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2020年04月23日 by 池永 寛明

【起動篇】今日から1ヶ月休みます


…といわれた人が多い。家人の勤める百貨店も、今日から1か月休業となる。1月・2月からイベントが「延期」「中止」となり、1か月前から休校・休園・在宅勤務がはじまり、“家にいる”時間が増えた。年末年始の休み、ゴールデンウィーク、子どものときなら夏休み・冬休みは、計画的な休みに向けた準備をして、宿題なり運動なり旅行なりレジャーなり読書なりして、“与えられた日々”をすごしていたが、今回、突然、「1ヶ月の休み」「2ヶ月の休み」となった人たちが、これまでの在宅勤務者・在宅学生に加えて、“家にいる”こととなった。


1ヶ月って、長い。
多くの施設が閉まることとなったので、どこにも行けない。これから1ヶ月、なにをする?なにをしたらいい?これまでだったら、これだけの期間があったら旅行をしようと考えただろうが、今回はそれができない。スポーツクラブも休み、テレビ・Netflix・hulu・U-NEXTで映画・ドラマに、ネットサーフィンに、SNSに、ゲームに読書に趣味に資格取得…1ヶ月、なにをするの?いっぱい時間があるが、突然だから、なにをしたらいいのか、わからない。


「場」が変わる。
朝、家を出て会社や学校に行って家に戻ってくるスタイルから、一日中家族と“家にいる”ライフスタイルとなった。物品の購入金額は、コロナ前にすでに「ネット通販>リアル店舗」となっていたが、この2ヶ月で、さらにネット通販が増えた。人の動きが停滞するなか、高速道路を走るトラックが増え、物流がものすごい勢いで動いている。今日からターミナルデパートを核とした商業施設が閉まり、都心から人が減ったのに対して地元の商店街に人が集まる。“集中の経済の不健全性”が浮き彫りとなり、世の中は、ものすごい勢いで、「分散」に向かう。


元には戻らない。
1ヶ月が経ち2ヶ月が経ち3ヶ月が経つと、“そうせざるを得ない”という社会的価値観(①)になったり、“それがいいことだ”と思ったり納得したりしたら、新たなことを導入すること変えることに、初めのうちは抵抗があったとしても、それに慣れていき、それが当たり前の「②行動様式」・「③新たな仕組み(情報発信など)」になって、元には戻らなくなる。



当初はテレワークがしっくりいかなくても、慣れる。Web会議が定例となって普通となれば、慣れる。そうなると、“そもそも会社ってなんだろうか?”と考えるようになる。みんなが毎日のように会社に出てきて終日集まって一緒にいるというスタイルは、どうなのかということになり、じゃ会社のあるビル・建物はこんなに大きくなくてもいいのではないかということになる。コロナ後に、会社という形態・枠組みが大きく変わる。やはり「分散」に向かう。


AIで仕事・職場がなくなる。
と 昨年来、話題になっていたが、「将来そうなるかもしれないけれど、今のうちは大丈夫、もうちょっと大丈夫」と中高年はおもおうとしていた。この30年も、IoT、デジタルシフトがどんどん進んでいたが、「それはベンチャー企業の話、若い者の話だ」と、自分には関係がないと思いこみ、それに取り組んでこなかった。
人間は「慣性」の動物。“今日までのことは明日も通用する”と思いこみ、自分の地位にこだわる。しかし明治維新(明治4年公布)の「散髪脱刀令」で、あっさりと、まげを切り刀を差すのをやめたように、今回のコロナ感染拡大防止対策として「強制的」に導入したテレワークが、コロナ後に、なくなるとは考えられない。


しかしながら、そのテレワーク。管理者は、今、“大変”。
毎日の始業報告から、案件の「報・連・相」、1日の業務報告、就業報告まで、メンバー1人1人と管理者がメールなどでやりとりする。下図のように、それまで「1対多」 が管理体制の基本だったが、「1対1」が管理体制の基本となっている。


