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2022年09月14日 by 岡田 直樹

新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く (3/3)

第3話:内なる大きなマグマをギリギリまで抱え、一気に放つ

こんにちは、エネルギー・文化研究所の岡田直樹です。

第2話で、紆余曲折はあるものの自らの天命を知り、折れない心を育み、創業の同志を得た者だけが成功にたどり着いていること。そして、率いる組織の大小に関わらず、経営者同士が胸襟を開き、向き合う事が大変重要であるということをお話しした。今回は、第2話でも紹介したサービス系ITベンチャー企業の社長についての定性調査(上場企業を中心とする142社の創業者を対象に各種デジタルメディアで掲載されているインタビュー記事や発言記事の収集し、可能であれば私自身が直接面談して、起業までの軌跡を調査)を基に、彼らがなぜこんなにも厳しい道を選び、最後の最後まで踏ん張れたのか、その力の源を深堀りしてみたい。

 

1.それしかなかった、茨の道

成功者たちの力の源を考える上では、しばしば「何をビジネスにするか?」というテーマが思い入れの源泉で力の源だと思われがちだ。私も当初は、彼らにはやりたいことが有るから頑張れると思ったのだが、それは違った。何をするかの前に、経営者に成ること自体が目的・目標だったのだ。

 

ビジネス以外の分野、たとえばスポーツや芸術や音楽の世界に進む人は、まず「やりたいこと」ありきであることが多い。一方、前記の調査を通して見ると、サービス系ITベンチャー企業の社長の場合、それとは反対に「やりたくないこと」がはっきりしているように思う。好き嫌いの激しい人がそんなに都合よく儲かるビジネスをすぐ見つけられるはずがない。その証拠に、彼らのなかには次々に儲かりそうなことをやってはピボットする人が多い。そのうち器用な人は、なんとか食べていくだけのことは達成してしまう。このように、最初は無我夢中で色々やりながら、3つから5つ、多い人で10に届くくらいのビジネスに挑戦し続ける。都度多くのことを学びながらステージを上げ、そして徐々に絞ってきているのが実態のようだ。

 

そして、いよいよ最後の段階で、過去からの数々のビジネス経験から研ぎ澄まされた第六感をベースに、新しいサービスを「どうぞ」と市場に提案する。それも絶妙のタイミングで、真っ先に風を受けて飛び出している。

 

その例を挙げると、「インターネット」「eコマース」「ブロックチェーン」「シェアリングエコノミー」「フィンテック」「VR・AR」「3Dプリンター」「ヘルステック」「グリーンテック」「DX]など数えきれない。真っ先に飛びついていくものの、どのムーブメントにどうのように反応し、自らの強みを発揮するかは、それまでとことん色々なことに取り組んできた経験があってこそ持てる、いわば「第六感」だ。

 

目標が決まれば、サービスを市場に投入。あとは、市場からの反応を“経験”データバンクに照らし合わせ比較検討し、使い勝手の改善・修正、ターゲットの変更、インセンティブの付け方、インフルエンサーの活用、など次の一手を立て続けに繰り出していくのみである。


2.3種の類型とトリガー


続いては、彼らがどんなプロセスを経て、何をきっかけに大きな勢いを得て成功を掴んだのかを見ていきたい。こちらも前記の調査により、ITサービス系ベンチャー企業の初期の格闘を眺めると、「エネルギーを蓄える熟成の環境」に下記のような3つの類型があるのではないかと気がついた。これら3類型は本人が意図しないまま、素直で平均的な「大きな集団」からはみ出してしまった状況を説明しており、寂しい思いのなかで必死に自分の居場所を探し続けていた環境とも言える。しかもひとりぼっちで、その期間は10年を超えることも珍しくない。


そして、葛藤の末に出会った衝撃の経験(チャレンジに踏み出すきっかけ)を貴重な「トリガー」として、最初のビジネスへと踏み出している。彼らにとっては、まさに天命を知り、居場所を見つけた瞬間であり、永きに渡り内部に蓄積してきた膨大なエネルギーを一気に放出していくことになる。

 

 

 

こうして見ると、長い熟成の環境とトリガーはある種の対応関係があり、おのおのに欲しかった社会との関係を手に入れている。すなわち、自分の存在価値を実感する経験だ。もちろんお金の多寡は大事ではあるが、彼らにとって欲しいものはお金だけではない。たとえば、目標とする人を超えているか、相手の満足や仲間からの尊敬など、数々のフィードバックを得て自分がどのように納得実感するか、といったことにかかっている。こうして苦しかった過去、今までの人生が無駄ではなかったと前向きな「清算」を行い、自らを精神的に解放したのではないだろうか。そう!もはや、振り返ることはないのだ。

 

3.育んだ独自の暗黙知こそ重要


しかし、何度も言うが、彼らのようにうまく突破口を見つけ、大きなビジネスに育てるべく全精力を掛けてのチャレンジを開始したとしても、ライバルと戦って勝ち抜けるのはほんのひと握りだ。そもそも、みんなが同じ社会で同じ情報を吸収しているのだから、ビジネスアイデアは似たり寄ったりである。


