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2022年03月02日 by 池永 寛明

【場会篇】タワーマンションに住むということ ― みんな一緒のなかのちょっとした満足(中)

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ベンツオーナーがみんな揃って高速道路を走っていたら、まわりの人は「ベンツがいっぱい走っているね」という反応だが、当のベンツに乗っている人はベンツを持っている人たちと一緒に走っていることで、満足である。外からの目はどうでもいい。客観的にどう見られるかよりも、主観的にどう思うかが大事である。周りの人がみんな一緒だと客観的評価はさがるが、主観的評価はどのようにでもあげられる。これが現代日本人の基本的な特性である。

 

 

1.テレワークが定着しない理由

 

だからタワーマンションに住んでいるだけで満足。ベンツに乗っているだけで満足。日本人というだけで満足。

 

大学を卒業しただけで満足。都心のオフィスに通えるだけで満足。キレイなオフィスで働いているだけで満足。そういう人が怒涛のように、大手町・丸の内、淀屋橋・中之島などオフィス街に集まってくる。なんのことはない、普通のサラリーマン。

 

「あの人、丸の内で働いているらしいよ。すごい」と見られているだろうと思って、ちょっと高いスーツを着て高層ビルで働くことで満足だった。普通に考えたらへんてこなダイナミズムであるが、都心のオフィス街ビジネスライフをすることが主観的満足を高め、自己肯定感があった。

 

実はこれが、テレワークが定着しない

理由のひとつではないか。

 

 

2.ブランドネクタイから普段着への転換

 

リモートワークをしていて、ピンポンが鳴って玄関に宅配を受け取りに行く。よれよれのジャージを着て現れるその人の姿を見ても、宅配業者はなにも思わないのに、本人はそうは思わない。気恥しい。コロナ前はぱりっとしたスーツを着てオフィスワークをしていた本人の主観的満足・肯定感は、ホームワークでは高まらない。せっかく買った高級ブランドのバッグが泣いていると感じる。

 

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どんなに高級なネクタイを締めていても、街のなかでは誰も注目してくれないが、自分の会社でそれを締めていたら「そのネクタイ、格好いいね」とだれかから声をかけてもらえて嬉しくなる。

 

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これは社会の栄枯盛衰のダイナミズムを端的にあらわしている。未開の状態から始まり、持てる者・持たない者、貧富の差がでてくる。そこで頑張って上に行こうと、自己投資してレベルアップする。そうして1970年代に日本は「一億総中流意識」社会になった。みんな中流になったと喜んだ。そのなかでちょっとでも上に行こうと大学進学率はどんどん高まり、日本は「総均質化」社会となった。殆んどのことが手に入った。みんな一緒、頑張らなくて大丈夫という時代の気分になった。

 

ある会社がビジネススーツをやめて自由なカジュアルな服装で仕事ができると言い出した。そのとき、“うわあ、いいな!”と思った人と、“ちょっとくだけすぎとちがう?”と思った人がいた。そのころは、スーツを着て仕事をする姿が会社員の均質化のステージだった。

パソコンが普及しはじめると、ペーパーレスとなったフリーアドレスのオフィスのなかでカジュアルな服装で仕事をする姿が均質化のステージとなった。

そしてアメリカから「どこにいて仕事をしていい」というワークスタイルが入ってきた。それがどんどん広がり、そういう姿を採用しないとリクルートに支障が出るのではないかとちょっとずつ始めようと思っていた頃に、コロナ禍でテレワークとなった。一気に「どこで仕事をしていい」となった。そしてファッションはカジュアルどころか、一日中が普段着となりワークとライフが混ざりあうようになった。


 

3.みんなと一緒だとイヤ

 

これは、進化論でいう生存競争というよりは、タケノコが太陽に向かって上へ上へと伸びていくような姿である。竹として高くなるかならないかは重要ではなく、タケノコは少しでも陽のあたる方向に伸びたいと思う。

 

成熟社会とは、そういう姿に
なっていくことだった

  

 昔は、食べることが大事だった。着ることが大事だった。だから頑張った。家電製品が欲しかった。車が欲しかった。家が欲しかった。一所懸命に努力して、ひとつひとつクリアしてきた。
そしていまや、スマホだって、みんな持っている。ガラケーがはやっていた時は、ガラケーの最新型をもっていると、「すごいね」とみんなに注目されたが、今は新型スマホを持っていても「すごいネ」といわれることはない。今はモノではなく、ソフトが話題になる。Facebook、Twitter、Instagram…と、次から次へと新しい価値観ステージに進もうとする。最初はそのステージにいる人は少なくても、すぐにみんな取り組みだしてそこが均質化する、価値観の尺度が普通になる。するとそれに飽きる人があらわれ、だれかが別のステージをつくる。そこができたら、今度はみんなそのステージに向かう。その繰り返し。


