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2019年07月05日 by 池永 寛明

【起動篇】 日本を支配している「疲労感」の正体



海外からいっぱいの人が大阪に来られる。G20 大阪サミットにあたって、世界からの要人、G20サミット 関係者の警戒のため、大阪市内の街中に、全国からの警察の方々、車が並ぶ。明日木曜日から4日間、高速道路・一般道で通行止め規制がおこなわれ道路渋滞となったり、ロッカーやゴミ箱が使えなくなったり、ネット環境に影響がでる可能性を勘案して、学校や店や会社も休むところもあったり、平常どおりの仕事ができないといった「空気」が、この23週間大阪に漂っている。


さて「海外から観光に来られる人が増えている」と街中で実感しだしたのが3年くらい前から。それ以降、海外観光客がさらに増えつづけているが、マクロ的にはインバウンドの分散化が進んでいる。かつて日本人の海外旅行がブームになったころ、海外で日本人が最も見たくないのは「日本人」だった。たとえば日本人がハワイに行って目を逸らしたのは日本人。せっかくハワイに行っているのに、同じ日本人が群がって日本語を喋ってブランド品を買い漁っていたり、一眼レフで写真を撮りまくっていたり、旗をもった添乗員に連れられ団体で一律行動する姿が嫌になっていった。夢の世界で自分の「実相」に出会ったら、だめなのだ。だから日本人が行くところを日本人は避けようとするようになった。


海外に観光しにいくのは「夢」を見るため。だから夢の世界で「現実」は見たくなかった。中国人も日本人と同じ道を歩んでいく。数年前までは「爆買」といった消費シーンで中国人観光客の姿を紹介されていたが、団体旅行から個人旅行への移行、モノ消費から体験型、コト消費への移行というように、日本人がかつてたどってきた海外旅行スタイルと同じように、中国人の海外旅行観、海外旅行スタイルが変わっていく。中国人も、中国人が行っているところを避けようとするようになった。日本観光もそう。中国人が観光する先は大阪、京都、東京だけでなく、各地に分散しはじめている。


中国人も海外に来てまで中国人がいっぱいいることにうんざりして、中国人がいないところに行きたがる。日本に来て観たいのは日本の姿なのに、中国人しかいないような場所には行きたくない。だからネットで調べて、あまり中国人がいない「素敵」なところ、「穴場」を探して行こうとする。それは中国人だけでなく、かつて日本人がたどってきた旅行観であり、旅行スタイルであった。


日本人の旅行はどうか。たとえば温泉地に行ってほっこりすごしたいが、目的地に行くのに渋滞し、現地に着いても帰りの時間が気になるので温泉にいる時間は短く、あっという間に帰路につく。しかし帰りも渋滞して、家に帰って、「あぁ、しんど。疲れた」となる。仕事もそう ─ 通勤、通学に時間をかけ、時間におわれて仕事をこなして、時間になったら早く帰れと言われ、また渋滞のなか家に帰る。「あぁ、しんど。疲れた」と家で、たんとなる。


なにに疲れているのか。体が疲れているだけではない。なにに疲れているのかというと、「実ではない」こと「実でない」ものを要求され、それに「なりきろう」とするから疲れる。判りやすくいうと、お嫁さんが旦那の実家に行ったときの疲れ方がそれ。普段どおり、いつものどおりの自分、「実のままの自分」「素のままの自分」でいけるならば、疲れはしない。しかし「実ではない」ことを求められ、「実でない」ことをするから疲れるのだ。


今、日本社会を支配している疲労感、疲弊感は、まさにそれ。日本の社会を流れる時代速度は急スピードとなり、「実でない」ことをせよと求められ、常時「実でない」ことをせざるをえなくなった。だから、「あぁ、しんど。疲れた」となる。その疲労感、疲弊感が日本をどんよりとつつみこんでいる。


6月末。ちょうど1年のまんなか。夏越しの茅の輪くぐりという行事がある。この半年間の暮らし、仕事のなかで、知らず知らずに犯した罪や穢れを祓い、心身を清め、あらたに生活を営めるよう、暑い夏を健康に乗り超えられるよう、願いをこめて、茅の輪をくぐる。ヨシでつくられた茅の輪を左回り、右回り、左回りとくぐって、夏を越えられるよう祈る。このようにして、ゆったりと時を区切ってきた。昔の人って、「実」をよく考えていた。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  626日掲載分

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