そのなかで勝ち抜くための秘訣があるとすれば、幼い頃から長い時間を掛けて潜在意識のなかに育んできた暗黙知に向き合い、それを独自のインスピレーションにつなげること。すなわち、自分の心の奥深くにしまい込んでいるものをビジネスの訴求ポイントとして違う角度で日の光を当て、意味づけする。同じものでもひと味違った価値の提供をできた者が、勝利を手にするのである。そして、この暗黙知を活かし、そこからのインスピレーションを得るには、高速のCPU(頭の回転)よりも、RAM(多くの情報を俯瞰できる大きな作業領域)とSTRAGE(多くの引出しと関連情報)こそが重要になる。


プロダクツの世界を例に見てみよう。計算機に記憶装置を付けたものがパソコン、パソコンに電話を付けたものがスマホ、スマホに車輪とモーターをつけたのが「テスラ」、また、プロペラを付けたのがドローンだ。こうしてみると、実はイノベーションと呼ばれるものの多くは非連続ではなく連続しており、同じことはサービスの世界にも言える。


そうであれば、ひと握りの天才に依存することなく、我々でも十分手の届く世界であるはずだが、実際にはこの繋がり=連続性を事前に想起するのは至難の業だ。成功した起業家は、この過程において無意識下で整理し直された長期記憶と、潜在意識の暗黙知を蘇生させ、インスピレーションを手にしている。それは、前述した熟成の期間を過ごす間、繰り返し行われるケーススタディー(堂々巡りも無駄ではない)の圧倒的な質と量に関係しているのだ。そしてそれは、その潜在意識の暗黙知と響き合ってくれる仲間が居ることで、ますます可能になる。

 

4.自分を活かす道は、徹底した自問自答の末の試行錯誤


彼らは数多くのビジネスチャレンジを経て成功を掴むのだが、そのチャレンジのサイクルについて行動レベルで分解すると次のようになる。


(1)ビジネスの始まりと安定成長過程に入る段階に、それぞれマクロ的なけじめとしてじっくりと時間を掛けた総括をする


[マクロでワイドなアプローチで始まる]

この、エネルギーを蓄積する期間の密度は大変重要である。第2話でも話したように、成功にたどり着くまでに、実は長い試行錯誤や押し問答、迷いの道のりがある。それを経てきているからこその大きなエネルギーの蓄積なのだ。

⇒ 全身全霊で発散させる仕込みの圧縮期間がある(熟成・充電)


[マクロでワイドなアプローチで振り返る]

大きなサイクルの終わりが近づく時、すなわち安定成長期に入ると、時間の流れを振り返り、自らを大きなスコープでとらえ客観視(メタ認知)する瞬間をもつようになる。そしてさらなる自分の使命を理解し、大きなうねりと調和させる。ここは、独特な世界観と経営者の大きさを決める学びと気づきの段階である。そして次の新たなサイクルに突入していく。いよいよ時代の先を目指すことになる。

⇒ 歴史を学び、謙虚に時代の流れを肌で感じている(謙虚、風待ち)


特に時代の先取りを行う場合、早すぎてはいけない、押し付けてはいけない、絶妙のタイミングに合わせていく洞察力に磨きをかける。


そして、こんな深慮遠謀をもつ彼らの行動には、次のような対照的な本質もあった。


(2)安定成長過程に向かう真っただ中では、反対にミクロサイクルが高速回転している


[ミクロでフォーカスしたアプローチを繰り返す]


3週間で試作し3カ月で見切る、という高速PDCAサイクルも特別ではない。そうするなかでマーケットに媚びることなくお客を育て、共存している。その際のポイントは次のようになる。


・好きか嫌いかの視点

   情熱・執着:自分自身、燃えることができるか?

      成りたいのは社長、しかしそもそも好きなことしか出来ない性格を自覚している。


・顧客以上に顧客を知る

      踏み込み・成り替わり・内省:

      自分の欲しいものが原点にあり、アーリーアダプターやアーリーマジョリティーの心をつかむアジャストが巧みである。


・見える化と高速改善フィードバック

      実物をつくる:お客になる人はまだ見ぬものを欲しがることができないから、少しでも一緒に考えてもらうためには実物が必要になる。特に自分が触りたいか?の視点は重要で、モックアップをとにかくたくさん作らせたスティーブ・ジョブスを思い出す。                               

・ニッチな部分でトップを取る

       絞り込み・単純化:そして自分は一番になれるか?