 みんながそのステージに入って普及すると、価値観の尺度が普通になる。みんなまったく同じになると、満足感・高揚感が得られない。そこでみんなと一緒だとイヤだという人もあらわれ、またその世界のなかで、ちょっとだけ違うステージをつくろうとする。


ある時、英語で授業をする日本の大学が増えた。ビジネスの国際化の文脈で、英語力を高めるというメリットはあるが、基本は大学生の自己高揚感を刺激するためのもの。その大学に帰属する学生にちょっと優越感を覚えてもらうために導入する。何十年も前からすべての講義・ゼミを英語で進めているという日本の大学があるが、そこの卒業生が社会に出て飛び抜けて優秀で活躍しているだろうか。社会が求めていたのは、それだったのだろうか。

現在話題となっているのは、データサイエスにDX。5年先10年先20年先の社会が求めているのは、それだろうか。

  


4.現代のビジネスの論点

 

ビジネスの現場では「差別化を図れ」といわれる。それは決して間違いではないが、古いマーケティングのコンテンツだけを切りとって戦略だというが、そのコンテンツのコンテクストは大きく変わっている。

私たちが今いる場所は、教科書が書かれた頃のような「ゆったり」とした時代ではない。とてつもなく時代速度は速く、それまでの社会をリセットして、根本的に構造が変わろうとしている。その変化のなかで、大切なのは人。人がどう思うのかである。今、人々が求めるのは

 

客観的評価よりも
主観的評価と高揚感を高めること

 

30年前にIDカードを始めた会社に、周りの人たちは「IDカードを見せて見せてと言った。しばらくしてみんなIDカードを首からブラさてるようになると、だれもなにも言わなくなった。
フレックスタイムをある会社がはじめた。斬新だった。みんな、ヒアリングに行った。「すごいね」とみんないったが、あっという間にそれが普通になった。
在宅ワークを導入した。しかし限定的な運用で、全面展開は時期尚早といって先延ばししていた。そこにコロナ禍が起こった。もともと制度としてあった在宅ワークが一気に解放された。ある日、突然次元が変わった。今度はそれが普通になった。



 

誰もがテレワーク・在宅ワークをするようになると、都心のオフィスに通うことが「いいなあ」という人も一部でてくるかもしれない。しかし大きな流れは「移動距離性」を克服した分散型ワーク。元に戻ることはない。これからその世界のなかで

 

ちょっとした満足を
なにに感じるかがテーマになる

  

ここで、現代とこれからを考えるうえで大事な論点がある。“週休2日がいいなぁ”といったビジネススタイルがフレックスタイムになり、テレワーク・在宅勤務となり、それが普通になる。その普通化する事柄が、今度はDX・メタバースに向かうなど、どんどん高度化しているということ。

 

お店で買うのが普通だったスタイルからオンラインショッピングとなった。現金払いが普通だったスタイルがキャッシュレスとなった。銀行通帳をもっていたスタイルから持たないスタイルになろうとしている。この高度化に対応するためにビジネス・企業はとてつもない変革が求められる。一方生活者はちがう、簡単に新しスタイルに変わる。そして

 

普通化していく世界での

ちょっとした違いを求める。

そこでちょっと満足感を得ること

 

が大切である。みんな豊かになった。生活水準が均質化した。殆んどのものはみんな持っている、経験もしている。だいたいのことは手に入れている。それが普通になった。とすれば、そのなかで

 

自分を高められる、高揚させられる
ものはなにか

 

このなかで、どうするかである。これが現代のビジネスの論点であり、コロナ禍後のビジネスの論点である。これをどうしたらいいのかは次回。

 

5年間書きつづけている日経COMEMOで、現代社会を様々な角度で見つめてきた。この2年、コロナ禍の昨日、明日、未来を考えつづけてきた。


ロナ禍でなにが起こっているのか、コロナ禍の前と後でどうなるのか、私たちの現在地とはどこか、これから私たちはどうするのかを考える「日本再起動塾」をCOMEMOファンからの依頼でたちあげる。ご関心のある方々は、ご参加ください。



(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

〔note日経COMEMO 2月18日掲載分〕


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