CELは、Daigasグループが将来にわたり社会のお役に立つ存在であり続けることができるように研究を続けています。

エネルギー・文化研究

  • サイトマップ
  • お問い合わせ
  • 大阪ガス総合トップ
  • 大阪ガス

JP/EN

Home>コラム

コラム

コラム一覧へ

2020年01月21日 by 池永 寛明

【交流篇】ひっぺはがしあい― タマネギ理論(上)


タマネギの皮を一枚ずつはがしていくと、最後は芯になる。ある商品の競争戦略は他社のモノをひっぺはがすことだと考え、ひっぺはがし合戦をしていると、最後にはタマネギのようにはがすものがなくなる。こりゃ大変だと思って、はがしたものをあわててひろおうとしたら、すでに知らない人が食べている。日本企業どうしで、ひっぺはがしあいをしていったら、知らないうちに海外企業がそれをひろっていた…このようにリプレースや置き換えばかりしていたら中身がなくなってしまったということが増えている。


もしもコンビニエンスストアが24時間営業をやめたら、なににリプレースされるかというと、必要なものを家にストックしておこうとするかもしれないし、ウーバーイーツなどで家に食べ物をはこんでもらうという形にリプレースされるかもしれないし、工場から直送してもらうこともおこるかもしれない。なにかへの置き換えが次々とおこる。そうしているうちに、そもそも店舗を24時間あけている意味がなくなっていく。このようにして市場は変わる。


失われた30年、これから人口が減少する、少子高齢社会になる、AI時代になる。ではどうしたらいいのか。どのような新しい産業をつくったらいいのか、新たなビジネスをどううんだらいいのかという議論がいろいろなところでおこなわれている。


ともすれば、議論は今あるものからの置き換え、今ある産業の売上を奪いとるという発想から議論がスタートする。新しいモノやコトをつくろうというが、これまであったモノやコトの「既得権益」をはがそう奪いとろうという発想になりがちである。今、それを買ってくれる人がいてメシが食えているのだから、それに近いモノやコトをつくったらメシは食えるだろうと安易に考えて事業をたちあげる人・会社が多い。


規制緩和したらいいのだという人もいる。
しかし規制緩和された市場への新規参入の発想はもともとのモノやコトをひっぺはがすことにあって、お客さまにとってはなにも新しい価値をうみださないことが多い。それでは真水は増えない。


従業員募集に困っていた時代に、雑誌で募集して人を集めることを発想した会社がでてきて、大きくなった。この仕組みを考えた会社は長い間、人材を確保するための採用コストを独占していた。その後、ITの普及に伴い、ITを活用した人材募集ビジネスに参入する会社が増え、ひっぺはがしあいが繰り広げられる。これはどういうことか。労働力を確保するコストの内訳が変わっただけである。それを新産業といったり新ビジネスといったりして持て囃したりすることがあるが、そうではない。基本はこれまでのモノとコトをひっぺはがしただけである。

象徴的なのが広告の世界。
ITによる広告がテレビ広告の売上を抜いた。広告は広告代理店・クリエイターの世界だという時代は終わった。ITでワンクリックで広告できるようになり、だれもがクリエイターになって発信できるようになった。それもチラシ・新聞など紙媒体で配れる範囲から放送が届く範囲となり、パソコンやスマホで日本中そして世界中に発信できるようになった。世の中は1億総クリエイターになれ、コピーライターになれ、デザイナーになれ、編集者になれるようになった。今や企業がつくる広告よりも、世の中のほうがずっと安くクリエイトでシャープで新鮮でセンスのいいモノやコトを発信できるようにもなった。それは大きな変化であるが、これも企業の広告費の仕切りが変わっただけで、新産業、新ビジネスとはいえない。

 

ITを使うからといって、新産業、新ビジネスとはいえない。
スマホを使うウーバーイーツはスマホで注文された料理をお客さまに運ぶが、昔からある「出前」と本質は変わらない。中古車販売情報も結婚式情報も不動産情報も、ITを用いることで便利になったが、そもそも既存のモノやコトからの置き換えにすぎなく、新産業とはいえない。なにが新しいかというと、そのモノやコトを実現しているITのソフトウェア技術である。IT産業の本質はソフトウェアであり、プログラマーの力である。


街のインフラとなったコンビニエンスストアも、24時間営業問題を通じて見えてきたのは、コンビニの本質は「物売り」であるということ。コンビニビジネスを考える視点として大切なのは、コンビニは既存の小売りの商売を奪いとっただけで、社会の仕組みを変えたわけではないということ。コンビニは、ITやロジステックにかかわる仕事を増やしたが、既存の卸の仕事を減らした。コンビニという商売ができたことで、仕事を増やした会社と仕事を減らした会社があるが、社会全体のなかでどっちが多いのかという視点が1点。

それともうひとつ大切な視点がある。逆説的であるが、新しいビジネスがうまれればうまれるだけ、社会は活力をなくすということ。なぜならば古いビジネスをひっぺはがして新しいビジネスがうまれ、仕事が増えたり減ったりする。プレイヤーも、日本から世界に広がった。この30年の日本は、IT化に伴う生産性向上で総量として仕事量が減り、雇用数・売上高を減らした。このように「ビジネスの形」によって社会の活力を失わせることがある。


そうではなく、真水を増やすこと。
なにかの差し替え、なにかからの置き換え・リプレースではなく、本当の新しい産業・ビジネスをつくる。どこかからひっぺはがしてくるではなく、いままでなかったこと、お客さまにとっての価値あるモノ・コトをつくりあげることが、新たな売り上げ・雇用をうむ。では、どうしたらいいのか。


ラグビーがいい例。ワールドカップの日本ラグビー・ワンチームがトップリーグに新たな観客を呼び込んでいる。これである。真水が増えた。じゃ、真水を増やすために、どうしたらいい?それは次週。


〔タマネギ理論(下)につづく〕



(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO 1月17日掲載分〕