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2018年08月23日 by 池永 寛明

【場会篇】 「混じると交じる」 ─ なぜ大阪が都市ランキング第3位となったのか?

  


記事を見て、「時」がとまった。大阪が英誌エコノミストの「2018年世界で最も住みやすい都市ランキング」で3位となった。オーストリアのウィーンが初の1位。これまで7年連続首位だったオーストラリアのメルボルンが2位。大阪はそれにつづく3位。様々な国際調査研究機関が各々の指標・評価軸で都市を調査・分析し発表するが、日本人にとってこのランキングは「意外」なのか、「当然」なのか?近年、世界のインバウンドでの都市人気ランキングに大阪が入り出し「世界標準」になっているのではないか。気がついていないのは自分自身かもしれない。


先日対談させていただいた推理作家の有栖川有栖さんは、大阪をこうとらえておられる。

「大阪は古代の大和政権と歴史をともにする悠久の地で、国生み神話があり、都もあり、仁徳天皇も聖徳太子も、顕如も秀吉も、近松も西鶴も芭蕉も、織田作も司馬遼も、日本の歴史が全部出てくる土地は大阪ぐらい。大阪は古い歴史を持つにもかかわらず古都と呼ばれることなく、今もにぎやかでエネルギッシュな現役でありつづける」─ 大阪は古代から現代、そして未来につながる土地の記憶がまじりあっている地である。


日本料理に「出会いもの」という言葉がある。旬の食材どおしを“まぜて”、それぞれの良さを引き立てあう。元の食材が見えなくなる「混じる」と、まぜても元が見える「交じる」を組み合わせる季節ごとの食材の「出会いもの」が日本料理の本質。この「混」とは、「シ」(水)と「昆」(丸くまとまる)があわさってできた漢字である。「流れる」水が「つながり」、「丸くまとまる」という「混」が都市をつくりだす重要な視点ではないだろうか。


この20年、人と人をつなぐ「IT」と、国境を越えた経済活動「グローバリズム」と、中国、インド、イスラム諸国をはじめとする「アジア」という3つの潮流が、社会を大きく変えている。物理的距離に制約されず物や情報がやりとりされる時代になったから、地域に縛られることなく、どこにいても情報が手に入るから出かけなくてもいい、家賃の高いオフィスをつくらなくても家や近所のカフェで仕事ができる ─ これまでの「都市」の役割、機能が変わると考えられたが、実際は「歴史的都市」がアドバンテージを強めている。今回の「エコノミスト」での住みよい都市ランキングの大半は、古い歴史的都市である。ITを駆使した「スマートシティ」といわれる都市はランキングに入っていない。ではどのような都市が住みよい都市といえるのだろうかと、大阪市立大学大学院 倉方俊輔先生と議論した。


そもそも都市とは、超高層ビル・施設やマンションといった建物で構成され、固定され、動かないようにみえるが、そうではない。都市とは、常に流動し、それぞれが混じりあい、つながっている。


混じりあう ─ 都市では様々な世代の人が混じりあう。赤ちゃんも、学生も、働く人も、シニアも、多様な世代、様々な人々が朝、昼、晩において、それぞれの目的で、それぞれの活動をしている。都市に住む人と、働く人と、都市を訪れる人とが、まじりあっている。都市は学生だけでも、住宅だけでも、工場だけでもいけない。住まい、商業、工場、学び、ライフサービス、スポーツ、芸術などといった機能が同時に存在し、つながりあい、都市のなかに適切な場所に、かつ絶妙なバランスに配置され、混じりあっていなければならない。


都市には「におい」がある。過去と現在と未来が混じりあうことで、その都市ならではの「におい」がうみだされ、育てられる。すぐに変わるモノ・コトと、ずっとつづくモノ・コトが都市にある。新たにオープンするレストラン、パン屋、雑貨店などがあり、その都市の店を訪ねるたびに新たな発見をする。また時代を一歩進んだショッピングセンターやチェーン店に刺激やインスピレーションをうけたりする。その一方、老舗の料理店、菓子店、道具屋に、その都市ならではの言葉遣い、行事、祭り、雰囲気、姿勢に接し、昔と変わらない同じものを見つけることができ、安堵・安心したりする。寺社や城、江戸時代の町家、近代洋館・ビルといった古い建物が現代の仕事、サービスに活用されている横に、先鋭的で世界最先端な建物があったりする。このように都市は過去から現代、未来につづく長い時間軸という時がまじりあうことで、活力を生みだしていく。


古い建物と新しい建物が隣りに並び、それぞれに都市の人々が接することで、かつてその都市にあり承継されているライフスタイルやビジネススタイル、習慣、風習、価値観に触れることで、都市の人々にとってのあるべきことを想像し新たなことを創造する活動につながりうる。これが歴史をかさねた都市が最新かつよりよいものを生みつづけている成功の鍵といえる。


都市は人がつくったものである。都市には、海や山や川といった自然に、人がつくった建物や家、公園、道路や駅・線路といった人工物がある。人がつくったものと自然とがまじりあいながら、都市は成長していく。ビルや住宅や公園や並木道も時を経るにつれ、都市のなかの「自然」になじむ。また都市のなかの「自然」も人の手が入ることで、心地よさ、清々しさなどといった都市の快適さを高めていく。人工物と自然のバランスのとれたまじりあいが求められる。


最後に、都市に住む人、働く人にとって、自分が都市のなかのどこにいるのかがわからなければならない。自分が今、どこにいるのかがつかめないといった都市は、都市としての規模、範囲を超えている。都市全体を感じられるためには、都市の細部と都市全体とがつなぎ混じりあわなければならない。


「住みよい都市ランキング表」を見ながら、都市のなかの「混じりあう」ことの大切さを感じた。大阪は混じりあっている都市といえるかもしれない。世界基準で、そう見えるのかもしれない


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  817日掲載分

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