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2019年05月15日 by 池永 寛明

【交流篇】 「書き言葉 > 話し言葉」の時代


駅で待ち合わせ。約束の時間がすぎても、待ち人来たらず。どうしたんだろうと思っても、連絡手段・方法がない。だからずっと待っていた。のんびりと待つ人、いらいらしながら待つ人、心配しながら待つ人。みんな我慢強かったというよりも、待つしかなかった。


鉄道駅の改札口近くに「伝言板」があったが、この20年で駅から消えた。携帯電話もスマホがなかったころ、駅での待ち合わせは、「伝言板」がなによりの連絡手段だった。1時間待ち、2時間待ち、待ち人来たらず。そして伝言板にメッセージを残す ─ “〇〇時△△分 待っていたけど帰ります □□”。その頃は、それが当たり前で、現在の姿は思いもつかなかったし、今から振りかえって、あの頃どうしていたのか思い出せない。


オフィスにパソコンが一人一台置かれ、オフィスからいろいろなものが減り、消えた。電話やFAXでのやりとりが減り、打合せが減った。メールがホウレンソウ(報告・連絡・相談)の主役となり、オフィスから紙や消しゴムや修正液などの文房具がぐんと減った。オフィスの内線電話がデスクから消え、オフィスのなかの音量が下がり、静かになった。20年、30年で、こんな姿になるとは思いもつかなかった。そして今から振りかえって、どのような仕事の進め方をしていたのか思い出せない。


パソコン・スマホに、ビジネスメールが矢のように飛びこんでくる。

ビジネスメールは情報を正しく伝えるためのものだが、書き言葉で、「手紙」のようにルール・作法がある。少しばかりの文章力が必要だからメール文を書く、打つのに時間がかかってとても窮屈。会社によって、組織によって、個人によって、それぞれメールのフォーマットが異なる。カチカチのメールもあるし、さくさく書かれたリズミカルなメールも、やわやわのメールもある。そこに、それぞれ独特の「メール文化」がつくられる。


ビジネスメールはオフィスでの仕事の方法論を大きく変えた。

メールは大量の人に情報をスピーディに伝えるという「イノベーション」をおこした。「宛先(TO)」「CC」「BCC」を駆使するようになって、対話、打合せ、ミーティングといったオフィスのなかでの仕事を減らし、無くすという方法論を手に入れた。たとえば縦軸だった仕事の進め方が横軸になるぐらいの変化があったのに、会社の仕組みはそのままだったから、「適合不全」をおこしている。メールを上手に使う企業の生産性をとてつもなく高めたが、失ったものがある。


「書き言葉」は広がったが、「話し言葉」が減った。

黙々とパソコン、スマホをながめ、硬い、無機質な「情報を伝える」ためのビジネスメールがオフィスを飛び交う。パソコンのキーボードをたたく音だけが響く。オフィスはどんどん静かになる。人と人との対話がなくなり、個人のワークが増え、チームでのワークが減る。雑談やちょっとした打合せの「人々の声」などの健全なノイズが鬱陶しがられるようになる。


「バランス」を欠いている。

プライベートの個人どうしのやりとりは、チャットやLINEなどを使う。ビジネスメールのような定められた作法はなく、堅苦しさもなく、文章力が問われることもなく、自由自在にさくさくと書いて送る。チャットやLINEでやりとりするほうが、本音も含め本当のことを伝えられる。しかしチャットやLINEを仕事に使う企業・組織は少なく、オフィスのなかでの書き言葉と話し言葉のバランスを欠く。


メールだけでは、仕事の「間」「遊び」「余白」が埋められない。

かつては「書き言葉 < 話し言葉」であったが、この20年でメールによって「書き言葉 > 話し言葉」に逆転した。このメール主役の企業文化の変化に、おいつけない中高年社員も、さらにその企業のお客さまが増えた。


オフィスのなかの書き言葉と話し言葉のバランスを欠いている。オフィスの仕組みのなかに「話し言葉」を意図的に増やさないと、組織の力は落ちていく。なにごともバランス、塩梅の妙が必要だが、どうも日本はひとつに寄りかかりすぎる。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  418日掲載分

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