                       理屈抜きでわかる最大の売り文句は「1番!」。これしかない。               


こうして、とことん一人称で考えることが大変重要であり、この長い自問自答の末にビジネスは始まり成長していく。


そして会社が大きくなり、「顧客との距離ができ始めた」とふと気づく瞬間がある。そんな時に、彼らは立ち止まり、自身の役割を振り返り、歴史や哲学的な物への回帰を経て、さらに次元の高い自らの信条を手に入れる。先にあげた(1)のマクロでワイドな振り返りをするのであり、ある意味で彼らの旅はここでいったん次元が変わる。

 

5.志ある者にキャリアパスが増えてきた


彼らが切り開いてきた道は非常に厳しいものであり、ひと昔前には、長い厳しい環境のなかで自立の道を歩んできた強者が社会になじめず、やむなく独立開業していた。それが前述の「やりたいこと」がある人と「やりたくないこと」がわかっている人のセグメントであり、これからも基本的にそうした流れは続いていくと見ている。

 

 

 手放さなかったのは折れない心で見つけた"ビジネスの鍵"

  

「やりたいこと」と「やりたくないこと」、どちらにしても早くに目覚めることが重要だ。たとえば絶対音感、絶対時間や絶対味覚など生物のプログラム上、必要な才能の取捨選択は極めて早い段階(12歳頃まで)に行われてしまう。これらはまさに、スポーツ選手、音楽家や芸術家が早くに手にする宝物ではないだろうか。では、やりたくないことがわかっている起業家についてはどうであろうか? 同じように早い段階で色々なものに好奇心を持ち、これも違う、あれも違うと選別を続けていくなかで、本当に必要な才能を「確保」しておくことは大きな強みになるに違いない。彼らは隠れた特技を持っていることが多い。


しかし、早くに道を選べず、また特殊な才能を手に入れられなかったとしても、絶望することはない。最近は起業への門戸が大きく開いてきたと思うので、そのトレンドについても話しておこう。


まず、ベンチャー企業の成功者が資金供給し、コロニーをつくり、そこに次世代の起業家が生まれてきている。コロニーのボスは、起業家を目指す彼らが抱える心の痛みを理解してくれる。そのうえ、ベンチャーキャピタルとエンジェルのふたつの顔をもっているところが大半で、見どころがあると判断した若者にはテーマと資金の両方の提供もある。これは、以前に比べて凄いことだと思う。この場合、キャピタルにおいては本業とシナジーがあることが多く、エンジェルとしては個人的に興味がある分野に資金が投入されコングロマリット化してきている。


近年は、いったん大手企業や大手コンサルティングファームに入り、そこで厳しい基礎的な訓練を受けたうえで飛び出していくタイプのセグメントが、大きく伸びてきている。大手企業の例としては、リクルート、ソニー、ソフトバンク、楽天など、コンサルティングファームとしては、マッキンゼー、アクセンチュアが目立っている。海外留学や海外赴任を経験した者も多く、チームメンバーもインターナショナルで、マーケットも最初から世界をターゲットにしたケースも見受けられる。特徴は嗜好品的なプロダクツではなく、大きな社会課題に対してロジカルにアプローチし、新しいシステムで解決を目指す取り組みが多いことだ。その場合、規制緩和など法律さえ変えてしまうこともあり、既得権や参入障壁を崩して前進してくるので、当面の優位性は確保される。そして一気に成長を遂げるケースが目立ってきた。


このように厳しい訓練を経て、いわば優秀な「IPS細胞」が満を持して社長として羽ばたいていく場合も多くなっている。このように眺めてくると、起業家を目指す場合のルートは増えてきており、その時期もさまざまだ。ここまでの話はサービス系ITベンチャーに限ってきたが、分野を限らなければ、どれだけチャンスが広がっているか容易に想像してもらえることと思う。


6.最後のまとめとして


3回にわたり、起業し、成功してきた強者たちを語ってきた。定年後起業も増え、女性起業家も増え、さらに副業解禁が進むことを想定すれば、来るべき時に備えて自分への投資を怠ってはいけないことがよく判る。起業に向き不向きはあるとは思うが、昔ほどとんでもない人の特権ではなくなってきたのではないだろうか。また、自分の中に起業家の血が流れているかもしれないと、気付く人もいるだろう。しかし、冒険には準備体操が必要であることをくれぐれも肝に銘じてほしい。


目を転じてオープンイノベーションという新しい時代を切り引いていく集団戦においては、大手企業は起業家の皆さんに選んでもらわなければならない時代になっていることを忘れてはならない。起業家がどの様な想い、努力、孤独に打ち勝ってきたかを知ることの大事さが、この連載でわかってもらえたと思う。知れば心から起業家に敬意を払えるはずだ。そして大手企業の社長も社員も、お互いが同じ目線で語り明かした先に、必ず何かを生み出せると確信する。その場合のキーマンは、大手企業側のフロントに立つ中間管理職だ。起業家と同じ輪に入り、一人称で共に考えてみようと思ってもらえたであろうか。自分事などという矮小なレベルではない、会社を動かす強い信念からあえて「我々」と言わず、社を代表して一人称の「私」で話せるようになること。これは並大抵のことではないことを承知のうえで言っている。「我々」とは、君と他の誰を含めて言っているのか、そんなものはどこにも存在しないのだから。


世代を問わぬ、究極の「複式学級」としてのオープンイノベーション。その未来を語る輪を大きくし、その輪が沢山生まれ、相互に交わり合うようになれば、多くの人がそれぞれ願う役割で、未来づくりに参画していけるようになるはずだ。




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