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2022年11月09日 by 小島 一哉

「神戸っ子」のレジリエンス(大雨・土砂災害編)


こんにちは。2回目の投稿になります。エネルギー・文化研究所の小島一哉です。

今回は、「神戸っ子のレジリエンス(大雨・土砂災害編)」について触れたいと思います。よろしくお願いします。

 

中学・高校生の頃、新田次郎の小説「孤高の人」のモデル加藤文太郎さんにあこがれて、六甲山系や北アルプスを歩き回ったことがある。特に、六甲山系は日曜日や祝日にひとりで山を歩いた。須磨浦公園から宝塚に抜ける約60kmの全山縦走も経験した。現在は道や標識などもよく整備されてより手軽なハイキングコースにもなっている。住宅街を通って山道に入り六甲山頂(標高932m)を目指す。数時間の道のりだ。

六甲山系の南斜面は、日当たりもよく、神戸からはるか遠く大阪の南部あたりまで見渡せて非常に眺めも良い。人気の住宅地だ。



大阪湾を臨む六甲山系の住宅街


しかし、実は六甲山系は、花崗岩が風化し浸食によってできた真砂土(まさど)の地質が多く、日本後紀などにも記録が残るくらいのはるか昔から雨などによる土砂災害が繰り返されている。真砂土地質のところは30年に1回程度の大きな災害が発生するといわれている。花崗岩が、流れやすい粒子の真砂土になるまで凡そ30年とされているからだ。

また、前面の大阪湾からは高潮や津波、六甲山系に数多くある河川からは洪水などの被害も起こっている。

神戸市東灘区の住吉川は、千丈谷や五助滝などハイキングでも有名なところを源流に、いくつかの川が合流して魚崎や住吉浜あたりで海に流れ出る。途中の住吉台の入口あたりに、ひっそりと石碑が建っている。昭和13(1938)年7月に発生した阪神大水害の水災記念碑だ。


 

昭和13(1938)年7月に発生した阪神大水害の水災記念碑


この水害で695名の犠牲者が記録されている。

その後の神戸の大雨災害は、昭和25(1950)年のジェーン台風、昭和42(1967)年、そして最近では平成30(2018)年西日本豪雨などがある。

国や自治体は、阪神大水害を契機に、土砂災害防止対策を進めている。砂防ダム、コンクリートやネットでの土砂災害対策が六甲山系の随所で見られる。

それでも、西日本豪雨の時には、100件以上の土砂崩れが報告されている。幸いにして亡くなった方はいなかったが、家屋が損壊し避難所生活を余儀なくされた人、道路への土砂崩れで通行止めになり大きく迂回しないといけない、そんな不便さも経験した。




コンクリートやネットで街を守る



石屋川水系にある「大仏砂防ダム」と親水公園


自治体も土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)や土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定を行い、土砂災害からの避難の啓発を進めている。




兵庫県CGハザードマップ

−六甲山系の随所にレッドやイエローのゾーンが記されている


ハード面だけではなく、ソフト面での取り組みを幾つか紹介したい。


住民と地域の避難所とが連携した取り組みとして、東灘区の甲南台と甲南女子大学がユニークな取り組みをしている。甲南台は、三方が土砂災害警戒区域にある。隣接の甲南女子大学が避難所の一つになっている。正門に行くには、いったん山をおりてまた登るなどと、避難の時間的・距離的ロスが多い。そこで、甲南女子大学は西門(裏門)を設けて、甲南台の住民をロスなく受け入れることを行っている。

 

甲南台の住民の命を守る甲南女子大学西門。いざというときに大学へ避難


須磨区妙法寺のマンションでは、子どもの成長と住民の高齢化とともにマンション内のコミュニティが希薄になってきている。かつては住民の夏祭りも行われていた。今は、防災マニュアルもなく災害に無防備なマンションになっている。そのマンションが無防備さを少しでも解消しようと地区防災計画を策定している。まだまだ、住民全体への広がりに課題があるものの、努力を重ねている。

ある高台の住宅地では、ハザード自体があまり知られていないことなどもあって、毎年変わる役員の講習に「防災教育」を自治会独自に加えている。

神戸の川は、親水公園的に運営されているところが多い。しかし、急流が多く、下流での雨が少なくても、上流の雨が一気に下流を襲うことがある。平成20(2008)年の灘区都賀川の水難事故も教訓として受け継がれている。




急流が多いため、急な増水に気を付けなければならない


山沿いは土砂災害が心配されるが、川の下流域や海に近いところは、洪水や高潮の警戒が欠かせない。

垂水区の福田川沿いの住民は、介護事業所と老人会が連携して、河川氾濫のハザードや避難の方法を繰り返し学習している。その近くの宗教団体では信徒に各々の自宅のハザードを伝えて被害を軽減する取り組みを行っている。

「神戸」といえば、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災の被害と復興のイメージが強い。

しかし、90年前の大水害を契機に神戸の街は、ハード面・ソフト面での豪雨災害や土砂災害からのレジリエンスを高めてきた。広大な六甲山系の住民をハードだけで守ることは到底不可能である。

後ろに六甲山系・前には大阪湾という大都市「神戸」。神戸市は雨の季節を迎える前に、毎年「くらしの防災ガイド」を全住戸に配布している。広げると模造紙半分くらいの大きさになる。土砂災害・水害のハザートや緊急避難場所、防災施設、観測施設などとともに、避難行動や災害の基礎知識、日ごろからの備えなどが詳しく記されている。


自助と共助と公助の連携。「神戸っ子」のレジリエンスを高める取り組みにも終わりはない。




神戸市の各住戸に配られる「くらしの防災ガイド」




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