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2021年12月15日 by 池永 寛明

【耕育篇】社会から無くなったら、社会のみんなが困る会社・困らない会社

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うまくいかなくなったら組織をいじる。人を替える。しかしよくならない。だとしたらやり方が悪い。今までのやり方ではいけないから、海外のビジネスウェイを持ち込む。やはりうまくいかない。そこで登場するのが文化。企業文化が弱くなったから、うまくいかなくなったと、企業文化のせいにする。


1.企業文化とはなに


その「文化」とはなに。企業文化・組織文化がなによりも大切だという経営者が多いが、人によって、立場によって、文化の捉え方がちがう。ともすれば文化は芸術や美術・芸能のことと狭義に捉えられることが多い。文化はcultureの和訳。語源はcultivateで「耕作する・栽培する」であることから、「繰り返す・次につなげる様式・スタイル」が本質と考えた。とすると、企業文化は「企業を存続していくための方法」とのことではないか。

 

この企業文化が弱くなったということは、「企業を存続していく」という価値観が企業のみんなで共有されなくなったということではないか。企業がずっと存続していくためには、「社会から、その企業がなくなったら困る」と社会のみんなから思われる企業でありつづけなければならない。そう社会の人々から思われる企業の一員として、自分たちは何をしないといけないのかとそれぞれの立場で考えて行動することであるが、その価値観が欠け、世間並み、いや世間以上の給料をもらいたい、職場環境・就業条件がいい所ということが優先されるようになっている。「失われた日本の30年」で日本企業が失ったのは、この企業文化が弱くなったことが一因ではないか。

 

「社会からその企業が無くなったら、困る」

と社会のみんなから思われる企業

 

そのために、ビジョンといったり企業理念といったり、社会価値・企業の存在意義・パーパス経営が必要だと言ったりする。しかし言っているだけ、書いてあるだけの企業が世の中には多い。その文言は決して間違いではないが、人によって、立場によって受けとめ方がちがっている。創業時、起業時に参画したメンバーはその言葉に共感し、企業が社会に認められ大きくなり立派になっていくプロセスと自己実現が一致していたが、企業が大きくなってから入ってきたメンバーはその言葉を理解するが共感を覚えにくい。だから名門企業とか老舗企業で「企業文化の変革が必要」という話がよくでてくる。

 

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2. 生活者の代弁者という目線

 

この「企業文化」がなんたるかを感じたプレゼンだった。

  

「日本の生活スタイルを海外に普及させたい」

 

アイリスグループの大山健太郎社長が「世界経営者会議2021」で語られた。「快適生活をソリューション」を合言葉に、家庭のなかの「収納仕事」に着目し、

 

「しまう」から「さがす」

 

という生活者の不満の解決のため、「透明な収納ボックス」による問題解決という生活スタイルを考えた。その新たな生活スタイルの実現のため、アイリスグループの強みである金型・射出成形技術力で、プラスチックの生活密着商品を安価につくりあげ、日本の生活者の問題解決を図っている。その生活スタイルをコロナ禍のなか世界に広げている。

 

「生活の基本は変わらない。

生活者の不満は世界どこも同じ」

 

世界の各国によってサイズや好みのカラーは違うが、生活者目線で仕事を進めていけばご満足いただける。生活者の代弁者として、生活者の不満に寄り添って、暮らしのなかの問題を解決する生活スタイルを考え、買っていただける値段を自らの強みである射出成形技術で実現した。こうして日本の生活スタイルが世界に広がりつつある。

 


3.「構造変化」をつかむ企業つかめない企業の差

 

ライフスタイルに合った商品をつくれば、売れる

 

高度に多機能する家電の流れに対して、アイリスオーヤマは「シンプルさ」にこだわる。シンプルなほど、本質が見えてくる。それに「なるほど」をプラスすることで、快適な生活づくりにつなげたい。生活者の目線で「使い勝手」を突き詰めることで、様々なアイディアがうまれ、「なるほど家電」を次々と生み出す。布団乾燥機は日本の生活文化を変え、サーキュレーターはコロナ禍の欧米で支持され売れている。

 

名門の大手家電メーカーが苦戦するなか、家電メーカー専業ではないアイリスオーヤマの生活スタイル提案が社会に受け入れられているのは、生活者目線の商品開発だけではなく、その製造方法にも秘訣がある。

 

生活者が受け入れる価格である。家電製品の原価のなかでいちばん高いのは、製品のなかの部品ではなく、製品の外観である「プラスチック」である。この外観のプラスチックを自ら製造できるアイリスオーヤマと、プラスチックを調達しなければいけない家電メーカーとの価格競争力の差は歴然。家電メーカーはアイリスオーヤマの樹脂成形技術は真似できない。

 

「コモディティ化が進んでいるから、差別化しないといけない」

それはそうだけど、すこしちがう。たとえば日本の家電メーカーが苦戦するようになったのは、まさに“時計のものづくり”と同じ文脈。電気製品の原価のなかで最も高いのは、製品の内の機械ではなく外のプラスチックである。

