展示したり、サラリーマンが一晩中レコードをかけていたり、ラテン系の人たちが集まったり、演劇関係者が集まったり、十数人だけお客さんを入れてライブを開催したりと、様々な小さな実験の場としても活用されていました。


 

    Common Bar SINGLES店内風景


僕がシングルズの運営に関わったのは2004年11月までで、その間にマスターとしてお店に立った人は160ほど。20代、30代のマスターが多く、その後マスター同士で結婚したカップルが僕の知る限り6組存在しています。つまりは若い人たちが同じ価値観や美意識でつながることのできる場になっていたのだと思います。僕が離れた後は、マスターだった人たちが集まってお店を引き継ぎ運営していました。その後は代替わりを重ねつつ、日替わりマスターのバーとして19年間継続し、最終的には2020年のコロナ禍で閉店となっています。


3.common cafe


2004年には、シングルズから徒歩5分ほどの場所にある大阪市北区中崎町で「common cafe」を始めました。このお店を作ったのは、前年に閉館したOMSを個人レベルで再生させたいという強い思いからでした。カフェにも、バーにも、劇場にも、映画館にも、ライブハウスにも、雑貨店にも、ギャラリーにもなる場所。ここをさまざまな活動のための場として使いこなしてくれる人たちが増えれば、家賃を払いつつ、企業や行政の支えなく表現空間が維持できる、そう考えてのことでした。お店がある中崎町は大阪駅から徒歩10分ほどの都心部にありながら、戦災を免れた街並みが残され、古民家を活用したカフェやギャラリーや洋服屋などが数多く立ち並ぶ町で、文化的な拠点を作るのにふさわしい場所でした。物件は10階建てのビルの地下1階にあり、広さは約20坪で、飲食営業だと24名、音楽ライブや演劇公演の場合は50名程度を収容できます。

コモンカフェも日替わり店主制のお店で、昼と夜でも店主は入れ替わります。運営に関わってくれたのは、飲食店開業を目指している人たちや、表現上の実験を重ねたいと考えるアーティストたちでした。ここはお店に来た人たち同士が語らい、つながる場というよりは、彼らがイメージしているお店やイベントを自由に試すことができる「実験劇場」であることを目指していました。そして演劇公演、音楽ライブ、アート作品の展示、一日雑貨店、映像上映会、トークイベント、ワークショップ、料理教室など、幅広い活動の場として活用いただいてきました。



    common cafeイベント風景


自主管理ゆえに安価で使える表現空間であること、週1回、月1回のペースで無理なく自分のお店が持てる場所であることにメリットを見出し、関わってくれる人たちが居続けてくれることで、これまで19年間継続することができました。(後編につづく)


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