これまで左図のように、管理者とメンバーのフォーマルな関係に加え、職場のなかでメンバーどうしが面対したり空間を共有することで、縦・横・斜めのインフォーマルな「線」が「面」となり、“阿吽(あうん)の呼吸”のチームプレイがうまれ、職場の空気や企業風土や企業文化をつくってきた。しかしテレワークはシンプルで効率的だが、今のところ横・斜めの「線」がつながらずシナジーが生まれない。


弱いつながりの強みがある。

「つながりが緊密な人より、弱いつながりでつながっている人の方が、有益で新規性の高い情報をもたらしてくれる可能性が高い」
(The Strength of weak ties (Granovetter, 1973))

毎日会っている人よりも、時々会ったり話をしたりした人に、刺激を受けたり、アイデアが湧くということがある。

 

しかしながらテレワークでは、気配り・柔らかさ・きめ細やかさといった「ニュアンス」が消える。休憩コーナーでの雑談や仕事の合い間の情報交換のような横・斜めの線や職場の人と人との交流によって、仕事がブラッシュアップされたり、人材育成してきた「現場力」が弱まる。これからのテレワークにおいて、デジタル・ネットワークの情報環境基盤に、職場・人と人との関係の「リアル」をいかに組み込んで深めていくことが求められる。


リアルだけでもだめ、バーチャルだけでもだめ。
リアルとバーチャルのバランスが大切。
デジタル・バーチャル・ネットワークが進めば進むほど、逆説ではあるが、「リアル」が求められる。
バーチャルへのアクセスはどんどん容易になっていくが、逆にリアルへのアクセスがしにくくなる。この2ヶ月、とりわけその傾向が強まる。デジタル・ネットワークの時代だからこそ、リアル・現物・現実が求められる。本物が残り、偽物が淘汰される。必要なものが残り、不要なものがなくなる。


コロナでインバウンドがなくなり、お客さまは来なくなった。
“緊急事態宣言で、1ヶ月も2ヶ月も店を閉めたらどうなるんだろう、これからどうなるんだろう”とよく訊かれるが、必要なモノ・コト・サービスは残り、不要なモノ・コト・サービスはなくなる。
これまでお客さまの集まるところに出店してきたが、これからはお客さまに近いところに出店していく時代になる。これまでマーケット・お客さまに接近しようとしてきたが、これからお客さまを実物・現物にどうアクセスしてもらえるかを考えなければいけない時代となる。
デジタル・ネットワークで、その店でしか体験・味わえない「リアル」を発信し、そこに行きたいそれを買いたいそこで食事したいという気持ちにお客さまになっていただき、再開後にご来店いただけるようにすることではないか。この1ヶ月の休店中に、いかに自店の「強み」を磨き、「強み」がなければ勉強して生みだして、発信することではないだろうか。

 


そのためには、リアルとバーチャルをつなぐ「編集」が必要となる。
どこにでもあるような月並みなコンテンツをいくら金をかけて発信しても、だれも受けとっていただけない。この1ヶ月、各店・各社は積極的に情報発信しようとするから、情報は必ず氾濫する。そのなかから、お客さまは選択いただく店・会社となるためには、どうしたらいいのか。“自店・自社はいかに社会に貢献できるのか”、“その店・会社がなくなったら困る”という「強み・魅力」を発掘して、お客さまに伝えきれるかが問われる。


本を読んで、「教養」をつけようという声がよくでているが、上図の「知的基盤」が「教養」である。
教養を身につけるといっても、漫然と本を読んだらいいのではない。自らを内省し他に学ぶという「内と外の学び」と、過去から現在・未来の時の流れという「過去と現在の学び」によって、自分・自店・企業の「知的基盤」を厚くすることである。
そのために、“自分・自店・自社ならばどう考えるのか”という当事者意識で、本を読み新聞・雑誌を読みSNSを読み、融合して、自分・自店・自社の知的基盤に格納することが、コロナ後の新たな社会を生きるための準備となる。そう考えたら、1ヶ月は決して長くない。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞COMEMO 4月8日掲載分〕