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2018年07月23日 by 池永 寛明

【耕育篇】 一生チャレンジする人、「分」を弁えない人

  


「人生を終えるときに、最も後悔していることはなにか?」とのアメリカの 80歳以上のシニアへの問いに、7割の人が同じ答えをした。それは「チャレンジしなかった」ことだったという。1年半前のアメリカでの調査結果。


「おじいちゃん、頑張れ」と小さな女の子が声援を送る。先週松山市で日本マスターズ柔道国際大会が開催された。30歳以上5歳ごと、体重別の個人戦と団体戦があった。30歳の柔道家にまじり、60歳代、70歳代、80歳代の柔道家が出場していた。チャレンジしつづける人たちがいた。


「無事是名馬」というが、70歳代、80歳代で柔道の試合に出場するのはすごい。柔道は肉体的鍛錬が求められるハードなスポーツである。とはいうものの、10歳代や20歳代の柔道スタイルのまま30歳代、40歳代の柔道スタイルはできない。50歳代は50歳代なりの柔道スタイルに変える。60歳代、70歳代のスタイルに変えずに、若い頃と同じような柔道スタイルのままだったら、身体は悲鳴をあげる。柔道という「本質」は変わらないが、年齢に応じた柔道スタイルに再定義し、日々稽古・精進することで、好きな柔道を生涯しつづけることができる。85歳代の部にチャレンジする高齢者たちの柔道に、自分はどうなのだと問われる。


「あなたは、なにができますか?」と定年後の再就職の面接で問われて、「課長ができます」と答えたというジョークがあるが、ある面、真実を語っている。日本の定年退職者には、「インテリ」大卒サラリーマンが多い。この「インテリだった」という自分がつくりあげた「プライド」が定年後に邪魔する。現代、人手不足でサービス分野などの雇用が多くあるが、「インテリ」高齢者はそんな“仕事”はできない、したくないという。仮に今後、60歳定年を65歳に、70歳定年にしたとしても、この「インテリ」「プライド」問題がついてまわる。これが高齢社会の問題の本質のひとつである。


高齢社会の議論に接するとき、「分」という語が頭に浮かぶ。たとえば「自分」。この「分」という語はとても奥深い。広辞苑と平凡社世界大百科事典で調べてみた。「分」とは、そもそも「区分」されていることを意味する語であるが、与えられた役割、地位、能力、なすべき勤めを意味する。つまり「自分」とは、自分自身の能力、役割。「本分」とは、その人に本来そなわっていること。「過分」とは、自らに与えられた役割をこえているということ。「存分」とは、自分の役割を知ること。「分限」「分際」とは、自らの役割はここでおわり、ここまでというところ。「分」の区別のない人は、「分別」がない人。この「分」という語の本来的意味が忘れられるとともに、日本社会に「分別」がない人が増えた。自由の名のもとで、分を、つまり与えられた役割を放置、放棄しつつある。「分」を弁(わきま)えない人が増えている。


定年退職して、引退しても、「いばって」いる人が多い。定年退職するということは、ゼロクリアすること。いったんゼロにしたうえで、新たな自分の「分限」を得て、それを自分の「本分」にして「存分」に発揮することが本来である。現実は「分限」がわからない人が多くなった。このようにして日本は「無分別」時代となった。自らの「分」を認識せず、「分」を弁えない。しかし、それは高齢者だけではない。自ら稼いでいない高校生や大学生までが「ブランド品」を欧米に行って買い漁る。「分」を弁えない、まさに「分不相応」である。イタリアの若い子の多くはブランド品を持っていないし、そもそもブランド品をもちたいと思わない。大人になって自分で稼いで、買えるようになったら買うと思っている。


「分」という意味をじっくりと考えていただきたい。日本人が失いかけていることのひとつである。あなたは、自らの分を再定義して、なににチャレンジしますか


(エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  531日掲載分

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