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2022年05月30日 by 池永 寛明

【交流篇】失われた日本の30年の原因 ― アジアの未来(上)



この写真を撮った日のことを忘れない。そこは図書館ではない、世界最速の都市と言われる中国・深?の書店である。子どもたちが店内のいたるところに座り込み、それぞれが選択した本を読んでいる。さらっと読んでいるのではなく、本のすべてを読みきろうとしているのだ。本を読む彼らの眼の鋭さを今も忘れない。日本でこのようなひたむきな眼を見なくなった。この写真一葉に、日本の立ち位置を思い知らされる。



1.この1年で、さらに大きく変わった

 

昨年の空気はコロナ禍一色だった。アジア各国からのオンライン会議だった。今年はコロナ禍にウクライナ紛争が加わったが、アジア各国の多くの首脳が東京に集結した。たんに会議の形態が変わっただけでない。アジアを取り巻く環境がさらに大きく混迷し、現代および未来像を不透明にしている。


マスクをしないと入れない場所があるのは、自由主義の世界ではどうなのだろうが、自由主義の国においては、本来、賛成表明も反対表明も許される。看板を規制する条例を出しながら、都心部での具体の看板設置は統制していないのが実態である。難民の受け入れで、ある民族は受け入れるが、ある民族は受け入れないということがある。あっちはいいけど、こっちはだめということがあるのが日本。

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昨年はコロナ禍前をリセットしてコロナ禍後社会の構造変革を中心に考えることが必要だったが、今年はそこにウクライナ紛争を契機とした世界の構造変化への戦略を組み込むことが求められ、未来に向けたロードマップの作成を複雑化させている。



2.揺るぎないシンガポールの学び


現在も未来も、社会・時代をつくるのは人である。リー・シェロン首相が語るシンガポールの人を中心とした国家戦略は揺るぎなかった。


門戸を開くことが
未来を拓る私たちの競争力


シンガポールは小国であり、資源がない。だから外から世界中から、優秀な人材を呼び込み、互いに知り合い、理解しあい、無から有を創りだす。それはコロナ禍でも、ウクライナ紛争による構造変化が生じている現在においても、変わらない。世界に人材を派遣して、世界中のアイディアをシンガポールに持ち帰る。そして世界中から人々が行きたいという「場」をシンガポールにつくり、才能ある人材を集め、人と人を「交」らせ、人々が成長する場を「耕」しつづけ、知を創りだす。この学びをシンガポールは進化させつづけている。


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それは現在、シンガポール全土で展開されている「STEM inc」教育に、シンガポールの学びの国家戦略の基盤を見る。「STEM inc」とはなにか。
STEM は S:科学・T:技術・E:工学・M:物理であり、in はイノベーション、c はクリエーション。このSTEMで、アイディアを孵化させる。
未来をつくる子どもを教える教師は常に学び直す。子どもや教師の学びをサポートするのは実社会で活躍する企業人たち。産・官・学が密接につながり、シンガポールの学びをアップデートしつづける。この国をあげての人材戦略が、次から次へとイノベーションを生み、シンガポールの経済発展を持続させつづけている。一方、日本の学びはどうなっているのか。

 

 

3.揺らぐ日本の学び


国のチカラは、人材力と人がつくりだす経済力である。コロナ禍3年目の今年、ウクライナ紛争が発生し、コロナ禍で厳しくなっていた生活・産業・経済をさらに複雑にし、劇的に世界秩序を変えようとしている。ヨーロッパのみならず、日本、アジア、世界のこれまでのカタチをリセットして、これから先のカタチの再定義をおこない、そのカタチに向けて社会システムを再構築していくことが求められている。

 

次の世界のカタチへの再構築には相当な時間がかかるだろう。再構築に向け再定義する「次の世界のカタチ」は、現在、誰にも見えていない。しかし明らかなのは、すでに混沌とした時代に突入しているということ、それくらい大きなことが現在おこっているということ。

 

そのなか、その次の世界の主役のひとつはアジアとなるのは必然である。これから日本はどうしていくのか。日本はどこを見本としていくのだろうか。


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日本は古代より現代まで、外から学びつづけてきた。外から、新たな・異なるモノ・コトを移入し、その本質を読み解き・体得して、それとそれまでの日本性と融合したモノ・コトを考えて、それを磨き、洗練させ、次なる「日本性」をうみだした。それが日本の学びだった。


たとえば中宮寺の「菩薩半跏思惟像」 。唐から伝来した仏像を、日本は100年かけて、世界3微笑といわれる慈悲に満ちた表情をつくりだした。

また興福寺の「阿修羅像」。インドの帝釈天と戦う悪の戦闘神が、仏教に取り入れられ釈迦を守る阿修羅となり、唐・百済から移入された戦う阿修羅像を、百済からの渡来人である仏師が、あの美少年のような像を生みだした。こうして創りだされた興福寺の幼少期・思春期・青年期の3つの顔を持つ阿修羅像は、古代から現代まで1300年以上も人々を魅了しつづけている。日本だけではない、アジア・世界の人々を魅了している。


日本の学びはこのようなプロセスを踏んでいった。


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このプロセスが中間省略し始めている。新たな・異なるモノ・コトを外から移入するが、その本質を読み解かず、文脈・背景がちがう土壌の日本で、そのままつかうようになり、次なる日本性をうみだせなくなっている。過去の日本性とつながらなくなった。


過去の日本性と外からの新たな・異なるモノ・コトを混ざりあわせ融合することをせず、鍛え、練り、磨き、洗練するというプロセスを面倒くさい・手間・時間が勿体ないと考えるようになり、その結果、全体のチカラが弱くなり、日本性を劣化させた。だから次なる日本性がうみだせなくなった。

 

「失われた日本の30年」の最大の原因は、この日本の学び方が弱くなったことではないだろうか。アジア各国の首脳の語りから、日本の学びの変容が浮かんだ。コロナ禍×ウクライナ紛争という混迷の時代のなか、日本はどうなっていくのか。それを明日も考える。

 

 

(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

〔note日経COMEMO 5月30日掲載分〕


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