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2019年11月18日 by 池永 寛明

【耕育篇】蓄積という概念が変わる。〜日本のこれからの産業のカタチを考える(6)



“ファッション業界は今、来年の夏の洋服で、てんやわんやだ”と聴くと、「恰好いい!そんな先のことをやっているんだ、すごいなあ。」と憧れたりするが、“リニアモーターカーは2027年開業をめざして、今、トンネルを掘っている”と聴くと、「え!? 2027年と言ったら、9年も先。そんなに長かったら、私、35歳になってしまう」と。ロングタームは若い人に人気ない。


たとえば土木や建設は、多くの人を組織化してプロジェクトを編成し、プロジェクトメンバーそれぞれが役割を分担して、積み重ね、大きなモノをつくりあげるものである。あれよあれよという具合に、簡単にはつくりあげられない。仁徳天皇陵も大坂城も河川も堀も堤も、パソコンもスマホも建機もドローンもなかった時代、何年も何十年も、人海戦術で、役割分担し、24時間フル稼働したからこそ、つくりだせた。一人一人の貢献は見えにくいが、一人一人は大きな成果物の担い手の一員としての達成感はある。


同じく自動車の開発も機械の開発も、完成するまで時間がかかる。
試行錯誤の繰り返しそのもの。それも1ヶ月2ヶ月レベルの試行錯誤ではなく、3年も5年も10年も試行錯誤して改善・改良しても、ベストのモノができるとは限らないが、時間をかけて試行錯誤しなければ完成しない。しかしそれが時間がかかること、時間をかけることが「雰囲気」になりつつある。仕事のプロセスは目に見えるものではないから、成果をリアルに見せたり、説明しにくい。本来ロングタームのものを1年ごと、半期ごと、四半期ごとと短期に成果を求められるようになった。短期ごとのフォローに馴染むものと馴染まないものがある。ところが、馴染まないものは人気がなくなった。ロングタームは人気がなくなった。しかし車1台をつくるとしても2万点といわれる部品を気が遠くなるくらい時間をかけて、何度も何度も試行錯誤をして練りあげ磨きあげ、2万点をすり合わせ・組合わせるからこそ、自動車ができあがる。このプロセスを通じて全体を見る力、鳥瞰する力が磨かれたが、試行錯誤のプロセスを手を省くので、これらの力が弱くなる。




分からないことがあったら、スマホで手軽に検索する。
スマホがこの10年、社会を、仕事のスタイルを大きく変えた。人々の生活、人と人の関係、教育、仕事の進め方を劇的に変えた。分からないことがあったら、スマホで検索する。簡単に情報が手に入ると、分かったような、できるような気がする。確認もせずに、そのまま受け入れ、それが正しいのか正しくないのかも関心がなくなる。フェイク情報がそこに紛れているかもしれないと注意すらしなくなり、受け入れ、失敗するが、なぜ失敗したのかも判らなくなる。


「プロセス」が見えなくなる。見えるのは、インプットとアウトプットだけになり、アウトプットを導いたプロセスが「ブラックボックス」化する。スマホだけではない。様々なことが楽に、便利に、快適になっていくが、暮らし・社会・ビジネス・仕事の中身がブラックボックス化して、プロセスが見えなくなる。




そしてブラックボックスとなっていることすら、意識から消える。入口と出口しかなく、ステップを抜かしたり、中間省略したり、ステップを踏んでいることが分からなくなり、まんなかのプロセスが消え、そもそもの本質が判らなくなり、物事が変容・変質していく。ついには入口を忘れ、出口だけになる。このようにして、人として、企業としての力がおちる。


Iotに加えAI化の進展によって、積み重ねていく、深めていく、蓄積していくという概念が薄れていく。“会社に入って退職するまで、タイヤ一筋だった。10年も20年もずっとタイヤの仕事をしてきた” という人に対して、“そんな長い間、同じことばかりして面白かったの?”と感じる人が増えてきた。“そんな会社の歯車になって、モチベーションは維持できたの?ずっと同じ仕事だと飽きなかったの?”とも言ったりする。
一つ一つ時間をかけて積み重ねていくこと、何度も何度も試して失敗して、失敗に学び、また試していく仕事の進め方を、非生産的だ、非効率だ、無駄だと切り捨てる風潮がある。中島みゆきの「地上の星」に涙する、地道にコツコツと仕事をしてきた人たちに対して、“もっと要領よくできたんじゃないの?”とも言ったりする。そしてすぐに成果を求め、自己PRをしたがる。“あれは私がつくったんだ。” “これはボクがしたんだ”とすぐに言いたがる。先人の活動を承継することなく、個人の蓄積を軽視し短期で勝負しようとして、自分の成果を主張しようとするようになった。だから全体としてスケールが小さく、小物になってしまう。

昔がよくて今がよくないといっているのではない。時間と場所の概念が大きく変わったということと、それについていけていない人が多いということ。たとえば町なかにドラッグストアがいっぱいでき、昔からあった町なかの薬屋さんがつぶれる。長年お世話になった薬屋がつぶれたら、“先生”が可哀相だと思うが、夜に薬を買いに行こうとしても町なかの薬屋さんは19時や20時には閉まっている。だからドラッグストアに行く。ドラッグストアには薬以外のモノもある。ナニコレ?というものもある。スマホも使えて便利である。町なかの薬屋さんとドラッグストアの違いは、構造的な時代の流れをおさえているか否かである。“時間”と“場所”の概念が劇的に変っているのに、今までのやり方を<見限らない・見切れない>と、新たなビジネスモデルに勝てるわけがない。


“Uber Eatsって配達時のトラブルが多く、もうひとつだよな”といったりする人がいるが、そのサービスを支持している人も多い。これまでの常識で「意味わからん、訳わからん、もうひとつだ」という人は多いが、人々から選ばれるのは「便利なもの」、自分にとって「役に立つもの」である。それが時代を流れるドライバー。そのことをおさえないと、市場から消えていく。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 10月23日掲載分〕

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