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2022年12月15日 by 前田 章雄

エネルギーよもやま話19 日本の生産工場が海外進出している実態とは?



 

 

「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。

 

前回のコラム『日本経済をエネルギーの視点で見てみよう!』では、円高に苦しんだ日本企業が海外進出に舵を切った状況をグラフから読み解いてきました。では、その海外進出の状況をわかりやすくイメージしてみたいと思います。

 

 

1.日本の基幹産業は、どんな現状になっている!?

 

日本の基幹産業のひとつでもある自動車産業を見てみたいと思います。

自動車とは、製鉄所で製造される高張力鋼などの高機能素材や、製鉄所の下流企業で製造される歯車などの機械部品の塊です。さらには、シートなどにつかわれる化学繊維類もあれば、電装品や電線ケーブルも多量に使用されています。そして、そうした電装品を動かすためのマイコン部品もあり、高度な制御ソフトも必要になってきます。

 

つまり、自動車産業とは裾野が広く、多くの製造業の最終形態になっているといっても過言ではないでしょう。言い換えれば、「エネルギーを大量消費する産業を集積しているのが自動車」ともいえます。

 

では、その自動車の生産台数を見てみましょう。

過去の推移を見れば、バブル絶頂期は多くの自動車をつくっていましたし、近年は国内の販売台数の減少とともに生産台数も下降傾向にあります。ましてや、コロナ禍や半導体不足の状況下では、さらなる減少も考えられます。

そうした変動があることを考慮しながらも、ザックリ言って、「自動車の国内生産台数は概ね1千万台」とします。

 

では、日本の自動車メーカーが海外へ進出して、海外で直接生産するようになった生産台数を見てみましょう。

1990年では300万台強でしたが、10年後には600万台に達しています。ちょうど倍ですね。その10年後の2010年には、さらに倍の1300万台になり、2019年は2,000万台に迫る勢いです。

日本は自動車の輸出大国として君臨してきましたが、近年では国内生産の2倍近い生産を海外でおこなうようになっているのですね。


 

 

 

2.エネルギーを消費する裾野産業は、どうなっている?

 

前章のグラフでは、最終工程として自動車を組み立てた台数を見てきました。

では、製造工程全体にかかるエネルギーとの関係は、どうでしょうか。最終の組み立てでは、塗装にともなう焼き付け乾燥工程くらいしかエネルギーを使用しません。それよりも、協力会社から組み立て工場へ供給される部品の製造に、もっと多くのエネルギーが利用されています。

 

海外で組み立てしても、日本国内でつくられた部品を輸出することも考えられます。しかし、相手国から現地での製造比率を上げるように求められており、また、距離(輸送)や為替、人件費などを考慮した結果、協力会社の多くが海外に工場を進出させています。それにともない、彼らの下請け企業や孫請け企業も同じく海外展開しています。

つまり、海外での現地組み立てとともに、エネルギーを消費する工場も海外へ進出しています

 

一方で、国内生産を見てみましょう。

若干の減少傾向にあると言いながらも、国内の組み立て工場で概ね1千万台近くを維持しています。新車の開発拠点は国内に残していますし、海外工場の見本となるマザー工場としての役割もあるため、むやみに工場を閉鎖しまくるようなことは(やむなく実施した一時期を除いて)おこなわれていません。

 

しかし、部品の製造工場は別です。長く続いた円高への対応と安い人件費を求めた結果、タイをはじめインドネシアやマレーシア、ベトナムなどの東南アジアへ製造拠点を移し、部品を日本へ逆輸入しています。

つまり、エネルギーを消費する工程だけを海外へ移しています。日本が加工貿易で稼いでいるイメージは、過去の話と化しつつあるのですね。

 

こうした結果が、前回のコラムで議論した「2005年以降に日本のエネルギー効率が改善している」ことにつながっています。

 

 

3.なぜ「悪い円安」が、なかなか改善されないのか?

 

円安は、海外生産している企業にとっても、メリットがあります。海外で同じ1ドル稼いでも、国内へ還元した場合、それが100円になるのか150円になるのか、といった違いです。

海外生産した収益が計算上大きくなることは、その企業にとっては良いことですが、日本国内の景気につながるまでには、かなりのタイムラグが生じます。

 

円安によって生産工場が国内回帰すれば、加工という付加価値のすべてが国内収益に計上され、さらには国内の雇用も増えるため、回りまわって国内の景気もすぐに刺激されていきます。

しかし、一度海外へ移してしまった工場を国内へ戻すことは、容易ではありません。

 

ましてや、今の円安はおもにアメリカとの金利差によって生じています。アメリカが金利上昇に舵を切ったのに対し、日本は景気縮退を恐れて低金利の状態のままでいます。

この方策の良し悪しは別として、もし日本の金利が上げられると、円安ではなくなる可能性も生じます。

「日本政府の方針次第なので、変化が読めない」

企業としては、おいそれと方針転換ができない、というのが正直なところでしょう。

 

円安に対応した企業の動き(国内回帰)がないと、輸入資源の価格高騰ばかりが問題視されてしまいます。生活者にとっては、短期的には円安は悪い方向でしかないからです。

もしかすると、政府に対する企業からの信頼が希薄化していることが、「悪い円安」が長く続いてしまっている一番の要因なのかもしれません。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。



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