 

かつては中味をつくる会社が「家電屋」だったが、これからは外のデザインがすぐれ外のプラスチックをつくることができる会社が「家電屋」になる可能性が高い。

 

プラスチックをつくる「射出成形」という金型を用いた成形技術力をもったアイリスオーヤマが家電製品を売り出しているのは、この文脈である。家電メーカーは、アイリスオーヤマの金型技術に追いつけない。このモノづくりの構造変化が苦戦の要因のひとつ。

 

もうひとつある。求めるライフスタイルを実現するインテリアとしての製品デザインを重視しつつコストを重視するお客さま群の出現がつかめなかった。だから「コモディティ化したから、売れなくなった」というのは正確ではなく、「お客さまがなにを求め、なにに困っているのか」ということをつかめなかったのである。


(note日経COMEMO 2019.1.31「本当に売れない理由はなにか」)

  


日本の大手家電メーカーが苦戦するようになったのは、まさにこれ。家電製品の内部の機能部品の技術レベルは成熟しており、外部から簡単に調達できるようになった。

だから、製品の外観を支配している会社が内の機能部品を買えば、家電製品が完成する。コスト競争は、外観を支配する企業の方が有利。製品の原価構成のいちばん大きなモノを支配した企業が全体を支配する。

 

このものづくりの構造変化は電気自動車につづく。自動車メーカーは自動車部品メーカーも含めて、自動車は自分たちしかできないだろうと思っていたところに、自分たちの業界以外から電気自動車が出てきた。電気自動車なんて、我々は簡単につくれるが、“そんなもの自動車じゃない” “主流にはならない”と考えていた。だから日本の内で本気で電気自動車をつくるメーカーが殆んど出てこなかった。

 

なぜか。日本に、電気自動車に必要なモーターが減っていたからだった。モーターはかつて日本が強かった分野だったが、現在は中国にその中心が移っている。これは歴史的に日本が凋落していくパターンだが、日本は中国を侮りすぎた。中国の現在を見ようとしなかった。

 

中国のことを語るときに、中国には資源が多いからだとか、中国には人が多いので人件費が安いから、政府が主導するから、他社のコピーをするから、嘘物が多いとか、昔のままだったりねじ曲げて語りあうから、こんなことになる。

中国のモーターメーカーに、現在、どれだけの博士がいるのかを日本人は気づいていない。この30年の間に、IT・DXと同じく、世界に留学した優秀な人材が中国に戻ってきた。日本のモーター技術のレベルを質・量ともに上回っている。

その事実を見ない。そこを見ないで、中国はやれニセモノだ、やれコピーだと、そんなことばかり、過去=先入観で騙(かた)る。自分たちの「過去の絶頂期」を守るために、相手の「過去の姿」を騙る。騙るとは「もっともらしく、巧みにあざむく」こと。日本は世界の自動車業界を牽引してきたのに、なぜ電気自動車で遅れたのか、なぜ電気自動車で中国に抜かれているのかの答えのひとつはこれ。

 

日本人はなかなか「先入観」を変えない。いったん固定化した考え方、見方を変えない。平時のみならず、コロナ禍というグレートリセットの現在、今までの常識にとらわれたり、これからどうなるかを漠と考えるのではなく、今おこっている事柄のなかから本質を読み解き課題を克服しなければ、新しい未来は拓けない。

 


4.先入観を捨てる

 

「EC・ネット通販が、

バイヤーの壁を壊した」

 

とアイリスグループの大山健太郎会長が語られた言葉が印象的だった。「海外は日本以上にビッグストア、ディスカウントストアの壁は厚かった。製品の機能が同じだったら、価格競争に陥ってしまうのは日本と同じ。しかしどれだけ良い商品をつくっても、海外のリアル店舗のバイヤーの壁は日本以上に厚く、乗り越えられなかった。それがECで変わった。アマゾンに認められて、一気に変わった」とつづく。

 

アマゾンにとれば、オンリーワン商品はウェルカム

 

アイリスグループはオンリーワン商品をつくり、アマゾンに認められた。そしてECがバイヤーの壁を崩し、海外進出が進む。その話を聴いた日本の物流企業の経営者はこう呟いた。

 

「ネットで、日本の問屋がなくなるといわれていたが、

それがアメリカで本当に起こっているんだ」

 

アイリスグループの大山会長は、「日本よりも海外の方がバイヤーの壁が厚かったが、ECでそれが崩れた」という。海外よりも日本の方が壁が厚いはず ―― これこそ、先入観。できない、無理と思っていたことが、コロナ禍によって変わった。状況は変わっているのに、先入観のままでいると、絶好の機会を逃す。そう思った。

 

コロナ禍で前倒しとなったECをはじめとするDXによって、もっと劇的に様々な社会・市場が変わり、新たなビジネスモデルが生まれる状況になっていると大山会長のプレゼンテーションを聴きながら、高速で頭が回転しはじめた。



(エネルギー・文化研究所 顧問 池永 寛明)

〔note日経COMEMO 12月8日掲載分〕

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