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2023年01月26日 by 小島 一哉

レジリエンスを考える 〜浪江にて


               震災遺構浪江町立請戸小学校

 

こんにちは。エネルギー・文化研究所の小島です。私は地域社会の防災減災・レジリエンスについて研究しています。3回目となる今回は、福島県浜通りの状況について触れたいと思います。


昨年末、石巻・仙台出張の機会を利用して、全線開通した常磐線で、仙台から、相馬、南相馬(原ノ町)、浪江、富岡、いわきなどに途中下車して、福島県浜通りの震災からの復旧・復興状況を視察した。このレポートでは、そのうちの浪江町について触れさせていただきたいと思う。


浪江町は現在も帰還困難区域が残っている。避難指示が継続する区域についても、「特定復興再生拠点区域」を設定して国による除染、インフラ復旧を進め、昨年9月より準備宿泊を開始、立入規制が緩和されるなど、今年3月の避難指示解除を目指して準備を進めている。人口は2万人強であったが、現在のところ帰還者は約2千人弱と1割にも満たない。特に若い人の帰還が少ないと聞いた。帰還しても就職先が少ないためだそうだ。


   震災遺構浪江町立請戸小学校


  震災遺構の内部  

 

1年余り前に震災遺構として開館した浪江町立請戸(うけど)小学校に立ち寄った。「ほのかなる潮の香りよ風そよぐ・・・」。請戸小学校の校歌である。潮の香りを感じる海のすぐ近くに小学校は建っている。大地震の時、帰宅していた1年生を除く児童82名が学年ごとに並んで1.5km離れた大平山まで小走りに避難した。地震とともに全校児童は校庭に集まり、校長先生の指示のもと地震から10分も経たないうちに避難を始めている。雪が降り始め、体力の限界を訴える児童もいる中、大平山を越え、国道6号線に出た。たまたま通り合わせたいわき市の運送業者のトラックが児童を乗せて町役場(体育館)まで運んでくれた。

聞けば、浪江町はこれまで地震による大津波の経験は少ないとのこと。そんな中で指定された避難場所に避難を開始したことは、驚嘆の一語に尽きる。日ごろの訓練の成果でもあり、校長先生はじめ小学校の危機管理は素晴らしい。

 

 児童の避難経路

 避難した大平山  



小学校から大平山にもまわってみた。大平山から見れば小学校はぽつんとたたずんでいてとても距離があるように見える。山は霊園になっているが児童たちが休んだり暖をとったりする施設はない。国道6号線を通って町役場まで移動した。さらに2,3kmはあるだろうか。トラックが通りかからなかったら、疲れ切った子どもたちの足で、だどりつくことも難しかったのではないか。そういう思いになった。

 

 大平山から小学校を臨む

 

浪江町の人たちの避難は津波からの避難に終わらない。原子力発電所の事故からの避難は今も続いている。津波の直後からの長期間避難であるため、津波で行方不明になった人たちの捜索もままならなかった。帰還可能となるまで長期間のブランクがあったため復旧・復興が遅れている。道路も未整備だったり、砂利道のところも少なくなく、他県ではほとんど見かけなくなったトラックが、浪江はじめ原子力発電所の近くでは今もたくさん走っている。復旧・復興はこれからのところが少なくない。

浪江町民の多くは、現在も町外での避難生活を続けている。避難先は福島県内が約7割、県外が約3割(45都道府県)とのこと、町では、生活再建を支援するため「復興支援員」を福島県内外に配置しているが、令和3年10月に実施した住民意向調査では、「戻らないと決めている」が52.4%となっている。単なる復旧や復興ではなく、住民の帰還や街を再生するためのプログラムも大切になっている。原子力発電所の事故の影響で長期避難を強いられている方々のレジリエンスを語ることは分不相応と思う。少しでも早くそして多くの人の帰還とにぎわいが戻っていくことを切に願うばかりだ。

浪江だけではなく、被災地にとって、将来への伝承も欠かせない。まもなく震災から12年が経過する。多くの地で復旧・復興の取り組みとともに遺構や語り部によって震災伝承の取り組みが進んでいる。昨年10月、被災3県を中心とした伝承に取り組む団体・個人の連携組織「3・11メモリアルネットワーク」と、石巻市などで震災伝承活動を続ける公益社団法人「3・11みらいサポート」が組織統合し、公益社団法人「3・11メモリアルネットワーク」として始動した。復旧・復興とともに震災の体験を次の世代に伝えるため、地域活動と3県が連携した活動を通じて、持続的で広がりのある取り組みが期待されている。

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