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2019年10月15日 by 池永 寛明

【場会篇】“台風一過”で見たまちの風景 ― 出ないと入れない


関東を直撃した台風15号に向かって、新大阪から東京に向かう新幹線に乗った。出発定刻時間16分遅れで新大阪駅を出発し小田原まで順調に走行したものの、小田原から「匍匐(ほふく)前進」のように、走っては停まり、停まっては走るの繰り返しとなり、遅々として進まない。小田原から時間がどんどん進む。どこかで事故があっても処理がすめば走りつづけるだろうが、その日はそうではなかった。ちょっとずつ進み、停まる。「前を走る新幹線が混在しています」とアナウンス。前を走る新幹線が駅に着いて乗客をおろせないから、駅と駅の間に新幹線が停まる。西からどんどん新幹線が来て、“数珠つなぎ”になっていく。業を煮やした人が新横浜駅で降りて東京に向かおうとするが、横浜でふんづまる。JR東海道本線がとまっていた。“急がば回れ”と新幹線の座席に座って、76分遅れで品川駅で降りた。品川駅で大混雑の山手線のプラットフォームに並び、乗り換えて、ぎゅう詰めで新橋駅に着き、定刻1時間遅れで入った会議室には一人しか来ていなかった。


台風が来る直前の日曜日の21時の新橋のコンビニは、店内の通路に人が通れないくらいにモノが並んでいたという。台風が通りすぎると、「普通の日」になる。しかも暑くなり、ジュースや冷たいモノが売れるとコンビニ本部が予測して、台風で流通が乱れることを見越して、ロジステックが機能している前日夕方に、モノを「先入れ」したから、モノがバックヤードに入りきれず、通路まであふれていた。


月曜日朝の新橋は静まりかえっていた。新橋駅前のSL広場を歩く人はまばらで、多くの店が閉じていた。町は完全に休んでいた。「山手線は8時まで計画運休する」と前日にアナウンスされており、それを基準に行動した人が多い。喫茶店なども10時まで営業をストップ。スタッフがお店に出てこれないだけでなく食材のデリバリーが停滞したので、開けられない店が多かった。


いつも以上に「昼食難民」が発生した。昼間も営業できない店が多かった。昼の食材が朝の時間帯に入ってこなかったので、昼の営業ができなかった店も多く、ロジステックの強いチェーン店に行列ができていた。


このように「モノが入ってこなければ、流れない」が物流の基本原則で漁に出たが魚がとれなかったら、寿司屋はお寿司を出せない。物の流れの原則2点目は、色々なところから入ってくると、ふん詰まって流れなくなる。「流路」を交通整理しないと、二進も三進もいかなくなり、動けなくなる。交通渋滞がその典型例。

そしてモノの流れの原則3点目は「出口」がないと、モノは流れない、モノを入れられなくなる。今回の台風15号で起こったことは、「出ない(流出しない)と、入れない」ということ。逆にいえば、入るためには出さなければならない。


人の「流出」とは、乗客が交通インフラ(駅)から町に出ること。山手線には新幹線やJR他線や地下鉄や私鉄が毛細血管がごとくに接続しているから、山手線が停まると、他の電車は乗客を降ろせなくなり、連鎖的に電車を動かせなくなる。それぞれの線(流路)がリアルタイムに連絡・調整されているわけではないが、平時は乗客の「創意工夫」で乗り換えが円滑に機能する。「東京」は、この東京における山手線の持つ分配機能をどれだけ理解して、「もしも山手線が止まったらどうなるのか」ということを、「東京」はどれだけ想定しているのだろうか。


台風一過で、山手線をはじめ多くの駅に人が殺到し、立錐の余地もないくらいプラットフォームに人が立ち、車内はぎゅう詰めとなった。拠点ターミナルの駅から降りて、交通インフラである駅の外に出る人もいるけれど、山手線は新幹線や私鉄や地下鉄からトランジット、トランスファーする人が圧倒的に多く、山手線の各駅に人が溢れ、駅に入れない人が続出した。だから新幹線の乗客を品川で次々と降ろしてしまうと、パニックに輪をかける。だから乗客を降ろせない。乗客を降ろせないと、次の電車が駅に入れない。前に行けないと、後ろの電車が前に進めない。 「流出がストップすると、流入できない」という現象が起こった。東京の交通フローは極めて高度にできているけれども、3つの法則のひとつ「出る人が交通インフラ(駅)から出れなくなると、交通インフラ(駅)に入れなくなる」ことが今回おこった。このタイミングで大地震や火災が発生したら、どうなったのだろうかと感じた。


“東京は人が多いから…”と思考停止すると、問題の本質を読み違える。逃げ道がないとか、リダンダンシーとかいう問題ではなくて、東京は「捌(さば)ける」ことを前提に都市システムが設計されていて、「捌(さば)けないことが起こる」とはこれまで考えられてこなかったのではないか。人の流れ「人流」を円滑に捌(さば)くことを目的として交通システムがつくられ、平時は極めて精巧に運用されていた。それが1分たりとも遅れない交通システムをつくりあげてきたが、今回の台風で浮き彫りとなった人流を捌(さば)けない理由は「流路」の問題だった。東京の交通システムは接続とか集中とか分散といった問題を最適化する交通システムを組み立ててきた。しかし今回の台風でおこったような「出口から出られない」、「乗り換えるため降りたいのに降りられない」という「流路」の課題を想定してこなかったかもしれない。


「出ないと入れない・動けない」という課題を解決する策のひとつが交通システムからオフバランスさせることだが、代替交通システムへのシフトはおすすめできても、品川から新橋に電車で行こうとしている人に、”品川で降りて新橋まで歩いて行ってください”とはいえない。いえないとなると、どうなるのかというと、時間をかけて調整する。つまりお客さまには時間をかけて、問題が解決するまで待ってもらう。しかしそもそも台風の日に、定時に、仕事や授業をおこなう必要があったのか。駅内外で待っている人の大半は「スマホ」を操作していた。仕事・働き方の仕組み自体がかつてと根本的に変わっているのに、通勤・通学の形はかつてのままで、全員が「定時に」、「会社」「職場」に行かねばならないと行動していたが、スマホのように弾力的・柔軟的に変えるべきではないだろうか。そもそも交通システム内だけで解決案を考えるのではなく、交通システム外の仕組みを総動員して、意識改革を含めて考え直す必要があるのではないだろうかと台風一過のまちで感じた。


(エネルギー・文化研究所 顧問 池永寛明)


〔日経新聞社COMEMO  9月11日掲載分〕

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