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2018年04月13日 by 池永 寛明

【場会篇】 それでも、あなたは東京にいくの?

   

 

「まちにとって学生が必要です。オフィスワーカーは昼間に動いてくれるが、夜にいなくなる。住民は朝に家を出て仕事がおわると、夜に帰ってくる。大学生や専門学生には学校以外の行き場所があって、一日中まちを歩きまわり、まちを活性化してくれる」─ オーストラリアのメルボルン市役所の方から、「まちにおける多様な人々の必要性」を聴いた。


メルボルンで、こういう話も聴いた。いろいろな人と会って、対話することがクリエイティブ性や生産性を高める。クリエイティブの仕事をする人やアーティストや学生がまちに集まり、ブラウン運動のように、あっちにいったり、こっちにいったりする。まちのカフェや路地のテーブルに集まって、コーヒーを飲みながら相談しあったり、雑談をする。隣りの会話が何気なしに耳に入ってきて、異なった情報だけど参考になったりする。まちのなかでの人と人の密度と距離感とノイズが、新たなアイデアをうむ。そのような人と人が行き来し交流しあって、自然に対話できるまちに人が集まる。


「人口を増やすこと、人口が減ることをとめることがまちの存在理由ではない。最終的に残るまちは、そのまち独自の文化をもったまちではないでしょうか」─ 巨大津波に呑みこまれる前の名取市閖上地区の震災直前の2010年の「商店マップ」を前に、名取市役所の幹部からお聴きした。その閖上商店マップには数十店の地元店舗が集積し、閖上地区の人たちにとって、閖上のものの大半が揃う場所を示していた。


商店街を歩くと、お店ごとに会話をして、様々な情報支援がおこなわれる。まちのなかでおこったことが右から左から、上から下から、横からと縦横無尽に情報は行き来していた。情報の交流は毎日のように続き、それが積み重なって「地域の文化」が形成されていった。閖上地区の復興にあたって、震災前にあったこのまちの文化をいかにまちに埋めこみ、再起動できないかと。


閖上地区の商店マップをみたとき、大阪駅から徒歩15分くらいの住宅街にある中崎町というまちの姿を思い出した。全国中に空き家、空き地、シャッター商店街が増えるなか、10年で元気になったまちである。大都市にある“昭和”の下町をカメラ女子がまちの風景を撮っている。アーティストがベンチに座っている。お洒落な帽子をかぶった初老の男女が歩いている。幼ない子どもを連れた若いお母さんたちが井戸端会議をしている。


メイン道路から入った狭い露地に、じゃれた雑貨屋さんやギャラリー、個性的なレストランやカフェが現れる。住み家とお店が混じりあう。お年寄りと若い人とが混じりあう。新と旧とが絶妙な形で混じりあっている。一人のアーティストがこのまちの本質・意味を見出し、築130年の長屋を改修しカフェをつくり、地域のイベントに参加し、地域に溶け込み、地域の人々を巻き込み、地域の人と人とをつなぎ、ちいさな変化をおこした。無数の若者たちが「おもしろい」と感じて、その流れに参画し、“昭和”の長屋通りと露地の空気を変え、勢いを与えて10年でまちは大きくかわった。


「バールは都市・地域の顔です。店主やスタッフの個性でバールが左右され、地域の人がそれぞれのバールを育てる」と、イタリアのシエナのバールで聴いた。バールには仲のいい人が集まる。居心地のいいところ。朝起きて美味しいカフェオレをのんびりと飲む、コーヒーを飲みながら会社のミーティングをする、夕方友だちとワインを飲んでサッカーの話をする、たまり場であり、コミュニティの場である。シエナのまちのあちこちにバールがあって、シエナの人たちが集まり語りあう。バールがまちをつくる。


イタリアは「政治都市」ローマと「商業経済都市」ミラノだけに人口集中していない。たしかに両都市の人口は多いが、フィレンツェ、シエナ、パルマ、ヴェネツィアなど、それぞれ個性的な都市がある。イタリア南部からミラノへの人口シフトが一部あるが、日本のような大規模な都市間移動はない。それぞれの都市には、古くからの魅力的な大学が現代にもつづき、それぞれの地形・歴史の特徴、強みを活かした産業や企業があり、地域のなかで地域の経済がまわる。歴史軸と風土をベースに食・芸術文化を守り、質の高い生活を楽しむ。都市と都市との交通・物流ネットワークが整備され、都市と都市はつながる。「この都市が好きなので、ずっとここに住みたい人が殆どです」、といったパルマのハム店の店主の笑顔が忘れられない。


都市・地域の本来もっている本質・強みを掘りおこし、都市と都市、地域と地域をつなぎあわせ再構築すれば、都市・地域を再起動できるのではないだろうか?


エネルギー・文化研究所 所長 池永寛明)


日経新聞社COMEMO  220日掲載分(改)

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